オープンソースのAPI管理プラットフォーム「Tyk」導入事例メリットは料金だけではない

1日当たり140億回のAPI呼び出しを必要とするHotelbedsは、API処理のコスト増に悩んでいた。リクエスト数に依存しない料金体系のTykはコストの大幅な削減を実現したが、他にも多くのメリットがあった。

2020年11月05日 08時00分 公開
[Sebastian Klovig SkeltonComputer Weekly]

 宿泊施設のリストや旅行関連の補助製品を扱うHotelbedsは、全世界140の市場で6万社の旅行代理店と連携し、18万以上のホテルの顧客にサービスを提供している。

 Hotelbedsが利用していたのはSaaSのAPI管理ソリューションだった。このサービスはリクエストごとに課金する料金体系だったため、Hotelbedsが2017年にTourico HolidaysとGTAを買収し、APIトラフィックが倍増したことで問題化した。

 Hotelbedsは1日当たり140億回のAPI呼び出しを処理する必要がある。そのため、APIの作成サービスや一般的なサービス双方のコストを削減し、レガシートラフィックを処理できるAPI管理ソリューションへの移行が必要だった。

 Hotelbedsは2018年を通じて13のAPI管理ソリューションを慎重に審査した結果、2019年3月にオープンソースのAPI管理ソリューション「Tyk」への取り組みを開始した。

 Hotelbedsで製品管理部門の責任者を務めるカルロス・バウティスタ・サン・ミゲル氏によると、他のベンダーを上回るTykのメリットはそのライセンスモデルにあるという。Tykは、API呼び出し数やユーザー数ではなくデプロイ数に基づく課金体系を採用している。

 「これまでのシステムでもHotelbedsとしては問題なく、目的は果たしていた。だが、その目的のために必要なコストは非常に高価だった。同時に、速度と効率の点でHotelbedsが期待するほどのパフォーマンスは得られていなかった」とTyk Technologiesの共同設立者兼CEOのマーティン・ブール氏は本誌のインタビューに答えて語った。

 「Hotelbedsは世界最大のベッドデータベースを所持しており、同社が代理店に結果を返すのに許容できる遅延時間に極めて厳しいしきい値を設定している。同社は世界中に多くの代理店を擁している。中には非常に古いシステムを利用している保守的な代理店もあれば、最新のシステムを利用する代理店もある。そのため同社が保護、管理するエコシステムは実に幅広い。つまり同社は、本質的にAPIのAPIに相当する」

 Tykを通じて利用可能なカスタマイズと詳細分析のレベルもHotelbedsにとってはメリットがあった。管理プラットフォームでネイティブに機能する広範なカスタムプラグインをHotelbedsが開発でき、事業部門にあった多くのデータサイロを結び付けることができたためだ。

 「公開した全てのAPIは認証メカニズムを備えており、そのメカニズムによって完全にカバーされている。Tykソリューションは当社のシステムに完全に統合されるため、当社は絶対的な安定性を手に入れ、それ以上管理に頭を悩ませることがなくなった。トラフィック内に機能を組み込むのも当社にとっては簡単だった。システムはスケーラブルで、当社が運営する複数のさまざまなリージョンでシステムを機能させることができた」(バウティスタ氏)

 Tykの分析が提供する柔軟性と応答性も評判が良かった。Hotelbedsチームがそれまで使っていたツールは、分析データを得るのに30分も待たなければならなかった。

 「トラフィックの量が非常に多いので、このような待ち時間の影響は大きくなる。HotelbedsがDDoS(分散型サービス拒否)攻撃、APIスクレイピング、APIキーの誤用などの問題に対応し、サービスの品質を確保できるようにする上でTykのリアルタイム分析は非常に貴重だった」

安全なコラボレーション

 ブール氏によると、HotelbedsはTykのカスタマイズ可能な「社内開発者ポータル」を使ってチームのコラボレーション効率を大幅に向上させたという。その際、チームは「Slack」の非公式グループなど、シャドーITチャネルを通じてセキュリティ資格情報を共有できないようにした。

 「チームは、チームの機能とチームが所持する全てのサービスを登録し、他部門の開発者が自由に利用できるようにする計画を公開した」とブール氏は話す。

 開発者が必要なAPIとその理由を提示して承認を求めると、承認プロセスを経てAPIの資格情報がセキュアな方法で開発者に提供される。この方法なら全てが監査されるため、何が行われているかを誰もが認識できる。

 「既知で公開済みのインタフェースにより、はるかに優れたチーム間コラボレーション環境が実現する。メールでやりとりされる資格情報へのぎこちないアクセスとは対照的だ」

 プロプライエタリソフトウェアを使うよりもオープンソースの方が長期的な安定性を確保できるという点で、バウティスタ氏とブール氏の意見は一致している。

 「Tykがオープンソースであることは、Tyk Technologiesに何が起きたとしてもそのコードやコミュニティーにHotelbedsのチームがアクセスできることを意味する。これにより、安定性と永続性が実現する」とバウティスタ氏は話す。

 TykはオープンソースなのでHotelbedsはそのコードに貢献し、独自に管理できる。企業間で大規模な管理契約を結ぶことなくTykのメインラインのリリースサイクルに従って最新状態を保つことができる。

 ブール氏は、オープンソースに移行する大きなメリットは顧客に信頼感を与えることだとして次のように補足した。「顧客は『貴社のソフトウェアを導入したいし、10年後もサポートが続くことを期待する』と言いたいが、普通のスタートアップ企業はそれを約束できない。だがオープンソースのスタートアップ企業なら、『当社のコードの90%は既にパブリックドメインにあるため、たとえ当社がなくなってもソフトウェアは生き残る』と言うことが可能だ」

 オープンソースは小企業の活躍の場を公平に保つのにも役立つと同氏は話す。小企業がオープンなエコシステムの一員になることで、長期にわたる購入とエンゲージメントのプロセスを経ることなく大企業レベルの品質への道が提供されるためだ。

 2020年1月、Tykは英国の起業家ネットワークTech Nationの「第5回Upscaleプログラム」の一員に選ばれた。このプログラムは、参加する企業のスケールアップを相互にサポートするピア・ツー・ピアの企業ネットワークを作成することを目的に設計されている。

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