Raspberry Piが育んだ15歳の企業家の夢若者が語る低価格コンピュータの重要性

Raspberry Piの誕生から8年。この低価格コンピュータを手にした子供たちの中から企業家が生まれ始めている。15歳の若者が語る取り組みと将来の夢、低価格コンピュータがもたらす可能性とは。

2020年11月06日 08時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]

 今では2GBのメモリを実装した「Raspberry Pi 4」がわずか35ドル(約3700円)で手に入る。Raspberry Piは安価な回路基板のように思えるが、「Linux」と「Windows 10 IoT Core」を実行できる極めて汎用(はんよう)性の高いコンピュータだ。Raspberry Pi Foundationは2012年2月にRaspberry Piをリリースする際、コンピューティングの創造性を発揮するために使える空白のキャンバスを子供たちに与えたいと望んでいた。

 「子供たちは初めてプログラムを作って何かを生み出し、達成感を得ることができるだろう」と、Raspberry Piの共同設立者ロバート・マリンズ氏は2013年に本誌のインタビューに答えて語っていた。

非接触型医療モニター

 Raspberry Piでコーディングの楽しみを見つけた1人がアダルシュ・アンバティ氏だ。サンノゼ出身の15歳の学生(訳注)は、Raspberry Piをベースとする機器を数多く開発している。

訳注:日本の学校教育法では「生徒」(中学・高校生)に相当する年齢だが、海外の話でもあり本稿では「student」を便宜上「学生」(日本の学校教育法上は大学生のこと)とした。

 コンピュータのプログラミングスキルを習得するのは恐らく難しい。だが、アンバティ氏によると、子供たちにプログラミングやハードウェアへの関心を持たせるためには、学校でプログラミングを教えるだけでなく無料のオンラインリソースやコーディングクラブが鍵になるという。

 アンバティ氏が初めてRaspberry Piを使ってプログラミングしたのは中学校時代だ。「初めてプログラミングを経験したのは4年生だった。幸いにも、コンピュータサイエンスの初期教育を提供する学校に通っていた」と同氏は話す。同氏が最初に使ったプログラミング言語は「Scratch」だった。この言語は、子供たちのプログラミングの入門編として使われることが多い。

 少数のシンプルなブロックを使ってグラフィックスキャラクターを動き回らせることができるのに驚いたとアンバティ氏は話す。同氏はScratchで数年プログラミングした後、「Python」を学び始めた。「Pythonで初めて作ったのは、皆と同じ『Hello, World!』プログラムだった。コンピュータが『Hello, World!』という言葉を吐き出すのを見たとき、実際にコンピュータと直接対話しているような感覚になった」

 Raspberry Piを使ったきっかけを尋ねられたアンバティ氏は次のように答えた。

 「6年生のとき、兄に連れられて地元のコミュニティーラボのBioCuriousに行った。そこは訓練を受けたメンターの指導の下、11歳の科学愛好家たちが基礎研究を進めることができる場所だった」

 アンバティ氏はBioCuriousに通って、Raspberry Piを使った最初のプロジェクトに着手した。それはスマートスプリンクラーシステムだった。その後、同氏の母親が心臓手術を受けた。同氏の母親は手術からの回復を待つ間、押し付けがましいモニターに縛り付けられているとますます気分が悪くなるとこぼした。

 「モニターのケーブルが病気の回復を妨げるという母親の体験から、Raspberry Piを使って非接触型のバイタルサインモニターを作ろうと決めた」と同氏は話す。

 アンバティ氏がRaspberry Piを選んだのは低価格でプログラムが容易だからだ。このプロジェクトは、Raspberry Pi Foundationの若者向け「Coolest Projects(最もクールなプロジェクト)(https://online.coolestprojects.org/projects/365)」技術フェアで紹介された。ベンチャーキャピタルPear VCの一部である「Pear Garage」にも選ばれて参加している。Pear Garageは、学生エンジニアがアイデアをビジネスにするのを支援することを目的とする。

 「現在はプロジェクトで非接触型バイタルサインモニターの精度を上げることに取り組みながら、会社を立ち上げて運営する最善の方法を学んでいる」と同氏は話す。

 アンバティ氏は今後の開発で、オイラーの動画拡大技法を使ってモニターの精度を上げることを目指している。この技法は動画の色や動きの微妙な変化を視覚化するもので、人間の皮膚の色を調べて血液の循環を監視することに応用できる。アンバティ氏はさらにコストを下げてセキュリティプロトコルを実装するため、「Raspberry PI Zero」ベースのバージョンも計画している。

 「このモニターは患者の健康に役立つだけでなく、医療従事者を保護するのにも役立つ。このプロジェクトは非常に興味深いと考え、新たなレベルに進めたいと望んでいる」と同氏は語る。

 アンバティ氏が学問的に自信を持っている科目は、生物学、数学、コンピュータプログラミングだが、環境にも強い情熱を持っている。そのため、同氏は生物情報学の複数の学問分野に興味をかき立てられている。アンバティ氏は将来のキャリアについて、生物情報学のスキルを育てて環境科学や生態学の分野に応用することを希望している。

 Raspberry Piは、子供たちをプログラミングやハードウェア開発に導く低価格機器の扉を開いた。

 「子供たちの興味をかき立てることは、その子供たちを成功へと導くためだけでなく人類全体にとっても絶対に不可欠だと考えている。現在の世界には、気候変動からパンデミックまで、多くの問題が存在する。こうした問題を解決するには、プログラミングとコンピュータが非常に効果的だ。ただし若者がこうした問題から目を背けることを選ぶなら、そうした問題は解決不可能になるほど拡大する一方だろう」(アンバティ氏)

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