アプリケーションのモダナイゼーションに際しての課題の一つに、旧システムの知識がある。メインフレームで運用していたデータベースを最新のデータウェアハウスに移行するのは困難を伴った。
アナリスト企業Gartnerによると、現在のアプリケーションの90%は2025年まで使い続けられ、十分にモダナイズされない状態が続くという。
企業にモダナイゼーションを迫る要因は多い。注意を要するのは、会社を分割(つまり事業を売却)した後、システムを置き換える必要が生じたときだ。
Legal & General(以下、L&G)は、2019年5月に損害保険事業をAllianzに売却すると発表したときにこの問題に直面した。ピーター・ジャクソン氏がデータサイエンス部門のグループディレクターとしてL&Gに入社したのは2018年。同氏が任されたのはビジネスのデータ条件をサポートすることだった。
損害保険部門の売却により、L&Gは既存のシステムを破棄する必要が生じた。これがデータウェアハウス戦略を見直すきっかけとなった。
L&Gは、SAS InstituteのETL(抽出、変換、読み込み)ツールの複数ライセンスに費やす時間と費用を削減したいと考えていた。ジャクソン氏が立てた全体戦略は、L&Gのデータ管理を統合アプローチに移行することだった。最も差し迫った課題は、損害保険事業売却後のL&Gのデータニーズをどのようにサポートするかだ。問題となるデータは、メインフレームの「IBM Db2」に収容されている顧客データベースだ。L&Gは顧客のマーケティングに使えるデータを切り出したいと考えていた。「メインフレームのデータを素早く抽出してETLツールに展開する必要があった」とジャクソン氏は話す。
そのツールは、メインフレームのDb2に接続して「Microsoft SQL Server」ベースのデータウェアハウスにデータを抽出する必要がある。ジャクソン氏がETLツールとして選んだのは「WhereScape」だ。WhereScapeのメリットの一つは、ETLプロセスの一環としてデータウェアハウスを自動作成する点にある。
L&Gは多くの企業と同様、自社のITをアウトソーシングしていた。新しいプロジェクトではメインフレームのDb2を理解し、メインフレームのデータとそのメタデータ、その使用方法の関係を把握する必要があった。「数百万行のデータがあった。チームはSQL Serverを理解しなければならず、かなり多くのDb2スキルも必要だった」とジャクソン氏は話す。同氏は、メインフレームとSQL Serverの専門知識を再構築するために社内チームのスキルアップが最善の方法だと決めた。
このプロジェクトでは、同社が以前使っていたETLツールでWhereScapeが生成した結果を検証できるというメリットがあったとして、ジャクソン氏は次のように話した。
「運用アプリケーション用に比較せずに新しいデータを抽出することもあった。今回は以前のETLと新しいETLの出力を比較して監査できたのでリスクは非常に低かった」
メインフレームのデータをSQL Serverに移行するプロセスを終えた今、パフォーマンスの向上を目指してデータを他の場所に移行する段階になっているとジャクソン氏は話す。
ドイツの電力会社RWEは既存のITを置き換える必要があった。そのため、同社は将来を見据えたITバックボーンを構築している。ITバックボーンに「Microsoft Azure」ベースの新たなインフラを統合し、デスクトップは「Windows 7」から「Windows 10」に更新して「Office 365」を展開する。同社は数百万ポンドを投じるモダナイゼーションプロジェクトをAvanadeに依頼した。このプロジェクトでは、新たなITインフラのセットアップ、2万人のWindows 10移行が含まれる。
RWEでインフラの責任者を務めるエドワード・バウマンズ氏は戦略について次のように説明する。「今日のエネルギー業界で成功を収めるには、圧倒的な速度と応答性が必要になる。組織的な変化が必要なとき、即応できる柔軟な運用環境を構築することも重要だ。当社には新しいIT運用モデルが必要だ。だが、競争が激しいエネルギー分野で将来の成長を支えるにはクラウドベースの最新アーキテクチャも必要になる。クラウドベースの新しい職場環境は、当社のアジャイルエンタープライズを構築し、RWEの将来に備えるための完璧な基盤を提供するだろう」
プロジェクトが開始されたのは2年前。このプロジェクトでは、長年運用しているレガシーActive Directoryを新しいグリーンフィールドIT環境に移行する価値があるかどうかを評価する必要があったとして、バウマンズ氏は次のように話す。「その移行は悪夢のようなものだった。Active DirectoryをAzure Active Directoryに迅速に移行できたため、グリーンフィールドアプローチは適切だったと考える」
RWEはアプリケーションをクラウドに移行し、クラウドファーストの戦略を取りたいと考えている。だが同社のバックエンドアプリケーションの一部を運用するための新たなオンプレミスサーバもまだ必要だ。バウマンズ氏は次のように話す。「できる限り多くクラウドを利用したいと考えている。だが、一定時間内に事業を分割しなければならず、期限がある。スピードが重要だ」
2020年末には関連ネットワークとセキュリティをセットアップし、再生可能エネルギー事業を合併に持ち込み、Windows 10に移行する必要があると同氏は語る。バウマンズ氏はそれが簡単な仕事ではないことを認めている。同社はビッグバンアプローチを採用している。同氏は次のように話す。「このようなアプローチを取るべきではない。だが、それが可能であることを証明したい。当社の技術インフラは整っている。2020年1月には最初の1000ユーザーの移行を済ませた」
後編(Computer Weekly日本語版 6月3日号掲載予定)では、SPARCサーバのSolarisで運用しているWebLogicアプリケーションやAlpha AXPサーバのTru64 UNIXで運用しているデータベースのモダナイゼーション事例を中心に解説する。
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