2020年05月29日 08時00分 公開
特集/連載

クラウドファーストは時代後れ――クラウドへの集約とエッジへの分散Computer Weekly製品ガイド

エッジコンピューティングはIT業界で最も重要なトレンドの一つであり、クラウドに取って代わるかもしれないという見方もある。

[Dan Robinson,Computer Weekly]
iStock.com/metamorworks

 エッジコンピューティングとは何かという具体的な定義がなく、宣伝過剰な場合も多い。

 エッジコンピューティングは簡単に言うと、データセンターやクラウドで全てを一元化するのではなく、ネットワークのエッジで行われる何らかの処理と意思決定を伴うものと定義できる。これは、全てのIT機能がいずれクラウドでホスティングされるようになるという一般的な見方に反する。一部には、エッジコンピューティングがクラウドに取って代わるという見方さえある。

 クラウドとエッジコンピューティングはそれぞれ違うニーズに対応しており、両者は共存する。調査会社IDCによると、この2つのアプローチは相互を補完するものであり、「スマートかつインテリジェントな方法で」相互に作用する。同社は「The technology impacts of edge computing in Europe」という報告書の中で、2020年には欧州の組織が導入するクラウドの50%以上にエッジコンピューティングが含まれるようになり、エンドポイントデバイスやシステムの20%が人工知能(AI)アルゴリズムを実行するようになると予測した。

 エッジコンピューティングの原動力となっている要素の一つがIoTであり、これがあらゆる種類の新しいコネクテッドデバイスをネットワークにもたらしている。

 エッジコンピューティングの用途には、産業オートメーション、自動運転車、スマートホーム、石油およびガス探査施設に搭載される自動化システム、5Gネットワークインフラなどがある。

 中でも5Gは好例だ。5Gは携帯電話基地局に接続できる端末の数が大幅に増えることから、多くのIoTデプロイにおいて重要な役割が期待される。それだけでなく、5Gネットワークを運営するために必要な処理能力という点で、携帯電話基地局はミニチュアデータセンター化が進む。

エッジのデータ

 クラウドに全て一元化した方が処理効率は高いように思えるが、レイテンシ、つまりデータをネットワークで転送して反応が返ってくるまでの遅れを考えると、このアイデアは問題に突き当たる。

 つまり、データが生成された地点で処理して対処する必要が生じる場合もある。例えばスマート工場で機械をモニターしているセンサーが、即座に対処すべき深刻な問題を発見することもある。

 一部のアプリケーションによって生成されるデータの量も急増している。例えば、自動運転車のテストでは1日当たり8T〜10TBのデータが生成されることもある。多くの場合、全てをクラウドに伝送するのは現実的な選択肢ではないと、Seagate Technologyの執行副社長兼執行責任者、ジェフ・ナイガード氏は言う。

 「エンドポイントやエッジからクラウドにデータを移動させる経路は無料ではない。そのパイプラインを経由するデータ送信には料金がかかる。つまり、データを動かすのはそのデータを動かす必要がある場合に限るということだ。どのようなアーキテクチャを構築したのか、そのデータからどう価値を引き出すのかについて考えなければならない」。ナイガード氏はエッジコンピューティングに関するパネルディスカッションでそう語った。

 そうした理由から、多くの状況においてデータがエッジで生成された時点で分析することは理にかなう。そのためには、そのデータを分析できるもっとパワフルなハードウェアが必要になる。こうしてエッジシステムは、センサー群を管理する比較的単純なエッジゲートウェイから、本格的なサーバとマイクロデータセンターさえも含むものへと拡張した。

 こうした見方は、調査会社Ovumが報告書「Defining the market for edge and edge cloud」で指摘した内容とも一致する。Ovumによると、「ニアエッジ」は従来型のサーバとストレージまたはハイパーコンバージドインフラ(HCI)がベースとされ、「アウターエッジ」はゲートウェイデバイスで構成される。後者はアップグレードが必要になったときに単純に入れ替えられるよう、フル管理型とする。

 マイクロデータセンターは、1台または複数のラックで構成される設備で、サーバ、ストレージ、ネットワーク機器と電力および冷却システムを格納する。つまりこの設備は、通常のデータセンターのラックに収められるIT機器を格納し、工場や石油採掘施設、あるいはそれなりの演算処理能力が求められる場所に設置される。

 こうした設備はSchneider ElectricやRittalのようなサプライヤーが提供している他、HPEやDell EMCといった大手ITサプライヤーからも調達できる。そうした各社は当然ながら、自分たちのサーバやストレージ、ネットワーク機器で構成されたシステムの売り込みに余念がない。

 ただ、データの処理をエッジで行うのかクラウドで行うのかはアプリケーション次第であり、この2つは互いを排除する関係にはないという認識も重要だ。例えばエッジコンピューティングでは、データをフィルターにかけて処理してからクラウドに送ることもできる。クラウドは、将来的な分析のために複数のエッジサイトからのデータを集める中央の拠点としての役割を果たすこともできる。

エッジのAI

 エッジシステムは分析に加えて、例えば視覚認識や工場の生産ラインで欠陥を見つけ出すための点検など、困難な作業をこなすことが求められる場面も増えている。そうした作業はスピーディーに結果を出すために、ディープラーニングなどのAI技術が使われることもある。そのためにはGPUやFPGAのようなハードウェアアクセラレーターが必要になるかもしれない。

 GPUメーカーのNVIDIAは2019年、GPUとKubernetesを取り入れたソフトウェアスタック、コンテナランタイム、コンテナ化されたAIフレームワークを組み合わせ、標準的なサーバハードウェアで実行できるエッジプラットフォーム「NVIDIA EGX」を発表した。

 NVIDIAはEGXを、高速化されたAIコンピューティングパワーと簡単にデプロイできるクラウドネイティブソフトウェアスタックをエッジにもたらす製品と位置付ける。EGXのパートナーにはHPE、Dell EMC、富士通、Cisco Systems、Super Micro Computerなどが名を連ねる。

 新しいアプリケーションやサービスも、エッジコンピューティングの発展を突き動かしている。例えば広帯域ストリーミングビデオ需要を受けて、サービス事業者は顧客に近いデータセンターでローカルにコンテンツをキャッシュするようになっている。

 Amazon Web Services(AWS)は2019年12月、まさにこの理由から主要都市の近くに一連のハイパーローカルデータセンターハブを構築する計画を発表した。AWSが「Local Zones」と命名したこうしたハブは、レイテンシに敏感なワークロードを持つ企業を引き付ける狙いがあり、AWSの大型リージョナル施設ではなく小規模なデータセンターに設置される。

課題と見返り

 当然ながら、エッジコンピューティングには潜在的な問題もある。多数の場所でデータの収集と分析を行うということは、設定やモニターが必要な場所が増えるということであり、その全てで複雑さが増す。また、エッジコンピューティングは分散しているという性質上、障害が起きても対応できる技術者が常にその場にいるとは限らない。

 エッジコンピューティングはネットワークにも影響を及ぼす。エッジでの処理が増えれば、ネットワーク帯域幅はこの変化に対する重点的な対応を強いられる。IDCによると、エッジコンピューティングは直接的にネットワークの重要性、特に非ローカライズされたネットワークの重要性を高める。エッジコンピューティングではまた、ネットワークの分析、管理、オーケストレーションの方法にもイノベーションが求められる。

 セキュリティは全てのITインフラにとって明らかな課題だが、エッジコンピューティングは無人の遠隔地で運用される可能性もあることから、ハードウェアの物理的なセキュリティはサイバー攻撃の可能性と同じくらい懸念される。さらに、アクセス管理や保存されているデータと移動中のデータの保護は一層重要性が増す。

 管理問題としては、アプリケーションのアップデートをエッジのハードウェアに安全に届ける必要性に加え、問題発生時にリモートで診断して修正できるようにする必要もある。

 Ovumによると、運用管理はエッジコンピューティング専用製品ではなく、既存の運用管理市場の延長になる可能性が大きい。エッジでのオーケストレーションはマルチクラウド管理市場の拡張の一環になると同社は予想し、この市場は2022年までに110億ドル(約1兆2000億円)規模になると見込んでいる。

 エッジコンピューティングで重要なこととして、これはクラウドに取って代わるものではなく、だが場合によってはクラウドをデータが生成される場所へと近づけるものとも考えられる。その目的は、レイテンシに敏感で大量の処理能力が求められる新興のワークロード、あるいはデータ量があまりに多くクラウドに全てを転送するのが非現実的なワークロードを支えることにある。その全てが新たな課題を浮上させる半面、それをうまくやれる組織には恩恵をもたらし得る。

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