2020年06月03日 08時00分 公開
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エッジコンピューティングとは何か、何が変わるのかComputer Weekly製品ガイド

オフィスエッジとモバイルエッジの次に来るのは産業エッジだ。コンピューティングパラダイムのシフトについて解説する。

[Cliff Saran,Computer Weekly]
iStock.com/NatalyaBurova

 エッジコンピューティングとは、人のためではなく機器のためにアプリケーションを開発することを意味する。従ってITでも運用でも、自分たちの関係についての再考を迫られる。

 Freeform Dynamicsは富士通のための報告書「Industrial digital transformation」の中で、CIO(最高情報責任者)とCOO(最高業務執行責任者)にとっての課題として運用技術がもはや孤立した存在ではなくなったことを挙げている。「Industry 4.0のスマート工場とはつながる工場だ。スマート機械は産業用モノのインターネット(IoT)に接続され、組織全体およびサプライチェーン、そして潜在的にはその先の世界とも通信しなければならない」。同報告書はそう指摘する。

 「車両群や病院周辺の医療機器、在庫管理システムなどにも同じことが言える。こうした分散していながら本質的につながっている技術のために、ITネットワークには新たなエッジが加わる。オフィスエッジとモバイルエッジの次に来るのは産業エッジだ」

 ただしこのエッジは、IT部門が従業員にPCやアプリケーション、スマートフォンを支給するオフィスエッジ&モバイルコンピューティングエッジとは大きく異なる。NutanixのIoT&人工知能(AI)担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー、サタヤム・バガーニ氏は「エッジが台頭すれば、重点の再配分を要求される」と語る。

 バガーニ氏によると、これは人が使う電子メールやWebブラウザ、ソーシャルメディアのようなアプリケーションから、大部分が機械指向のアプリケーションへと主な重点が切り替わるコンピューティングの一大パラダイムシフトを意味する。マシン対マシンのインタフェースは、生のデータをビジネス知見に変えるセンサーデータの処理やAI、分析技術の利用を可能にする。

 エッジコンピューティングをITに取り入れることを検討する際は、アーキテクチャや技術に関して対応しなければならない課題が多数ある。

 TIBCO SoftwareのCTO(最高技術責任者)ネルソン・ペトラセック氏は、エッジコンピューティングの活用を検討している組織に対し、プロセッサやメモリ、バッテリー持続時間、ストレージといった、機器そのものの性能を検討することから始めるよう助言する。ソフトウェア面では、OSやネットワークの安定性と性能、接続していないときに機器を稼働させる必要性などを検討する必要がある。

 アップロードとダウンロード両方のネットワーク速度、システムモニターの必要性、セキュリティ対策、運用管理センターからの距離に関連した機器の所在地、ソフトウェアのデプロイと更新の方法についても考える必要がある。

 「メンテナンスと継続的向上は興味深い課題であり、現状は(データ)モデルが必ずしもデータセンターやクラウドにデプロイされないまま、潜在的に何十万もの機器で実行されている状況にある。それ自体が興味深い課題を投げ掛ける。組織はもちろん、そうしたロジックをコンテナ化し、さまざまな技術を使ってエッジにプッシュ配信することもできる。だがセキュリティ以外の主な課題の一つは、10万台の機器にアップデートをプッシュ配信する場合、確実にアップデートを配信し、全て自ら更新させるにはどうすべきかということだ」(ペトラセック氏)

 同氏によると、分散した10万台の機器にインストールされたアップデートの撤回は、一元化されたクラウドプラットフォーム上のソフトウェア撤回とは大きく異なる課題を生じさせる。

 「この筋書きにおいて、組織はトランスフォーメーションと単純なストリーミングあるいはルールロジックをエッジに置くことを決めるかもしれない」と同氏。その後、何らかのゲートウェイが仲介役を果たし、エッジコンピューティングアプリケーションが必要とする中核的な機能を処理する。これで組織が何十万台ものエンドポイントを直接管理する必要はなくなり、数十台のゲートウェイを管理すれば済むようになるとペトラセック氏は解説する。

 アーキテクチャ的には、エッジで収集された生のIoT情報と、エッジデータモデルによって生成された結果の少なくとも一部あるいは全てが、クラウドへのアップロードを必要とする。「これによって、クラウドで何が起きたのかに関して単なる概要ではなく完全な理解が徹底される。データモデルが正しく実行されていないケースを洗い出すためのデータモデルの評価も可能になる」とペトラセック氏。

 データモデルが想定通り正確に機能しているかどうかを判断することが大切だとペトラセック氏は言う。それを実現するためには、エッジからクラウドに送信されるデータが増えている場面で折に触れて定期的なスナップショットを取って記録を残し、実行されているデータモデルが引き続き有効かどうか確認する方法がある。

 アーキテクチャ関連では電源についても検討する必要がある。この10年の間にデータセンターコンピューティングは省エネルギー化が進んだ。techUKのテクノロジー&イノベーション担当アソシエートディレクター、スー・デイリー氏は「5Gやエッジのような新興技術の融合が進めば、実質的に新しい形態の分散型ITが大きく成長する可能性がある」と語る。

AI、クラウド、エッジ

 デイリー氏によると、5Gとエッジサーバが実現するローカルでスピーディーな低レイテンシのデータ処理はIoT機器を実現し、製造業のような昔ながらの業界を変革させることができる。「将来的にはAIとクラウドとエッジコンピューティングが融合して、自動運転車の実用化に必要な車両と沿道のデジタルインフラを提供できるかもしれない」とデイリー氏は話す。

 ただし業界が考慮すべき重要な問題は、エッジでのデータ処理が増えることに伴うエネルギー面での影響だと同氏は言う。「この10年の間われわれは、データ収集と処理を含むIT機能を、電力消費が透明化され、エネルギー管理が精査され、効率性に対する強力なインセンティブがある大型の専用施設に集約することを奨励してきた」(同氏)

 「クラウドにデータを送信する前にエッジで処理するデータを増やす需要が増大すれば、その新しいエネルギー利用をどのように集約し、その透明性と信頼性をどう保証できるのか」

 一方で、エッジコンピューティングを通じてエネルギーを削減できる可能性もある。ムーアの法則や仮想化といった要因のおかげで、特定量のデータを処理するために必要なエネルギーは30年の間に6桁以上も減った。デイリー氏は言う。「エッジデータセンターの利用増大は、電力供給という点でははるかに自律性が大きく、ずっと幅広い電力源を利用できる。これはモノリシック性が低く、個々のユニットへの供給の継続性ではなく、複製と重複によって耐久性を組み込めることによる」

 McKinseyは2018年の記事「The next horizon for industrial manufacturing」で、産業界がエッジコンピューティングのようなIndustry 4.0技術を使った次世代製造で成功を収める方法について、多数の提案を行っている。

 企業は何を達成したいのかに関する明確な事業目標を定める必要がある。McKinseyの調査では、ITの成熟度の中に大きな障壁があることが分かった。同社によると、2018年の報告書「Digital Manufacturing - escaping pilot purgatory」で調査対象とした700人のほぼ半分(44%)は、デジタル製造を実行に移す上での大きな課題としてITの欠陥を挙げていた。

 Freeform Dynamicsの著名アナリスト、デール・バイル氏は言う。「比較的未来に耐えられるエッジコンピューティング環境を実装するためには、安定したアーキテクチャ設計から着手する必要がある。これは、エッジからクラウドを横断する依存関係と流れについて考え抜くだけでなく、システムとコンポーネントのプロビジョニング、構成、モニター、管理にどう継続的に対応するかを検討することでもある。ここで採るべき心構えは、『運用のための設計』の一言に尽きる」

 Freeform Dynamicsにとってエッジコンピューティングは、製造および産業システム内部でITを運用技術と結び付ける手段を提供している。だが、マシンがITネットワークを横断して互いに通信することを可能にする接続性とデータ交換およびプロトコルに対する技術的ニーズ以上に、CIOやCOOは運用とITの分断を橋渡しする機器のための予算をどう共有し、割り当てるかについても検討する必要がある。

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