英国と欧州にとっての大惨事?
NVIDIAによるArm買収は業界およびNVIDIAにとって吉か凶か
NVIDIAがArmを買収するというニュースはさまざまな臆測を呼んでいる。この買収は業界にとってプラスとなるのか。NVIDIAにどのようなメリットがあるのか。アナリストの見解はかなり否定的だ。
NVIDIAと日本のソフトバンクグループは、NVIDIAがArmを400億ドル(約4兆2200億円)で買収することで合意した。NVIDIAによると、Armを買収することでAI(人工知能)時代に向けて最高のコンピューティング企業を築き、イノベーションの速度を上げながら大規模で高成長の市場に進出できるという。
NVIDIAのCEOジェンスン・フアン氏は次のように話す。「当社が買収するのは、世界で史上最高のテクノロジー企業の1つだ。Armがより大きくなるのを助けたいと考えている。研究開発を減らすのではなく増やし、それを英国ケンブリッジで行うことを望んでいる」
この買収を発表するスタッフへの書簡の中でフアン氏は次のように記載している。「当社はArmと手を組み、AIの時代に向けて世界有数のコンピューティング企業を生み出す。AIは今の時代最も力のある技術だ。AIはデータから学び、人間には作り出せないソフトウェアを作成できる。驚くことに、AIは環境を認識し、最善のプランを予測してインテリジェントに行動する。この新しいソフトウェアは、世界中の隅々までコンピューティングを拡大する。いつの日か、AIを実行する何兆台ものコンピュータが新しいインターネットを作り出すだろう。それは、現在のような人間のインターネットよりも数千倍も大きなモノのインターネットだ」
BBC Four(訳注:英BBCのテレビチャンネル)の番組で、起業家のハーマン・ハウザー氏はこの買収を「英国、ケンブリッジ、欧州にとっての大惨事」と語った。ハウザー氏は、NVIDIAがArmのビジネスモデルを破壊すると考えている。ArmのビジネスモデルはArmチップの設計ライセンスを500社以上のチップメーカーに供与することを基礎に置いている。ライセンスの供与を受けるチップメーカーの大半はNVIDIAの競争相手だ。今回の買収によってArmチップの設計は1つの半導体企業の支配下に置かれることになる。つまり、NVIDIAがArmチップを独占することになると同氏は警告する。
CCS Insightのアナリスト、ジェフ・ブレイバー氏は2020年8月に執筆したブログ記事で、Armが成功を続けるには同社の独立性が重要だと述べている。「同社の支配がライバル企業に移った瞬間に、この独立性は損なわれる。Armの独立性という価値は、NVIDIAによる買収によって損なわれる可能性が高いだろう」
だがブレイバー氏は、ArmがオープンソースのRISCアーキテクチャ「RISC-V」との競争の激化に直面していたとも指摘する。同氏は同じブログ記事に次のようにも記載している。「Armのパートナー企業がArmの完全性と独立性が損なわれたと感じたら、RISC-Vの成長が加速し、その過程でArmの価値が下がるだろう」
AIビジネスのチャンス
NVIDIAはここ数年で同社の価値が急上昇しているとみている。機械学習や暗号通貨のマイニングに基づく次世代アプリケーションをサポートするために使われるNVIDIAのGPUの価値を投資家が認めているためだ。
NVIDIAは自動走行車プラットフォームへの利用を推し進めている。2019年12月、NVIDIAはArmプロセッサベースのチップに「NVIDIA DRIVE AGX Orin」を導入し、並列コンピューティングアプリケーションを開発するために「CUDA」(訳注)のArm版プログラミングライブラリの提供も開始した。
訳注:Compute Unified Device Architectureの略。NVIDIA製GPU用のプログラミングモデルで、ソフトウェアはCUDAのプログラミングライブラリを通してGPUを利用する。
CUDAによって、高度な並列コンピューティングアーキテクチャで実行することでメリットが得られるアルゴリズムを高速化できる。CUDAはゲームプログラミングやAIでNVIDIA GPUの力を生かすために使われ、何百のGPUコアが同じコードを同時に実行するタスクを担ってきた。
CUDAがArmをサポートするようになると、NVIDIAはDRIVE AGXなどのArmベースシステムにアプリケーションを移行する方法や新しいアプリケーションを作成する方法を開発者に提供できるようになる。
2020年6月、NVIDIAはメルセデスとの提携を発表した。NVIDIAの技術を使って構築されたソフトウェア定義のコンピューティングアーキテクチャが、2024年以降に発売される次世代モデルのメルセデス・ベンツ全車種に搭載される予定だ。そこには、ソフトウェアを使って進化する自動走行車向けのハードウェアプラットフォームを構築する狙いがある。
金融ブログサイト「Seeking Alpha」に掲載された「Citi's 2020 Global Technology Virtual Conference」の筆記録には、NVIDIAのCFO(最高財務責任者)コレット・クレス氏の見解が次のように記載されている。「自動車にNVIDIAのハードウェアプラットフォームが組み込まれ、自動運転技術が多くのさまざまなレベルで改善されるようにソフトウェアをアップグレードできる」
Armの独立性をNVIDIAがどの程度効果的に維持できるかという疑問に対し、NVIDIAのフアン氏はArmを同社のコンピューティング戦略の基礎だと考えていると答えた。Armの独立性とそのビジネスモデルを維持することで、Armのライセンスを所持する企業にNVIDIAの技術へのアクセスを提供する機会があるとフアン氏は考えている。NVIDIAはCUDAや開発ツールをArmのパートナーに提供し、同社のソフトウェアエコシステムを大きく拡大できる可能性がある。
ゲーム分野での定評を得たNVIDIAは、AIに同社の将来を見ている。コネクテッドデバイス全盛の時代、AIはますますエッジに移動してエッジのセンサーがリアルタイムに決定を下すようになるとフアン氏は考えている。このようなスマートセンサーには、消費電力が少ない高性能のコンピューティングプラットフォームが必要になる。それがArmの設計をさらなる成功へと導く。
NVIDIAの自動運転車プラットフォームの最新バージョンがArmベースであることは驚くに当たらない。CUDAをArmに移したことを考えると、NVIDIAは同社の技術を実行できるソフトウェアエコシステムの実現を示すために310億ポンド(約4兆2300億円)の賭けをした可能性がある。
ただし、CCS Insightのブレイバー氏は次のように話している。「一見したところ、Armの買収はデータセンター用シリコン、産業用モノのインターネット、特に小型のクライアント端末におけるNVIDIAの地位を高めるように思える。買収により、カスタマイズに高度な制御と対象範囲がもたらされるだろう。だが、それは極めて理論的な話だ。何よりもまず、Armはライセンスビジネスだ。極めて高い買収価格にもかかわらず、実際の相乗効果はほとんどない」
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