パブリッククラウドからのオンプレミス回帰を計画する企業は、どのような製品を選択すればよいのか。オンプレミスのインフラとパブリッククラウドを使い分ける視点と併せて、IDC Japanのアナリストに聞いた。
前編「『脱クラウド』『オンプレミス回帰』が国内で拡大する理由は IDC Japanに聞く」に続く本稿は、調査会社IDC Japanのシニアマーケットアナリスト、宝出幸久氏の話を基に「オンプレミス回帰」(「脱クラウドとも」)で選ばれる製品の傾向を紹介する。
オンプレミスのインフラとパブリッククラウドには、リソースを専有するのか、共有するのかという根本的な違いがある。それ以外の観点では、最近はオンプレミスのインフラ向けにもパブリッククラウドの特性を取り入れた製品やサービスが登場し、類似するポイントもある。企業はどのような観点でインフラを選ぶべきなのか。
「中長期的に先を見通すことが難しい状況においては投資判断が難しくなる。オンプレミスのインフラで従量課金型のサービスを選択する動きは広がる可能性がある」と宝出氏は話す。特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって、テレワークの制度を導入したり、人員配置を変更したり、既存ビジネスを廃止して新規ビジネスを立ち上げたりと、事業運営の変化が激しくなる組織もある。製品を購入することで資産として保有するCAPEX(設備投資)型でインフラを調達した場合、計画していたリソースが必要なくなれば、結果的に無駄な投資になってしまうリスクもある。
従量課金で利用できる製品を利用すれば、オンプレミスのインフラであってもCAPEX型から、月額課金や年額課金などで利用するOPEX(運用経費)型に転換することができる。導入時にある程度リソースに余裕のある設計にしておくことで、短期的なリソースの増減にすぐに対処できる仕組みを採用しているオンプレミスの製品もある。
過去にパブリッククラウドを利用したユーザー企業は、オンプレミス回帰の際にどのような製品を選択すればよいのか。実際にオンプレミス回帰に踏み切った企業が選んだ製品を見ていこう。
2020年10月にIDC Japanが発行した「2020年 国内ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ利用動向調査」では、図の通り「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)が45.1%と最多になっている。オンプレミス型のプライベートクラウドとサービス型(ホスティング型)のプライベートクラウドが続く形だ。サーバ、ストレージ、ネットワークを個別に構築する従来の3層型のインフラはわずか2.0%にとどまり、リソースに拡張性のある製品や、サービス型でインフラを利用できる形態が選ばれる傾向にある。
パブリッククラウドからオンプレミスのインフラへの移行の動きを踏まえて、宝出氏は「適材適所」というキーワードを挙げる。拡張性や従量課金のように、一部の製品においてはオンプレミスのインフラとパブリッククラウドの共通になりつつある要素もあるため、どちらかを選択する際にはそれら以外の観点での判断がより重要になる。
基本的にはオンプレミスのインフラおよびシステムは、構築にある程度の日数を必要とする。一方パブリッククラウドはリソースが必要な時にすぐに調達できる。AI(人工知能)技術などユーザー企業単独では構築が簡単ではない技術分野の機能が、次々にサービスとして取り入れられることもパブリッククラウドの利点だ。「リソースが必要な時にすぐに調達したい、大規模な拡張性が欲しい、DX(デジタルトランスフォーメーション)に役立つ機能やサービスをパブリッククラウドで使いたい、といった明確な理由があればパブリッククラウドが適している」(宝出氏)
高い安定性が必要なシステムの運用であれば、リソースを専有型で使えるオンプレミスのインフラやホスティング型のプライベートクラウドが適している。他のユーザー企業の使用状況によってリソースが逼迫(ひっぱく)することがないためだ。コストに関しても、運用するデータ量や必要とするリソース量が多くなれば、パブリッククラウドの方が高くつく可能性がある点を考慮に入れた方がよい。宝出氏は「ワークロード(アプリケーションの負荷)が安定していて長期的に利用する場合は、オンプレミスのインフラに投資をした方が長期的なトータルコストでは安く済むことが多いはずだ」と話す。
適材適所でオンプレミスのインフラやパブリッククラウドを使い分ける上で問題になるのは、双方の統合的な運用をどのように実現するかだ。2020年のIDC Japanの調査では、オンプレミスのインフラとパブリッククラウドが混在する環境で、統合的な運用を実現しているという回答は4.8%にとどまっている。ただしIDC Japanによれば、この割合は2年後には13.0%に上昇する見込みだ。オンプレミスのインフラとパブリッククラウドの併用が広がる中で、ユーザー企業側でも運用に関して何らかの対策を打つ必要性を認識していることが分かる。
オンプレミスのインフラとパブリッククラウドを統合的に運用する用途で代表的なものとして、宝出氏は
などを挙げる。
統合的な運用の観点では、パブリッククラウドベンダーがオンプレミスのインフラ向けに提供するサービスも注目に値する。例えば「AWS Outposts」や「Azure Stack HCI」など、パブリッククラウドのサービスをオンプレミスのインフラに設置するハードウェアで提供することを前提にしたものがある。データの保管場所などパブリッククラウドの利用に関して何らかの制約がある場合でも、パブリッククラウドのサービスを利用できる利点がある。こうした製品やサービスは、オンプレミスのインフラというよりはシステム運用の中心がパブリッククラウドになることを前提にした方がよい。宝出氏は「パブリッククラウドのサービスをある程度使っていて、拠点でのレイテンシ(遅延)を短くして特定の用途として使いたいなど、用途はエッジ(データが発生する場所)向けの仕組みに限定されるのではないか」と話す。
パブリッククラウドベンダーのオンプレミスのインフラ向け製品やサービスは登場して間もない。今後どのような機能やサービスが追加されるのか、それが何に役立つのかなどに今後注目しておく価値はある。
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