米国の患者はオンライン診療にPCよりもスマートフォンでの接続を好むという。その背景には人種間のデジタルデバイド(情報格差)の影響がある。米国医療機関のCIOが目の当たりにした情報格差の姿とは。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)をきっかけに、オンライン診療などの遠隔医療が隆盛した。Googleが2021年8月に公開した調査結果(2021年6月に、米国の医師約300人に実施した調査に基づく)によると、遠隔医療サービスを採用する医師の割合は、2020年2月時点は32%だったが、2021年6月の調査時は90%に増加した。Zoom Video CommunicationsやAmerican Well(Amwell)など、遠隔医療システムを提供するベンダーがこうしたニーズの変化に応じたことで、医師たちは対面診察に制限がかかっているときでも、自身の患者と連絡を取り続けることができた。
遠隔医療サービス利用の鍵はスマートフォンだ。医師専用SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を提供するDoximityが、2020年に米国の患者2000人以上を対象として実施した調査によると、45%が遠隔医療での診察に携帯電話を使いたいと答えた一方、PCを使いたいと答えたのは39%だった。
University of Texas at Austin(テキサス大学オースティン校)Dell Medical Schoolおよび付属病院であるUT Health AustinでCIO(最高情報責任者)を務めるアーロン・ミリ氏も、こうした嗜好(しこう)を目の当たりにした。ミリ氏によれば、患者がUT Health Austinの医療従事者とのオンライン診療に接続する方法として主流なのはモバイルデバイスだ。
米国でスマートフォンが普及しているということは、米国にいる大半の人々が医師とオンライン診療の予約ができる技術を備えていることを意味する。調査機関Pew Research Centerが2021年4月に発表した調査結果(2021年1月~2月に、米国の成人1502人を対象に実施した調査に基づく)では、2021年2月時点で米国人の85%がスマートフォンを所有していた。調査結果によると、黒人成人の83%、ヒスパニック成人の85%がスマートフォンを所有していた。一方でPew Research Centerが2021年7月に発表した調査結果(先の調査結果と同じ調査に基づく)によると、PC所有率は黒人成人が69%、ヒスパニック成人が67%だった。スマートフォンはマイノリティーの人々にとって最も入手しやすい遠隔会議のツールといえる。
それでも医療を十分に受けられない人々を含め、全ての患者がオンライン診療のメリットを得られているとはいえない。2021年7月にUniversity of Michigan(ミシガン大学)の研究機関Institute of Healthcare Policy & Innovationが発表した調査データによると、高齢患者や黒人患者、通訳を要する患者は、オンライン診療におけるビデオ通話の利用が特に少なく、音声通話のみのオンライン診療を選ぶ傾向があった。インターネットの接続性(注1)と技術の複雑さがこの問題に影響している可能性がある。
※注1:Pew Research Centerが2021年7月に発表した資料によると、米国在住者のうち、自宅に高速インターネット回線がある比率を人種別に見ると、白人成人80%に対して、黒人成人は71%、ヒスパニック成人は65%という結果だった。
ミリ氏は「COVID-19の拡大によって、驚くほど多くの人々が高速インターネットに接続していないことが明らかになった」と語る。米テキサス州オースティンのような大都市でさえ、教育機関は「学習者がリモートで学べるように」とバスに無線LANアクセスポイントを設置して、それを近隣まで向かわせなければならなかったという。「こうした支援が必要な学習者やその家族には、医療を受けやすくする支援も同じように必要だ」とミリ氏は言う。
こうした患者のほとんどは遠隔医療を好む。ミリ氏によれば「病院や診療所に歩いて行けたとしても、彼らはStarbucks Coffee(スターバックスコーヒー)の外に車を止めて、自分のスマートフォンを公共の無線LANにつないで、バーチャルでかかりつけ医の診察を受けることを選ぶ」。
後編は「技術の複雑さ」が遠隔医療の普及を阻む問題について解説する。
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