企業がパスワードレス認証を導入する上で、解消すべき課題が幾つか存在する。その中から本稿は従業員のプライバシー保護と、“過度な期待”で生じるリスクを解説する。
パスワード認証からの脱却を試みる企業は、パスワードを利用しない「パスワードレス認証」の導入が視野に入る。第4回「“パスワードのいらない世界”をできるだけ安く実現する方法」に続き、企業がパスワードレス認証の導入時に検討すべき課題を解説する。
全ての従業員が、パスワードレス認証を積極的に取り入れるとは限らない。特に従業員のプライバシー意識の高い企業が、新しい認証手段を従業員の私用デバイスに導入しようとすると、ハードルが高くなる。
従業員は、企業が自分の私用デバイスを管理下に置くことを嫌い、企業がどの個人用データを見たり、操作したりできるようになるのかを気にする。システム管理ツールベンダーIvanti Softwareで製品管理担当バイスプレジデントを務めるクリス・ゲトル氏によると、特にEMEA(欧州、中東、アフリカ)市場ではプライバシー意識が高まっている。
プライバシーを考慮すべき観点はデバイス管理以外にもある。認証用の生体データを、デバイス内のアプリケーションでどう保存し、どう使用するのかについても考慮すべきだ。企業やデバイス内のアプリケーションによるデータへのアクセスに関する規制の問題も存在する。
企業は、企業所有デバイスと個人所有デバイスの双方について、押し付けがましくなく、かつ業務データを安全に保つ方法を見つける必要がある。コンサルティング企業RSM USで、セキュリティおよびプライバシーリスクサービスのプリンシパル兼ナショナルリーダーを務めるタウシーフ・ガージ氏は、「この問題で厄介なのは技術ではない」と話す。つまり技術面での対処方法は複数存在するので、それらを導入した上で企業は運用面について注意を払わなければいけないということだ。
例えば「Android」は、同一デバイス内のアプリケーションやデータを業務用と個人用に分けて管理できる「仕事用プロファイル」を提供している。アプリケーションをコンテナ(隔離実行環境)内で稼働させれば、セキュリティが強化されるとともに、デバイス全体を管理する手間を省略できる。モバイルデバイス管理(MDM)やデバイス証明書を利用する手もある。
プライバシー管理では、従業員のデータを集める際に、特に生体認証について何が妥当なのかを判断することが不可欠だ。IT担当者は従業員と、「パスワードレス化と引き換えに従業員が何を受け入れる必要があるのか」を話し合っておくとよい。
企業は、パスワードレス認証に関する期待やハイプ(誇大宣伝)を常に把握しておかなければならないと、調査会社Gartnerのアナリストであるデービッド・マーディー氏は指摘する。「パスワードレス認証でできること」への期待が過熱すると、企業はパスワードレス認証に予算をかけ過ぎたり、急いで導入したりしてしまう傾向があるという。「そうした事例が積み重なると、パスワードレス認証への関心が薄れてしまう」とマーディー氏は言う。
パスワードから解放されるのはエキサイティングだが、企業は従業員に過大な約束をしてはならない。「パスワードレス認証の導入には時間がかかり、全員が適応するまでにはトラブルが起こり得る」ことを、従業員に理解してもらう必要がある。企業は導入プロセスについて常に十分な情報を従業員に提供し、誰に、いつ、どのようにしてパスワードレス認証を適用するのかを周知するとよい。
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