2022年改正電子帳簿保存法を改正前と比較、「4つの変化」とインパクト「電子取引データ保存の義務化」に向けた準備と運用【第1回】

2022年1月施行の「電子帳簿保存法」改正の要点を、4つのポイントに注目して解説する。電子取引のデータ保存義務化は2年間の宥恕措置が付いたが、対処の必要がなくなったわけではない。実務への影響範囲は。

2022年06月02日 05時00分 公開
[原 幹クレタ・アソシエイツ]

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連載について

本連載は、会計とIT領域の豊富な経験を持つ公認会計士が、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法の要点を解説する。「電子取引のデータ保存義務付け」など実務に影響する大きな改正を踏まえて、書面ベースの経理業務からペーパーレスを効率的に進める方法や、必要となる中堅・中小企業向けシステム選定と運用のポイントを紹介する。


 2022年1月に「電子帳簿保存法」の改正法が施行され、電子取引のデータ保存は実質的に「義務」となった。ただし2022年1月1日から2023年12月31日までの2年間は一定の要件下(注1)で宥恕(ゆうじょ)措置が認められることとなった。

※注1:「令和4年度税制改正の大綱」(2021年12月24日閣議決定)には、所轄の税務署長が「やむを得ない事情がある」と認め、かつ保存義務者が質問検査権に基づく電磁的記録の出力書面(整然とした形式および明瞭な状態で出力されたものに限る)を提示できるようにしている場合であれば、保存要件に関わらず経過措置を講ずる、という旨の記載がある。

 この制度変更に伴い、日々の業務にはどんな影響があるのだろうか。連載第1回となる本稿は、現在までに電子帳簿保存法が変更された経緯を振り返り、法改正のポイントを整理する。

 改正電子帳簿保存法が想定しているのは課税文書(印紙税課税対象となる契約書や受取書など)としての帳簿や書類(注2)だ。ただし注文書や契約書作成に関連する販売管理業務、購買管理業務にも影響がある。つまり法改正の影響は経理部門だけでなく、営業部門や調達部門の業務にも及ぶ。具体的には、以下の場面で影響が及ぶ可能性がある。

※注2:法人税法の定義において、帳簿と書類はそれぞれ別のものを指している。「帳簿」は、総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など。「書類」は、例えば棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書など。

  • スキャナー保存書類にタイムスタンプを付す方法やタイミング
  • 電子取引データにタイムスタンプを付す方法やタイミング
  • 上記を踏まえた業務フローの整備や見直し
  • 事務処理規程との整合性

 企業が改正電子帳簿保存法に準拠したシステム導入を検討する場合は、

  1. 電子取引が発生するワークフローを全社的に見直す
  2. 電子取引に伴うデータを「どの部門が」「どのような手段で」「どのタイミングで」保管するのかをルール化する
  3. 必要な規定や手順書にルールを落とし込む

といったプロセスを踏むことになる。いざ税務調査に関わることになって慌てることのないよう、この機会に合わせて業務のデジタル化を推進するきっかけとするのが望ましい。

改正前の電子帳簿保存法はどうだったか

 電子帳簿保存法は、課税文書となる「帳簿」や「書類」の電子化を容認し、徴税当局の事務を簡素化することを目指す法律だ。所得税法や法人税法など国税に関する法律の特例として定められた。改正前の電子帳簿保存法は、大きく分けて「書面で保存する特例の規定」「電子取引に係る情報の保存義務の規定」の2つの規定で構成されていた。

1.「書面」で保存する帳簿や書類の特例

 帳簿や書類については書面で保存することを原則としつつ、一定の要件を満たす場合には税務当局の承認を受けて電子データで保存することを容認する。

2.「電子取引」に係る情報の保存義務

 法人が電子取引をする場合、税務当局の承認を必要とせず該当の情報を「電子データのまま」保存することを認める。


 このように電子帳簿保存法は、利便性を高めるために制定された。だが、これまでは下記のルールがあったことから導入のハードルが高く、多くの法人に普及するには至らなかった。中には小規模企業に適用するには現実的ではないルールも課せられていた。

  • 適用する3カ月前までに税務当局に承認申請書を提出する必要があった
  • 電子化された書類を検索するための要件が厳格に定められ、保存データの形式を事前に細かく調整しなければ導入するのが実質的に困難だった
  • 書類をスキャナー保存する場合に、一定期間以内にスキャンを完了し、かつ電子データへの記録事項として「タイムスタンプ」を付す必要があった
  • 運用体制として担当者間の相互けん制や定期的な社内検査が必要だった

 そこで電子帳簿保存法の適用要件をある程度緩和し、最低限度のルールを守れば多くの企業が電子帳簿保存法を利用できるようにする意図で、政府は2021年に大幅な見直しを実施した。

2022年改正電子帳簿保存法の概要

 2022年1月施行の改正電子帳簿保存法の大きなポイントは以下の4点に集約できる(表1)。この改正では規制の「強化」と「緩和」が同時に取られている。規制緩和によってより多くの企業が制度を導入しやすくなった一方で、電子取引のデータ保存が義務化されたという規制強化の要素には留意する必要がある。

表1 2022年改正電子帳簿保存法の4つのポイント
項目 内容 規則の方向性
1.電子取引のデータ保存義務化 ・電子取引で授受したデータを書面でなくデータで保存する 強化
2.検索要件の緩和 ・検索条件を限定する
・検索範囲の範囲指定や複合検索の要件を不要とする
緩和
3.タイムスタンプ付与要件の緩和 ・電磁的記録に真実性や可視性を担保するためにタイムスタンプを付与する期限を延長する 緩和
4.事前手続きや整備ルールの廃止 ・帳簿や書類の電磁的記録での保存に税務当局への届け出を不要とする
・適正な事務処理をするための体制整備を不要とする
緩和

2022年改正電子帳簿保存法における対象書類ごとの変更点

 2022年改正電子帳簿保存法では電子帳簿を、

  • 厳格な保存要件を満たす「優良電子帳簿」
  • 最低限の保存要件を満たす「その他の電子帳簿」(または「一般電子帳簿」)

に分けてそれぞれルールを整備している。本連載は主に「その他の電子帳簿」に関する対処について解説する。

国税関係帳簿の保存要件の改正で緩和した要件のポイント

 国税関係帳簿データの保存要件に関する改正で、制度が緩和した内容は下記の通りだ。表2に、変更点を改正前後で比較したポイントをまとめた。

  • 検索要件の緩和
    • 優良電子帳簿において検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先名称」のみ
    • いずれの電子帳簿においても検索範囲や複数条件検索の要件が原則として不要
  • 事前承認制度の廃止
    • いずれの電子帳簿においても電磁的記録保存に当たり所轄税務署長への届け出が不要
  • 保存要件の緩和
    • その他の電子帳簿において「訂正削除追加履歴の確保」「業務処理期間経過後の入力」「相互関連性の確保」要件が不要
表2 国税関係帳簿保存要件の主な改正点(国税庁資料を基に筆者作成)
項目 内容 改正前 改正後(優良電子帳簿) 改正後(その他の電子帳簿)
1.訂正削除履歴の確保 記録事項の訂正、削除をした場合には事実や内容を確認できる電子計算機処理システムを使用する 必要 必要 不要
2.相互関連性の確保 電子帳簿の記録事項と他の帳簿の記録事項の相互に関連性が確認できる 必要 必要 不要
3.システム関係書類等の備え付け 電子計算機処理システムの概要書、仕様書、操作説明書などを備え付ける 必要 必要 必要
4.見読可能性の確保 保存場所に操作説明書を備え付け、画面・書面に整然な形式、明瞭な状態で速やかに出力できる 必要 必要 必要
5.検索機能の確保 (1)検索条件 取引年月日、勘定科目、取引金額などの主要な記録項目で検索できる 必要(検索条件の限定なし) 必要
検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先名称」に限定。範囲指定検索・複数項目の組み合わせ検索はダウンロードデータ(注3)を提供できる場合は不要
不要
税務調査時、データのダウンロードの求めに応じる必要がある。ただし優良電子帳簿の要件を全て満たす場合はダウンロードデータ(注3)の提供不要
(2)検索範囲 日付または金額の範囲指定で検索できる 必要 不要(注4) 不要
(3)複数条件検索 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件で検索できる 必要 不要(注4) 不要
6.電磁的記録のダウンロード 税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができる 不要(注4) 必要(注5)
7.事前承認制度 電磁的記録の保存をする場合に事前に税務署長の承認を得る 必要 不要(廃止) 不要(廃止)

※注3:ダウンロードデータ=税務署に提供可能な状態のデータ。「6.電磁的記録のダウンロード」の項目も参照。
※注4:ダウンロードデータの提供条件を満たしている場合のみ。
※注5:優良電子帳簿の要件を満たし、かつ一定の届け出がある場合は不要。


国税関係書類の保存要件の改正における変更点

 国税関係書類データの保存要件に関する改正のうち、特にスキャナー保存要件に係る変更点は下記の通りだ。表3に、変更点を改正前後で比較したポイントをまとめた。

 保存対象となる国税関係書類は「重要書類」「一般書類」の区分があり、それぞれ要件が異なる。重要書類は契約書、納品書、請求書、領収書など、資金や物の流れに直結するものが該当する。一般書類は見積書、注文書、検収書など、資金や物の流れに直結しない書類を指す。

  • 検索要件の緩和
    • 検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先名称」のみ
    • 検索範囲や複数条件検索の要件が原則として不要
  • タイムスタンプ要件の緩和
    • 付与期限の緩和。スキャナーで読み取る際、または書類を作成・受領してから一定期間内(注6)にタイムスタンプ付与
    • 入力期間内に電磁的記録の確認ができるときはタイムスタンプ付与が不要
  • 事前承認制度の廃止
    • 電磁的記録保存に当たって所轄税務署長への届け出が不要
  • 適正事務処理要件の廃止(1人で入力、原本廃棄してよいが、事務処理規程の整備が必要)
  • 訂正削除履歴の確保
    • 訂正削除ができない仕様であるシステムの採用を容認
  • スキャナーで読み取る際の自署が不要

※注6:書類を作成・受領してから一定期間内にタイムスタンプを付与する場合、「特に速やかに」(おおむね3営業日以内)入力、「速やかに」(おおむね7営業日以内)入力と、「業務サイクル後速やかに」(最長2カ月+おおむね7営業日以内)入力という3つの方式がある。

表3 国税関係書類(スキャナー保存要件)の主な改正点(国税庁資料を基に筆者作成)
項目 内容 改正前 改正後(重要書類) 改正後(一般書類)
1.訂正削除履歴の確保 記録事項の訂正、削除をした場合には事実や内容を確認できる電子計算機処理システムを使用する 訂正削除が確認できること 以下のいずれかを満たすこと
・訂正削除が確認できる
・訂正削除ができない仕様である
以下のいずれかを満たすこと
・訂正削除が確認できる
・訂正削除ができない仕様である
2.タイムスタンプの付与 (1)付与期限 スキャナーで読み取る際または書類作成時、受領時に一定期間内にタイムスタンプを付与する 以下のいずれかに付与
・特に速やかに
・速やかに
・業務サイクル後速やかに
以下のいずれかに付与(ただし入力したことを確認できる場合はタイムスタンプの付与が不要)
速やかに
業務サイクル後速やかに
以下のいずれかに付与(ただし入力したことを確認できる場合はタイムスタンプの付与が不要)
・速やかに
・業務サイクル後速やかに
・スキャナーで読み取る際に
(2)書類への自署 スキャナーで読み取った際に書類に自署する 必要 不要 不要
3.検索機能の確保 (1)検索条件 取引年月日、勘定科目、取引金額などの主要な記録項目で検索できる 必要(検索条件の限定なし) 必要(検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先」のみ) 必要(検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先」のみ)
(2)検索範囲 日付または金額の範囲指定で検索できる 必要 不要(注7) 不要(注7)
(3)複数条件検索 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件で検索できる 必要 不要(注7) 不要(注7)
4.電磁的記録のダウンロード 税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができる 必要 必要
5.事前承認制度 電磁的記録の保存をする場合に事前に税務署長の承認を得る 必要 不要(廃止) 不要(廃止)
6.適正事務処理要件 相互けん制、定期的検査、不備の原因究明ができる体制を整えている 必要 不要(廃止) 不要(廃止)

※注7:ダウンロードデータの提供条件を満たしている場合のみ。


電子取引の保存要件に関する改正のポイント

 2022年改正において、実務に対する影響が最も大きくなる可能性があるのが、電子取引の保存要件だ。主な変化は下記の通り。表4に、変更点を改正前後で比較したポイントをまとめた。

  • データ保存の義務化
    • 電子データでの保存が必須(書面での保存は認められない)
  • 検索要件の緩和
    • 検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先名称」のみ
    • 検索範囲や複数条件検索の要件が原則として不要
  • タイムスタンプ付与期限の緩和
    • 取引データ授受後、または業務サイクル終了後速やかに付与
表4 電子取引保存要件の主な改正点(国税庁資料を基に筆者作成)
項目 内容 改正前 改正後
1.電子取引データへの措置 (1)原則的な要件 電子取引データに対して施すべき処理やルールを整備する 以下のいずれかを満たすこと
・タイムスタンプ付与後に取引データを授受する
・取引情報の授受後速やかにタイムスタンプを付すとともに、データ保存担当者や管理者を確認できる
・訂正削除が確認できるか、訂正削除ができない仕様である
・訂正削除防止の事務処理規程を整備する
以下のいずれかを満たすこと
・タイムスタンプ付与後に取引データを授受する
・取引情報の授受後速やかにタイムスタンプ(付与期限の条件あり)を付すとともに、データ保存担当者や管理者を確認できる
・訂正削除が確認できるか、訂正削除ができない仕様である
・訂正削除防止の事務処理規程を整備する
(2)タイムスタンプ付与期限 電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付与する 授受後遅滞なく 以下のいずれかを満たすこと(事務処理規程を定めている場合)
・授受後速やかに
・業務サイクル後速やかに
3.検索機能の確保 (1)検索条件 取引年月日、勘定科目、取引金額などの主要な記録項目で検索できる 必要(検索条件の限定なし) 必要(検索条件は「取引年月日」「取引金額」「取引先」のみ)
(2)検索範囲 日付または金額の範囲指定で検索できる 必要 不要(注8)
(3)複数条件検索 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件で検索できる 必要 不要(注8)
4.電子取引データの書面出力 書面に出力保存可能である 必要 書面に出力保存不可
5.適正事務処理要件 相互けん制、定期的検査、不備の原因究明ができる体制を整えている 必要 不要(廃止)

※注8:ダウンロードデータの提供条件を満たしている場合のみ。


適用時期と経過措置

 改正電子帳簿保存法の適用時期は以下の通りだ。

適用時期

  • 事前承認制度の廃止
    • 2022年1月1日以降に備え付けを開始する事業年度の国税関係帳簿から
  • 国税関係帳簿に係る電磁的記録の保存
    • 2022年1月1日以降に備え付けを開始する事業年度の国税関係帳簿から
  • 国税関係書類に係る電磁的記録の保存
    • 2022年1月1日以降にスキャナー保存を実施する国税関係書類から

他の法令との関係

 電子帳簿保存法は所得税法の特例として整備されているが、一方で「消費税法」における課税文書の保存は原則として「書面」を前提としている。この要件は電子帳簿保存法が目指す「原則としてデータ化」することとの整合性が取れていないが、電子帳簿保存法においても消費税法の扱いは例外として位置付けられている。

 具体的には「消費税に係る保存義務者が行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」については、例えばその保存の有無が税額計算に影響を及ぼすことを勘案して、2022年1月1日以後も引き続きその電磁的記録を書面に出力することを条件としてデータ保存することが認められる。


 第2回は、電子取引の具体的な例について取り上げ、実務上の留意点を解説する。

原 幹(はら・かん)

公認会計士、公認情報システム監査人(CISA)。監査法人にて会計監査や連結会計業務支援、ITコンサルティング会社にてITを活用した業務改革支援に従事し2007年に独立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計、IT領域の豊富な経験を生かした支援業務に従事。ベンチャー企業の社外役員としても多くの関与実績があり、コーポレートガバナンスの知識・経験も豊富。著書に『1冊でわかる!経理のテレワーク』(中央経済社)『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』(日経BP)など。


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