どれが「電子取引」? 電子帳簿保存法改正の意外な落とし穴「電子取引データ保存の義務化」に向けた準備と運用【第2回】

紙でやりとりしていた見積書や請求書などが「電子取引」の保存要件に該当しているかどうか、宥恕措置終了後を見据えて管理方法を見直す必要がある。実務で気を付けたい、電子取引の定義と解釈のポイントを解説する。

2022年12月27日 05時00分 公開
[原幹クレタ・アソシエイツ]

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 国税庁の「電子帳簿保存法一問一答」(以下、「Q&A」)は、2022年1月施行の「電子帳簿保存法」改正法について詳細に説明している。本稿は2022年6月公開のQ&A改訂版(電子取引関係)に基づき、現行の電子帳簿保存法のポイントである「電子取引」の内容を解説する。

どれが「電子取引」に該当する?

 電子帳簿保存法は「電子取引」を「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」と定義する。「取引情報」とは、取引時に受け渡しする国税関係書類(注文書、見積書、契約書、領収書など)に記載される事項だ。メールの取引、EDI(電子データ交換)による取引、インターネットの取引など、さまざまな手段で取引情報をやりとりすることになる。

 メールで取引情報を受け取った場合は、該当する全てのメールを保存する必要はなく、添付された取引情報ファイルのみを保存すれば十分だ。「クラウドサービスを利用して請求書を受け取った」「スマートフォンアプリケーションでの決済で、ベンダーから利用明細を受け取った」という場合も電子取引に該当する。

 従業員が支払先から電子データで領収書を受け取る場合、これが企業の業務としての行為なのであれば電子取引に該当する。従って、これらの取引情報は企業がとりまとめるか、いったん従業員が業務用のPCやスマートフォンに保管することになる。その上で、企業は「金額」「取引先」といった条件で検索できるように、取引情報を管理することが必要だ。

 2021年度(令和3年度)の税制改正における電子帳簿保存法の改正法施行日は2022年(令和4年)1月1日だ。そのため、例えば3月決算の会社ならば取引情報の保存要件は以下のようになる。「取引が発生したのが2021年1月1日より前か後か」と線引きして考えればよい。

  • 2021年4月1日〜2021年12月31日に発生した電子取引
    • 改正前の保存要件に基づく
  • 2022年1月1日〜2022年3月31日に発生した電子取引
    • 改正後の保存要件に基づく

 ただし、2022年1月1日から2023年12月31日までの2年間は一定の要件下(注1)で宥恕(ゆうじょ)措置が認められることとなっている。2022年1月1日〜2023年12月31日に発生する電子取引については、保存すべき取引情報を書面に出力して保存し、税務調査などの際に提示できるようになっていれば問題ない。2024年1月1日以後に発生する電子取引の取引情報については、改正後の保存要件に従った取引情報の保存が必要だ。

※注1:「令和4年度税制改正の大綱」(2021年12月24日閣議決定)には、所轄の税務署長が「やむを得ない事情がある」と認め、かつ保存義務者が質問検査権に基づく電磁的記録の出力書面(整然とした形式および明瞭な状態で出力されたものに限る)を提示できるようにしている場合であれば、保存要件にかかわらず経過措置を講ずる、という旨の記載がある。

実務ではここに気を付けたい、電子取引データの保存方法

 国税関係書類はメールに添付してやりとりすることが一般的だ。Q&Aによれば、メールに添付された請求書(PDF形式)は、以下のような方法で保存すれば要件を満たしたことになる。

  1. 請求書データのファイル名に規則性を持たせて保存する
    • 例えば「YYYYMMDD_(取引先名)_(金額)」などのルールでファイル名を記載する(注2)。もしくは該当ファイルとは別に、ファイル名に連番を付した「索引簿」(図1)で管理する。
  2. 「取引先」や「各月」といった任意のフォルダ別に保存する
  3. 電子取引データの訂正削除防止に関する「事務処理規程」を作成する

 実務においては、1の方法だとファイル名を命名規則に基づいて厳格に運用したり、索引簿との二重管理をしたりすることになり、管理の手間がかかる。そのため2(任意のフォルダ別管理)が合理的だと考えられる。現状の運用方法を大きく変えるのが当面は難しいのであれば、3(事務処理規程の作成)で急場をしのぐのも一つのやり方だ。

※注2:基準期間(2年度前)の売上高が1000万円以下で、税務職員からの電子データ提供の求めに応じられる場合は不要。

図1 図1 索引簿のサンプル(出典:国税庁Webサイト「参考資料(各種規程等のサンプル)」の「索引簿の作成例」から引用)《クリックで拡大》

 次回は、電子取引データの保存環境要件の中から、実務で気を付けたいポイントを解説する。

連載について

本連載は、会計とIT領域の豊富な経験を持つ公認会計士が、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法の要点を解説する。「電子取引のデータ保存義務付け」など実務に影響する大きな改正を踏まえて、書面ベースの経理業務からペーパーレスを効率的に進める方法や、必要となる中堅・中小企業向けシステム選定と運用のポイントを紹介する。


原 幹(はら・かん)

公認会計士、公認情報システム監査人(CISA)。監査法人にて会計監査や連結会計業務支援、ITコンサルティング会社にてITを活用した業務改革支援に従事し2007年に独立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計、IT領域の豊富な経験を生かした支援業務に従事。ベンチャー企業の社外役員としても多くの関与実績があり、コーポレートガバナンスの知識・経験も豊富。著書に『1冊でわかる!経理のテレワーク』(中央経済社)『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』(日経BP)など。


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