Excelファイルを複数人で編集したいなら「Teamsの併用」が合理的な理由“脱Excel”か“活Excel”か

「Microsoft Excel」のファイルを複数人で共同編集するには幾つかの手段があります。その中でも有力な選択肢が「Microsoft Teamsの利用」です。それはなぜでしょうか。

2021年11月15日 05時00分 公開
[村山 聡]

 「Microsoft Excel」(以下、Excel)は、種別としては表計算ソフトウェアですが、その用途が表計算にとどまらないのは周知の事実でしょう。見積書や請求書などの作成には、表計算ソフトウェアとしてのExcelの機能が大いに役立ちます。各種帳票や台帳など、特に計算の必要がないものの作成にもExcelは広く利用されています。サブスクリプション形式のオフィススイート「Microsoft 365」(Office 365)に含まれるアプリケーションのうち、「Microsoft Word」「Microsoft PowerPoint」「Microsoft Access」は業務でほとんど使用しないがExcelだけは必ず毎日使用する、という人は意外といます。

 社内でExcelの使用が当たり前になっている場合、ファイルサーバにあるExcelファイルを複数人が共同利用することは珍しくありません。ただし共同利用といっても、通常は「複数人が同時に同じExcelファイルを操作」することはできません。誰かがファイルサーバ内のExcelファイルを開いているときに、別の人が同じExcelファイルを開こうとすると「読み取り専用」でしか開けないというダイアログが出現し、編集することができないようになっています。

 このような状況を考慮したのか、Microsoftは複数人が同時にExcelファイルを操作できるようにする「ブックの共有」(共有ブック)という機能を用意しました。この共有ブックは便利な機能ですが、複数人が同じExcelファイルを同時に使用するが故の弊害もあります。

「Excelで同時編集」の限界

 複数人が同じExcelファイルを同時編集しているときに、誰かがファイルを保存しようとした場面を例に挙げます。同じセルを編集していない場合は「他の使用者が更新した」ことを示すダイアログが出ますが、ダイアログが出現した時点では、他の使用者がどこを変更したかは分かりません。共有ブックを設定すると、「変更履歴」から他のユーザーが変更した箇所を確認できるのですが、リアルタイムに変更箇所を確認できるわけではないため、いま表示しているデータのどこまでが変更されているのかを判断しにくいのです。

 他のユーザーが自分と同じセルを編集していた場合は、自分と他のユーザーの変更内容のどちらを保存するか選択するダイアログが出ます。ただし、これも同時編集していたセルの変更内容だけで判断するしか方法がなく、他のセルの変更内容を容易に確認できるようにはなっていません。自分の変更内容を選択する場合は、同じセルを編集していた他のユーザーに、変更内容が保存されなかったことを別の手段で連絡しておく必要があり、かえって手間がかかります。

 同じ組織の共同作業ならば、前述のような状況が発生してもコミュニケーションを密にしたり、ルールを作成して組織内で順守したりすることで回避できるでしょう。とはいえ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で働き方が変化した現在、「コミュニケーションを密にする」は必ずしも簡便な手段とはいえなくなってしまいました。さらにいえば組織外の人と共有ブックで作業をする場合は、ルールを設定するのも、順守を徹底するのも容易なことではありません。

「共同編集」は変更履歴問題を解消したが……

 Microsoftは「Excel 2016」のデフォルト設定で、画面上部の「リボンメニュー」に共有ブックを表示しないようにしました。そして共有ブックに代わる機能として「共同編集」という機能を追加したのです。共同編集には、共有ブックでは不可能だった「リアルタイムの変更履歴」を確認できる機能を追加しており、従来の問題点を解消しています。

 「同時に編集しない」という了解の下に、共同編集を使って複数人が同じExcelファイルを共有している企業もあると考えられます。ただし、この使い方には問題があります。共同編集の設定をしていないExcelファイルを、あるユーザーが使用している状態で、別のユーザーが同時に開こうとすると、「読み取り専用で開きますか」というダイアログが表示されます。もし本当に誰かが編集中だった場合は、そのユーザーが編集を終了した後ならばファイルを開くことができます。しかし「編集を終了したのに、Excelファイルの読み取り専用状態が解除されない状態」がしばしば発生します。

 このトラブルは、

  • Excelファイルを開いている最中にPCがスリープ状態に入る
  • 有線LANによる接続から無線LANによる接続に切り替わる

など、ファイルアクセス中のPCに何らかの状態変化があると起こるようです。

 読み取り専用状態が解除されない事象の原因と対策についてインターネットで検索すると、Microsoft公式のサポートをはじめとしてさまざまな情報が見つかります。ただし「この対策を取れば解決できる」といった万能かつ確実な手段は存在しないように見受けられます。さまざまな対策を一つずつ試すしかありません。

 「読み取り専用で開きますか」のダイアログが表示されるとき、ファイルの使用者として表示されたユーザー名が正しくない(その時点でファイルを使用していないユーザー名が表示される)こともあります。こうなると間違った相手に「ファイルを閉じてほしい」という問い合わせをすることになり、すれ違いのやりとりで業務に支障を来すことにもつながりかねません。

Teamsの利用がExcel共同編集の最適解に

 このように1つのExcelファイルを複数人が使用する場面には、さまざまな困難が伴います。幸いなことに、これらの困難を解決に導く手段があります。解決の鍵となるのは「Microsoft Teams」(以下、Teams)です。

 TeamsはWeb会議やチャットをはじめ、リモート環境における共同作業を実現するさまざまな機能を持ったアプリケーションです。こうしたアプリケーションは、感染症対策のためにテレワークが推奨されている社会背景から、急速に普及が進んでいます。以前は主に「対面コミュニケーションの代替手段」という観点から、TeamsはWeb会議やチャットなどコミュニケーションツールとして利用する場面がほとんどという印象がありました。ところがテレワークが普及したことで、「共同作業」にTeamsを使用する動きが広がりつつあります。

 Teamsの主要機能に、チームで共有および共同編集したいファイルを格納する「ファイルライブラリ」があります。これはTeamsで「チーム」のチャネル(チームメンバーと会話する仮想的な場所)を作成すると、初期設定で画面の上部に表示されるタブの「ファイル」メニューからアクセスできます。この機能はファイル共有製品「SharePoint」の使用感とほとんど同じです。つまり前述したExcelブックの共同編集が使用できるということです。

 既にTeamsが企業内に浸透し、必要不可欠なツールになっているならば、Teamsのファイルライブラリを通じてExcelファイルの共同編集をするハードルはそれほど高くないはずです。Excelファイルを複数人で使用する際の問題を解決する、現時点の最適解の一つが「Teamsの併用」であることは間違いありません。ただし前回記事「『Teams』で『Excel』を使う利点と“落とし穴”」でも触れたとおり、TeamsはPCのリソースを大幅に消費するアプリケーションであり、快適に使用するにはそれなりのPC性能が必要となる点には注意が必要です。

このコラムについて

 ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。

 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介します。


村山 聡(むらやま・さとし)

1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。


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