IT先進国として知られるエストニアは、行政サービスの仮想アシスタントの運用を開始した。他国の注目を集めるこの仮想アシスタント開発の経緯と、今後の課題とは。
ITを行政サービスに取り入れる「電子政府」の構築を進めるエストニア。同国が開発するデジタル行政サービス向け仮想アシスタント「Bürokratt」は、各国の注目を集めている。仮想アシスタント開発の経緯と、今後の取り組みを追う。
Bürokrattのチャットbot構築にかかるコストは50万ユーロ弱だ。この金額は、政府機関全体で市販のチャットbotを1年利用した場合のライセンスコストより安価だと、エストニアの経済通信省で最高データ責任者を務めるオット・ベルスバーグ氏は説明する。
開発チームはまずユーザー認証機能を中核に置いたインフラを構築し、そこに複数の機能を追加した。そのうちの一つが、ユーザーにパーソナライズ化した天気予報サービスだ。「天気予報サービスは確実で間違いが起こりにくい。Bürokrattにおいて、リスクの高いサービスの稼働は考えていない」とベルスバーグ氏は述べる。
開発チームは、アカウントを取得しなくても利用可能な「パブリックAPI」(API:アプリケーションプログラミングインタフェース)を用意。ユーザーはこのAPIを用いて、居場所に応じて必要なタイミングで気象情報を受け取ることができるという。
Bürokrattには欧州以外の地域を含め、他国から関心が寄せられている。「Bürokrattを利用する複数の政府機関が24時間営業の1つのチャネルとして機能することが目標だ」とベルスバーグ氏は語る。
この目標実現の前に立ちはだかる課題が2つある。1つは正確な音声認識だ。エストニア語の言語技術を、英語の言語技術と同程度まで引き上げなくてはいけない。
政府はこの問題に対処するため、「Donate Your Speech」という全国規模のプログラムを計画している。このプログラムはエストニア語の音声認識技術向上を目的としており、2022年に4000時間以上分の音声データを取得するものだ。「2025年までに音声認識の精度を人間の認識率と同程度の95%にしたいと考えている」(ベルスバーグ氏)
Bürokrattがまずサポートする言語はエストニア語とロシア語、そして英語だ。必要があればさらに言語を追加する。例えばラトビア語が追加の候補になる。ベルスバーグ氏はその理由として、エストニアの領海での漁業許可取得プロセスの自動化を挙げる。漁師がラトビア人である場合は、ラトビア語を使う必要がある。
2つ目の課題は人口規模だ。エストニアの人口は130万人程度しかない。そのため機械学習モデルを十分にトレーニングするためのデータが不足している。
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