金融機関が明かす「クラウドでコストを減らせない企業」の特徴はこれだ「クラウドの真実」を金融機関CTOに聞く

クラウドサービスの導入が、期待した効果を生まないことがある。そうした課題に直面する企業には“ある傾向”があると、金融機関Credit SuisseのCTOは主張する。それは何なのか。

2022年12月29日 08時15分 公開
[Aaron TanTechTarget]

 「企業がクラウドサービスを利用してイノベーションを起こし、生産性を高めようとしても、技術コストの上昇という現実に対処しなければならないことがある」。証券・投資銀行業務を手掛ける金融機関Credit Suisse(クレディ・スイス)で最高技術責任者(CTO)を務めるジョアン・ハンナフォード氏は、2022年11月開催のカンファレンス「Singapore Fintech Festival」でこう強調した。

「クラウドでコストを減らせない企業」の特徴はこれだ

会員登録(無料)が必要です

 ハンナフォード氏によると、技術コストの増加が特に顕著なのは、クラウドサービス移行時に、移行対象のアプリケーション数を重視し過ぎる企業だ。全面的なクラウドサービス移行を進めた企業は特に、クラウドベンダー1社に頼る傾向がある。「クラウドベンダーの選択肢は複数あったのに、特定ベンダーの仕組みに特化した形でアプリケーションを再構築してしまい、他のベンダーを利用できなくなることがある」と同氏は指摘する。

 利用するクラウドベンダーを1社に絞ると、スケーリング(利用リソースの増減)がしやすくなり、単一のデータファブリック(異なる場所に点在するデータを一元的に扱うアーキテクチャ)を構築できるといったメリットがある。そうだとしても、コストと手間は次第にかさんでいく可能性がある。

 「アプリケーションをどこでも稼働できる状態にするためには、最適なインフラを選ぶ必要がある」とハンナフォード氏は指摘する。選択するインフラは、オンプレミスインフラとクラウドサービスのインフラを組み合わせて利用する「ハイブリッドクラウド」であろうが、複数のクラウドサービスを活用する「マルチクラウド」であろうが、独自のデータセンターであろうが「構わない」というのが、同氏の見方だ。

 インフラの選択時に重要なのは、そのインフラによってどのような成果が得られるかを判断することだ。「単一のクラウドベンダーをひいきにすることのリターンは大きいが、コストもユーザー企業の予想よりはるかに高くなっている」とハンナフォード氏は指摘する。

 同様に重要なのは開発者の生産性だ。「月曜の朝にソースコードを記述し、火曜の朝には運用環境で稼働できるような環境を開発者に与えなければならない」とハンナフォード氏は語る。企業は一般的に、開発者の生産性を高めるためのツールを積極的に用意しようとはしない、というのが同氏の見解だ。「こうした企業ほど新しいツールの導入には大きなハードルがあり、コストと手間がかさむことになる」(同氏)


 後編は、銀行持ち株会社JPMorgan Chaseが開発者の生産性を高めるために実施している取り組みを紹介する。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

技術文書・技術解説 ドキュサイン・ジャパン株式会社

導入が進む一方で不安も、電子署名は「契約の証拠」になる?

契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VMware「永久ライセンス」を継続する“非公認”の方法

半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

無計画なハイブリッドクラウドが招く弊害、次世代のITインフラでどう解消する?

クラウドファーストの流れが加速する中、無計画に構築されたハイブリッドクラウドの弊害が多くの企業を悩ませている。ITオペレーションの最適化を図るためには、次世代のハイブリッドクラウドへのモダン化を進めることが有効だ。

市場調査・トレンド 日本ヒューレット・パッカード合同会社

ハイブリッドクラウド環境におけるワークロードの配置を最適化する方法とは?

ワークロードを最適な環境に配置できる手法として注目され、多くの企業が採用しているハイブリッドクラウド。しかし、パフォーマンス、法令順守、コストなどが課題となり、ハイブリッドクラウド環境の最適化を難しくしている。

市場調査・トレンド 株式会社QTnet

業種別の利用状況から考察、日本企業に適したクラウドサービスの要件とは?

システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。