企業内の各部門がSaaSを勝手に導入することが、企業のITシステムのサイロ化を引き起こしている。SaaSベンダーが開発する連携機能は、サイロ化の解消にどう役立つのか。連携の具体的な方法とは。
近年、企業の事業部門がIT部門を介さず、SaaS(Software as a Service)を直接契約する動きが目立つ。こうした独自導入のSaaSは、他のSaaSやオンプレミスのアプリケーションとの間でデータを共有するのが難しいことがある。データの共有ができないと、ワークフローは非効率になる。
幸いなことにSaaSベンダーは、自社サービスと他社サービスが連携できるように機能を拡張することを重視し始めた。SaaS市場が成熟するにつれ、SaaSベンダーは、自社のサービスが他ベンダーのサービスやそのデータセット、ワークフローと連携する能力を競うようになっている。具体的にはどのような連携方法があるのか。
SaaSベンダーは市場におけるシェアを少しでも伸ばすことを考える。「その結果、SaaSベンダー各社は他ベンダーのサービスとの連携を歓迎している」と、コンサルティング企業PA ConsultingのエンタープライズITスペシャリスト、アンドリュー・ラーセン氏は分析する。
アプリケーションとデータの連携に関する技術的な進歩もある。従来のアプリケーションは、一部データのエクスポートしかできないことが通例だった。昨今、SaaSベンダーは一部機能を共有するためのインタフェース(接続の仕組み)であるAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を公開するようになった。APIを使って、企業はSaaSやオンプレミスのアプリケーション間の接続を構築できる。
API以外の方法として、特定のイベント(システムの稼働状態の変化)がログに記録されたことを察知して自社のSaaSを駆動させるイベントストリーミング型で連携させるベンダーもある。あるアプリケーションの遅延や中断が他のアプリケーションを混乱させたり、データ損失を引き起こしたりするような場合に有用だ。コード実行サービス「AWS Lambda」のようなツールを使って、クラウドサービスを連携の基盤として使う選択肢もある。
近年はアプリケーションやワークフロー、データを連携させる必要性が強まったため、連携ツール市場が形成されてきた。そうした連携ツールは「iPaaS」(integration Platform as a Service)と呼ぶ。企業はiPaaSを使用して自社でオーダーメイドのワークフローを作成したり、希望するワークフローを構築した経験を持つコンサルタント企業に依頼したりできる。
あらゆる業務を対象にした万能のSaaSが存在しないのと同じで、あらゆるアプリケーションを連携させる万能の方法は存在しない。複数のアプリケーションが頻繁にデータを共有し、密接に連携したワークフローを形成するような場合には、APIを使った連携が適する。各アプリケーションを独立させ、1つのアプリケーションの障害や中断が他のアプリケーションに問題を起こさないようにする必要がある場合には、イベントストリーミング型の接続が適する。データ共有に時間的な制約がない場合、従来のバッチ処理やETL(データの抽出、変換、読み込み)型の処理の方が適切な場合もある。コストと労力を考えると、週に1回しか実行する必要のないワークフローの場合、APIは適さない可能性がある。
ラーセン氏は、同じアプリケーション間で複数の形式の連携方法を採用することはほとんど意味がないと指摘する。「連携しようとしている2つのアプリケーションがある場合、全て同じ方法で連携させた方が手間は掛からない」
例えば、人事部門とIT部門のシステム連携を例にすると、新入社員の追加にはバッチ処理、社員のアカウントのロックと解除にはAPIが有効だ。ただし企業全体で見れば、可能な限りバッチ処理かAPIのどちらかに統一した方がよい。
採用すべき連携方法は、連携作業に要する時間や人的リソース、スキルによって異なる。自社内のワークフローが複雑であるなら、カスタマイズをする価値がある。逆に一般的なワークフローの場合、iPaaSのような既成の連携ツールを使用して実現できる可能性がある。
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