生成AIとクラウドサービスは、互いの利点を引き出す相互補完的な関係にある。例えば、生成AIを活用することで、アプリケーションのクラウド移行期間を短縮できる。
「生成AIとクラウドコンピューティングは相互補完的な関係にある。併用が両者の普及の鍵だ」。コンサルティング会社McKinsey & Companyのパートナーであるバーグス・スリバスサン氏はそう述べる。生成AI(ジェネレーティブAI)とは、人工知能(AI)技術でテキストや画像などを自動生成する技術のことだ。
スリバスサン氏は「生成AIに命を吹き込むにはクラウドサービスが不可欠だ」と語り、生成AIとクラウドサービスの相性の良さを強調する。生成AIの利用では、なぜクラウドサービスを活用すべきなのか。
生成AIにはどのようなことが可能なのか。例えば、プログラミング言語「COBOL」で書かれた、昔のソースコードを別の言語で書き換えることや、レガシーデータベースの近代化とクラウド移行などに生成AIが役立つ。「生成AIはデータベースのスキーマ(構造を表す設計図)を抽出することにも活用できる」とスリバスサン氏は期待する。LLM(大規模言語モデル)に指示をすることで、データベース内のテーブル間の関係性を理解し、分かりやすい形で提案できる可能性があるという。
スリバスサン氏は、「将来的には生成AIを活用することで、クラウド移行にかかる時間を約30〜40%短縮できる」と語る。LLMが成熟してよりその用途が多様になり、さまざまなAIツールが登場するにつれて、移行プロセスがより効率的になると同氏は予測する。
生成AIはエンジニアのスキル不足の解決に役立つ。例えば、複数のデータソースに保存されたデータの検索に機械学習(ML)を利用するツール「Amazon Kendra」を使用すれば、従業員が新しい技術を学習する際、自然言語でプロンプト(生成AIへの指示や質問)を入力するだけで必要なドキュメントをまとめられる。
Amazon Web Services(AWS)やGoogleなどのクラウドベンダーは既に、生成AIを実行するためのツールを提供している。例えば、ユーザー企業が独自のAIモデルを構築して実行できる、AIモデルの実行環境サービスだ。こうしたツールの登場により、生成AIの活用は容易になった。
スリバスサン氏は、「クラウドサービスは生成AIを導入し、利用を開始するための理想的な方法だ」と語る。生成AIの使用には学習用のデータセットや、セキュリティ、プライバシー、知的財産などに関連する複数の課題が存在する。自社で構築しようとすると、スケーラビリティ(拡張性)の限界に直面する可能性がある。IT業界全体で不足しているGPU(グラフィックス処理ユニット)の調達も課題だ。
「適切なセキュリティ、データスキーマ、アーキテクチャを確立し、クラウドコンピューティングを正しく実装している企業は、生成AIを迅速に導入でき、企業間競争において優位に立てる」(スリバスバン氏)
スリバスバン氏は生成AIを実際に導入しようとしているユーザー企業に以下のアドバイスを送る。
今後、企業は複数のAIモデルを自社のオンプレミスインフラで稼働させ、トレーニングして推論させるようになると同氏はみている。ただし自律走行や製造現場でのリアルタイムでの意思決定など、迅速な演算が必要な用途を除けば、エッジ(デバイスの近く)で推論が必要になることはあまりないとも同氏は考えている。
独自のAIモデルを構築し、チューニングして利用したい企業は、そのために必要なデータパイプライン(さまざまなデータソースからデータを取り込むシステム)と、学習に使用するデータセットについて検討する必要がある。
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