エネルギー産業を主軸とする経済体制から脱却するために、アラブ首長国連邦はAI活用に力を入れている。この国家戦略を支えているのが、急成長の大学「MBZUAI」だ。初代学長エリック・シン氏は、どのような人物なのか。
人工知能(AI)技術に特化した大学である、アラブ首長国連邦(UAE)の「Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence」(MBZUAI)。2019年創設でまだ歴史の浅い大学だが、AI技術の活用を国家戦略に据えるUAE政府の後援を受け、国内の人材育成機関とシンクタンクとしての役割を果たし始めた。同大学の初代学長を務めているのが、エリック・シン氏だ。
シン氏は、カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)とピッツバーグ大学メディカルセンター(University of Pittsburgh Medical Center)が設立に携わった、研究機関「Center for Machine Learning and Health」の創設者でもある。過去にはスタンフォード大学(Stanford University)の客員准教授、Facebook(現Meta Platforms)の客員研究員などを歴任した。学術界での業績に加え、産業界にも進出している。AI技術をさまざまな業種に応用するサービスベンダーPetuumの創設者、エグゼクティブチェアマン、チーフサイエンティストも務めた。
MBZUAIの学長として、シン氏は大学の基礎研究プログラムの開発を指揮している。開発は軌道に乗っており、2023年10月時点で同大学の研究者が発表した研究論文は597本に上る。同氏は企業および学術機関と同大学のパートナーシップ構築にも尽力した。下記はその例だ。
MBZUAIは、大規模言語モデル(LLM)の開発など、特定のプロジェクトで他の組織と提携している。同大学はAI技術ベンダーのCore42やCerebras Systemsと協力し、アラビア語のLLM「Jais」を開発した。同大学のパートナー企業はJaisの改良を続けており、シン氏はJaisを「自然言語の理解だけにとどまらず、他の分野にもメリットをもたらす基盤モデル」だと考えている。基盤モデルは、大量のデータでトレーニングした汎用(はんよう)的なAIモデルを指す。
MBZUAIが率先して投資をするもう一つの分野は、ライフサイエンスだ。シン氏が最初に取得した博士号は、ラトガース大学(Rutgers, The State University of New Jersey)の分子生物学と生化学であることを考えると、当然の流れだと言える。MBZUAIはDNAの塩基配列決定(シーケンシング)と疾病予測の研究に注力しており、どちらも実用段階だ。例えばシーケンシングは、UAE国民のゲノム情報を収集・解析するプロジェクト「Emirati Genome Programme」に使用されている。疾病を予測するアルゴリズムは、SEHAが心臓発作やその他の冠動脈疾患を予測するために使用している。
世界的なAI専門家として知られるシン氏は、AI技術のメリットや、AI分野でUAEが果たす役割についてコメントを求められる場面が少なくない。2023年4月、米国のメディア「CNN」のベッキー・アンダーソン氏によるテレビインタビューで、シン氏は、UAEをはじめ世界中の研究者が開発している基盤モデルがもたらすメリットを挙げた。シン氏が挙げた「基盤モデルが影響を与える3つの分野」は、医薬品の開発、気候のシミュレーション、エネルギーの制御だ。これらは複雑な分野なので、人の知性では処理し切れないというのが、シン氏の見解だ。こうした複雑な作業にはAIモデル、特に基盤モデルが必要になると考えられる。
シン氏によれば、UAEは早い段階からAI技術を本格的に受け入れている国の一つだ。UAEはAI技術を、エネルギー産業を主軸とした経済体制から脱却するための重要な力だと捉えている。同氏は、国内で基本的な研究開発(R&D)の能力を高められれば、UAEがAI分野に参入でき、世界的な競争で優位に立てると確信している。
CNNのインタビューでシン氏は、AI技術の背後にあるリスクや可能性を政府や関連機関のステークホルダーが理解する手助けをすることで、MBZUAIが「シンクタンクとしての役割」を積極的に果たしているとの考えを示した。「意思決定者に影響を与える上で、われわれは最良の役割を果たすと考える」とも同氏は語った。
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