「JPEG XL」は、「JPEG」の後継として、JPEGが抱えているさまざまな課題を解決する次世代規格だ。ただし普及への道のりは半ばだといえる。その歴史を、JPEG XLの開発者が語る。
本記事は、画像フォーマット「JPEG XL」の開発に携わる画像・動画管理ツールベンダーCloudinaryのシニアイメージリサーチャー、ジョン・スナイアーズ氏による寄稿を基にしている。スナイアーズ氏はJPEG XL特別グループの共同議長であり、画像フォーマット「FLIF」(Free Lossless Image Format)の共同開発者でもある。
Webページに掲載する画像を適切なサイズとフォーマットにすることは、優れたエンドユーザー体験の提供、SEO(検索エンジン最適化)強化、データ転送量や電力といったリソースの削減などの観点において重要だ。画像処理および圧縮技術に関わる開発者として、筆者は「JPEG」の後継フォーマットとなるJPEG XLの開発に積極的に関わってきた。JPEG XLという名前は「優れている」(eXceL)の意を込めたもので、特大サイズを意味する「eXtra Large」ではない。JPEGが登場したのは1992年であり、それから30年以上が経過している。そのため、技術の更新が必要な状態だった。以下では、JPEG XLの採用に至るまでの、困難な道のりを伴うドラマを紹介する。
著者が英Computer Weeklyで初めてJPEG XLを紹介したのは2019年のこと。その頃、JPEG XLの開発グループは設立されたばかりで、提案募集を始めたところだった。著者がCloudinaryで開発した「FUIF」と、Googleが開発した画像フォーマット「PIK」が、JPEG XLの基礎として選ばれた。
JPEG XLの利点を以下に挙げる。
結論としてJPEG XLは撮影から編集、配信、保管に至るまでの全行程において使用できる、有望な新規格といえる。2021年4月にGoogleは、同社が主導するオープンソースWebブラウザ「Chromium」において、JPEG XL形式のファイルを扱えるようにした。この動きはWebアプリケーション開発者だけではなく、AdobeやMeta Platforms、Intelなどの企業から期待を集めた。
2022年11月、Chromiumの開発チームはChromiumで扱える画像フォーマットからJPEG XLを外し、関係者に大きな衝撃を与えた。その理由は「エンドユーザーがJPEG XLに十分な関心を示していない」「技術的な利点が不十分」というあいまいなもので、議論の余地があるものだった。
2023年6月、Appleの開発者向け年次カンファレンス「WWDC23」で予想外の出来事が起こった。同社の発表で、Webブラウザ「Safari」のバージョン17が新たにJPEG XL形式の画像を扱えるようにすることが明らかになったのだ。その後、「iOS」「iPadOS」「macOS」「watchOS」「visionOS」といった各OSの新バージョンでも、標準画像ビュワーでJPEG XLが閲覧可能になった。
JPEG XLの開発者は、JPEG XLを扱える最初のWebブラウザがSafariになるとは予想していなかった。JPEG XLの共同開発には、Webブラウザを手掛けるGoogleが関わっていたためだ。
Appleの動向は、JPEG XLの普及にとって重要なニュースだった。Appleの発表を受けて、GoogleもChromiumでJPEG XLを再び扱えるようにする可能性がある。これは、JPEG XLに勢いが戻ってきたことを示すものだ。
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