次世代画像フォーマット「JPEG XL」再流行の兆し――開発者が語る激動の歴史一度はGoogleに“見捨てられた”が……

「JPEG XL」は、「JPEG」の後継として、JPEGが抱えているさまざまな課題を解決する次世代規格だ。ただし普及への道のりは半ばだといえる。その歴史を、JPEG XLの開発者が語る。

2024年03月08日 08時30分 公開
[Adrian BridgwaterTechTarget]

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 本記事は、画像フォーマット「JPEG XL」の開発に携わる画像・動画管理ツールベンダーCloudinaryのシニアイメージリサーチャー、ジョン・スナイアーズ氏による寄稿を基にしている。スナイアーズ氏はJPEG XL特別グループの共同議長であり、画像フォーマット「FLIF」(Free Lossless Image Format)の共同開発者でもある。

 Webページに掲載する画像を適切なサイズとフォーマットにすることは、優れたエンドユーザー体験の提供、SEO(検索エンジン最適化)強化、データ転送量や電力といったリソースの削減などの観点において重要だ。画像処理および圧縮技術に関わる開発者として、筆者は「JPEG」の後継フォーマットとなるJPEG XLの開発に積極的に関わってきた。JPEG XLという名前は「優れている」(eXceL)の意を込めたもので、特大サイズを意味する「eXtra Large」ではない。JPEGが登場したのは1992年であり、それから30年以上が経過している。そのため、技術の更新が必要な状態だった。以下では、JPEG XLの採用に至るまでの、困難な道のりを伴うドラマを紹介する。

第1幕:従来の課題を解決するJPEG XL

 著者が英Computer Weeklyで初めてJPEG XLを紹介したのは2019年のこと。その頃、JPEG XLの開発グループは設立されたばかりで、提案募集を始めたところだった。著者がCloudinaryで開発した「FUIF」と、Googleが開発した画像フォーマット「PIK」が、JPEG XLの基礎として選ばれた。

 JPEG XLの利点を以下に挙げる。

  • 無償でレファレンス実装が利用可能
    • JPEG XLにはオープンソースのレファレンス実装(仕様を用いた機能を実装するための参考実装)がある。これを参考にすれば、アプリケーション開発者は自身のアプリケーションでJPEG XL形式の画像を扱えるようになる
  • 可逆圧縮が可能
    • 現在、主に図形で構成されていたり、透明部分を含んだりする画像は「PNG」形式が主流だが、JPEG XLはPNGよりも効率的な可逆圧縮が可能だ
    • JPEGからJPEG XL形式に可逆圧縮した画像は、元のJPEGファイルよりも60%容量が小さくなる
  • 非可逆圧縮が可能
    • JPEG形式の画像は、JPEG XL形式に非可逆圧縮できる。非可逆圧縮後のJPEG XLファイルはJPEGファイルよりも16~22%容量が小さく、元のJPEGファイルに損失なしで復元できる
    • JPEG XL形式の画像は、カメラやディスプレイでの表示において、HDR(ハイダイナミックレンジ)画像や広色域画像を扱えることに加え、深度や温度といった次世代のセンサーデータを反映できる
  • 段階的な復元が可能
    • これによって、インターネットでの転送中に画像のプレビューが表示可能になる
  • 省リソース
    • JPEG XL形式画像への圧縮は迅速かつ省エネルギーであるため、Webページやオンラインサービスで画像を多用する企業にとって電力削減につながる

 結論としてJPEG XLは撮影から編集、配信、保管に至るまでの全行程において使用できる、有望な新規格といえる。2021年4月にGoogleは、同社が主導するオープンソースWebブラウザ「Chromium」において、JPEG XL形式のファイルを扱えるようにした。この動きはWebアプリケーション開発者だけではなく、AdobeやMeta Platforms、Intelなどの企業から期待を集めた。

第2幕:2022年の“悪夢”

 2022年11月、Chromiumの開発チームはChromiumで扱える画像フォーマットからJPEG XLを外し、関係者に大きな衝撃を与えた。その理由は「エンドユーザーがJPEG XLに十分な関心を示していない」「技術的な利点が不十分」というあいまいなもので、議論の余地があるものだった。

第3幕:Appleによって勢いが戻る

 2023年6月、Appleの開発者向け年次カンファレンス「WWDC23」で予想外の出来事が起こった。同社の発表で、Webブラウザ「Safari」のバージョン17が新たにJPEG XL形式の画像を扱えるようにすることが明らかになったのだ。その後、「iOS」「iPadOS」「macOS」「watchOS」「visionOS」といった各OSの新バージョンでも、標準画像ビュワーでJPEG XLが閲覧可能になった。

 JPEG XLの開発者は、JPEG XLを扱える最初のWebブラウザがSafariになるとは予想していなかった。JPEG XLの共同開発には、Webブラウザを手掛けるGoogleが関わっていたためだ。

 Appleの動向は、JPEG XLの普及にとって重要なニュースだった。Appleの発表を受けて、GoogleもChromiumでJPEG XLを再び扱えるようにする可能性がある。これは、JPEG XLに勢いが戻ってきたことを示すものだ。

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