ESG経営において、環境問題や社会課題への取り組みは消費者や従業員の理解を得やすい。一方でガバナンス強化は見過ごされがちだが、等しく重要だ。ガバナンス強化に直結するアクションの具体例を探る。
経営にESG(環境、社会、ガバナンス)の要素を取り入れようと考えた時、それぞれどのような取り組みを実施すればよいのか。“環境”と“社会”は分かりやすい。例えば炭素排出量の削減は環境に、倫理的なサプライチェーンの構築は社会にひも付く。気候変動やサステナビリティ(持続可能性)、DEI(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)といったテーマもある。
一方で投資家が注目しやすいテーマなのが、企業の統治や事業の運営に関わる“ガバナンス”だ。ガバナンスを強化するためには、取締役会による事業の監視や透明性の確保をはじめ、さまざまな取り組みを実施しなくてはならない。
ビジネスを通じて環境や社会課題を解決する上では、規則や方針、手順を決める必要がある。これもガバナンス強化の一環だ。
ESGに関する情報をまとめた報告書を公開することで、企業として責任ある行動を取っていることを社外に示せるようになる。投資家は報告書の内容から、その企業がリスクの高い経営をしていないかどうか判断できる。ESGの各要素は企業のリスク管理や事業戦略、ひいては企業の収益にも影響を及ぼす。
ガバナンス強化の具体的な例を紹介する。取り組みを検討する際のヒントにしてほしい。
コーポレートガバナンスが十分に機能していない場合、ステークホルダーとの関係悪化や財務状況の悪化、事業目標の未達など、さまざまなトラブルが起こり得る。ガバナンスが機能している企業とそうでない企業では実際に何が起こったのか、4社の事例を紹介する。
2019年設立のFTXは2022年11月に経営破綻した。創業者サム・バンクマン=フリード氏は2023年11月、詐欺罪で有罪判決を受けた。監督体制に不備があり、従業員は同社の資金をぜいたく品の購入に充てていたという。
Twitter社の事例はリーダーシップやステークホルダーの優先事項を見誤り、資源配分の不備を呈した出来事といえる。2022年10月、イーロン・マスク氏はTwitter社を買収。従業員の80%を解雇したと報じられた。この結果、つぶやきの監視機能が低下し、ヘイトスピーチを助長するつぶやきが横行したことで、広告主が相次いでTwitterから撤退する事態となった。これを受けて同社は財務的な損害を受け、企業イメージを悪化させた。
Patagoniaは規制順守にとどまらず、企業としてのミッションを追求することで、サプライチェーン管理やビジネスインテグリティを実現している好例だ。サプライチェーン全体のカーボンフットプリント(活動を通じて排出される二酸化炭素量)を削減するために、店舗やオフィス、配送センターのエネルギー源を100%再生可能エネルギーに切り替えている。環境に配慮した素材を使用し、労働環境の改善に向けた仕組み作りもしている。
Unileverは2023年2月に公開したガバナンス報告書「TheGovernance of Unilever」で、ESGの実現に向けた同社の具体的なアクションを示している。例えば、再生可能エネルギーへの移行や植物由来の製品ラインアップ拡大など、地球環境への配慮を目的とした目標を掲げている。取締役会の役割や役員の責任を明確に定義している点も注目に値する。同社のWebサイトでは、気候移行行動計画(Climate Transition Action Plan)の進捗(しんちょく)状況を開示している。
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