アクセシビリティー(利用しやすさや分かりやすさの意味)への配慮は、文化背景や制約、条件を問わず「誰でも読めるようにする」という点で重要だ。読者のために「これだけはやるべき」というヒントを紹介する。
文書(ドキュメント)やWebページなどのコンテンツの「アクセシビリティー」(利用しやすさや分かりやすさの意味)に対する配慮は、重要でありながら後回しにされがちだ。アクセシビリティー向上に取り組むことの重要性と、アクセシビリティー確保によって万人が得られるメリットとは何なのか。
ニューヨーク州立大学パーチェス校(Purchase College, State University of New York)のアクセスカウンセラーであるスコット・メシュニック氏も、「アクセシビリティーの確保は、業種業態を問わず考えるべき事柄だ」と主張し、従業員の教育体制を維持することの意義を説く。
後編となる本稿は、アクセシビリティー向上につながる実践のヒント6つのうち、4つ目から6つ目を紹介する。
「構造化されたコンテンツ」は、明確で一貫した階層を持つ。例えばWebページは大抵、〈h1〉タグを持つ第1レベルの見出しから始まり、第2レベルの〈h2〉、第3レベルの〈h3〉、第6レベルの〈h6〉まで階層を分けられる。こうした要素を「セマンティック要素」と呼び、これを適切にマークアップする(HTMLタグを設置して文章を構造化し、意味付けをする)ことを「セマンティックマークアップ」という。見出しや小見出し、表、リストなどの要素をタグ付けすることで、アクセシビリティーは向上する。
例えばPDFファイル編集ソフトウェア「Adobe Acrobat」は、構造化タグのツリー構造を利用し、コンテンツを整理する。こうしたセマンティックマークアップによって、コンテンツのレンダリング(画像の処理)時にコンテキスト(背景情報)を提供し、読者がコンテンツを扱いやすくなる。
見出しとは、画面読み上げソフトウェア「スクリーンリーダー」が識別しやすく、コンテンツ内の異なる場所へ簡単に移動できるように設計された仕組みだといえる。適切な見出しがあれば、読者はキーワード検索よりも迅速に、求めている情報にたどり着ける。
適切な見出しがなければ、スクリーンリーダーが長いコンテンツをナビゲーションすることは困難だ。見出しはコンテンツに構造を与える。「見出しとは、要するにタイトルやサブタイトルだ。章をトピック別に分けて整理する手段であり、コンテンツを明確に区切る役割を果たす」とメシュニック氏は説明する。
「アクセシビリティー向上に、人工知能(AI)技術が革新をもたらす――企業はそのような期待を抱き始めている」。こう話すのは、調査会社Gartnerでリサーチ&アドバイザリー部門シニアディレクターを務めるティム・ネルムズ氏だ。
中でも生成AI(コンテンツを自動生成するAI技術)は「コンテンツのアクセシビリティー向上に大きな影響を与える」とネルムズ氏は考える。生成AIは、アクセシビリティーを向上させるタグを追加したり、Webページのアクセシビリティー問題を自動でチェックしたりするのに役立つ。生成AIは代替テキストの作成を容易にし、コンテンツ制作者が見落としがちな問題の改善を支援する。誰もが「良い著者」になり得る、というのが同氏の主張だ。ただし、生成AIはまだ新しい技術だ。現段階では慎重に利用するのが望ましい。
コンテンツ制作者がコンテンツのアクセシビリティー改善に取り組む際には、インターネットに公開されている資料が大きな助けとなる。「ウェビナーやオンライン講座などは特にアクセシブルな文書作成技術を学ぶのに効果的だ」と、オコナー氏は指摘する。Adobe Acrobatのようなコンテンツ作成ツールに備わるアクセシビリティーチェック機能も、最低限の基準を満たすのに役立つ。
次に取り組むプロジェクトの成果物は本当に文書でなければならないのか――コンテンツ制作者は常に自問自答すべきだ。文書形式でなくてもいいのなら、メールマガジン、Webページ、動画など、選択肢は幾つもある。
アクセシビリティーの課題に取り組んだコンテンツ制作者には、適切な知識とスキルが身に付くはずだ。「この経験は、チーム全体の業務を改善するアクセシビリティー戦略に役立つ」とメシュニック氏は言う。
「アクセシビリティー向上の原則を定期的に学び、実践し続けることで、全ての人がアクセシビリティーの恩恵を受けられる」。メシュニック氏はそう強調する。
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