Windows搭載のPCのプロセッサは従来、x86互換のプロセッサが主流だった。だがMicrosoftは、AI PCが注目を集める中でArmアーキテクチャのPCの提供を推進し始めた。この変化が引き起こす問題とは。
MicrosoftのクライアントOS「Windows」を搭載するPC(以下、Windows PC)は従来、「x86」(IntelのCPUが起源の命令セットアーキテクチャ)互換のプロセッサを使用するのが一般的だった。x86互換のプロセッサとは、IntelやAdvanced Micro Devices(AMD)が提供しているプロセッサだ。
だがAI(人工知能)技術を動かすPCが登場する中で、Microsoftはx86の互換ではないArmアーキテクチャを搭載するWindows PCの提供を推進し始めた。x86版とArm版は何が違うのか。その違いは、Windows PCの購入や利用において軽視できないほど大きな問題になる可能性がある。
2024年5月にMicrosoftが発表したブランド「Copilot+ PC」のうち、最初に発売したのはQualcomm Technologiesの最新SoC(System on a chip)を搭載するPCだった。Microsoftは、AI関連の処理に特化したプロセッサを搭載する「AI PC」のうち、一定の基準をクリアするPCをCopilot+ PCと呼んでいる。
こうしてMicrosoftがArmアーキテクチャ搭載のCopilot+ PCをアピールする中で生じた疑問は、QualcommのSoCを搭載するPCと、x86の互換であるIntelとAMDのプロセッサを搭載するPCは何が違うのかという点だ。
Dell Technologiesは、Copilot+ PCを提供するPCメーカーの一社だ。Dell Technologies UKでクライアントソリューショングループのシニアディレクターを務めるルイーズ・クィネル氏は、「当社はプロセッサの多様性の確保に努めている」と語る。顧客にとっては幾つかの選択肢があるべきだという前提に立てば、x86互換のプロセッサと、Armアーキテクチャのプロセッサの両モデルを提供することは重要な取り組みになる。
ただし注意が必要なのは、x86互換のプロセッサを搭載するPCと、Armアーキテクチャのプロセッサを搭載するPCは、基本的には別物だと考えなければならない点だ。ハードウェアのアーキテクチャが変わることによって、ソフトウェア開発者は互換性の課題に直面することになる。
クィネル氏は、Dell Technologiesはこの互換性の観点を重視して幅広い製品ポートフォリオの提供に努めていると強調する。「当社はMicrosoftおよびQualcommとの緊密な連携の下、ArmアーキテクチャのPCにおいてもx86互換のPC製品と同程度の厳密さを実現できるように取り組んでいる」
Armアーキテクチャ版のCopilot+ PCにおいてバッテリー駆動時間の性能や処理性能を最大限に引き出すためには、エミュレート(ソフトウェアを互換性のないシステムで実行できるように再現すること)ではなく、ネイティブな仕組みとして動かすことが重要になるという。クィネル氏によると、DellはArmアーキテクチャがもたらす利点を最大限に取り入れるために、AI技術を活用してシステムを最適化するソフトウェア「Dell Optimizer」のような独自ソフトウェアに関しても、Armアーキテクチャ版を用意している。
だが、それでもArmアーキテクチャ版のWindows PCを使用するに当たって注意しなければならない点はある。何より企業はx86のWindows PCになじんでいる。ArmアーキテクチャのWindows PCに移行することはIT部門にとっては大きな方針転換となり、現時点では想像できていないさまざまな問題に直面する可能性がある。
AcerもCopilot+ PCを提供するPCメーカーの一社だ。同社はユーザー企業のIT部門に対して、ArmアーキテクチャのWindows PCを採用するのであれば、導入前に互換性のテストを実施するように促す。「IT部門は互換性テストを実施して、組織で使用する全てのアプリケーションを、『Windows 11』およびCopilot+ PCで問題なく動くことを確認する必要がある」と同社は説明する。
Microsoftが公開しているドキュメントによれば、Windows 11ではx86とx64のアプリケーションの両方を実行できるエミュレーションの機能がある。Armアーキテクチャのハードウェアでx86とx64のアプリケーションを実行できる機能があることで、エンドユーザーはArmアーキテクチャのデバイスに移行しても大半の既存アプリケーションを問題なく実行できるという安心が得られる。
Microsoftは毎年開催している開発者向けカンファレンス「Build 2024」で、「Prism」という新たなエミュレーターを発表した。Microsoftの説明では、PrismはArmアーキテクチャのWindows PCにおいてエミュレートされたアプリケーションの実行を高速化するエミュレーションエンジンだ。PrismはソースコードをArmアーキテクチャ版に実行可能な形式として変換して動作できるようにする。ただしMicrosoftは、応答性やバッテリー駆動時間の性能を最大限に引き出すためには、Armアーキテクチャのネイティブのアプリケーションとして移植することを開発者に促している。
とはいえ、エミュレーションは暫定措置として有効だ。全てのアプリケーションを作り直すことなく、Armアーキテクチャの新しいハードウェア移行するための一時的な手段としてエミュレーションが使える。
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
エンタープライズ向け技術は、Linuxを中核に据え、オープンソースで動作しているものが多い。しかし近年、一部のベンダーが契約による囲い込みを強めており、ベンダーロックインのリスクが高まっている。安定したLinux運用を実現するには?
ITサービスへの要求は年々増大しており、その対応を手作業でカバーするには限界がある。そこで導入されるのがITSMツールだが、特に自動化機能には注意が必要だ。自社に適した運用自動化や作業効率化を実現できるのか、しっかり吟味したい。
業務効率を高めて生産性を向上させるために、多くの企業がITシステムの導入を進めている。しかし、自社の業務に合わないITシステムを導入してしまっては、逆に生産性が低下する可能性も高い。この問題をどう解決すればよいのだろうか。
世界中で広く利用されているChromeブラウザは、業務における重要なエンドポイントとなっているため、強固なセキュリティが必要となる。そこでChromeブラウザを起点に、企業が安全にWebへのアクセスポイントを確立する方法を紹介する。
Google Chromeの拡張機能は生産性の向上に不可欠な機能であり、ユーザーが独自にインストールできる一方、IT管理者を悩ませている。ユーザーデータを保護するためにも、効率的な運用・監視が求められるが、どのように実現すればよいのか。
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。