生成AIを「使いこなす部門」と「傍観する“あの部門”」のそれぞれの事情生成AIの実装はどこまで進んだ?【前編】

ビジネスにおける生成AI実装は着実に進んでおり、日常業務に欠かせない存在となりつつある。2024年、生成AIの導入はどの程度進んだのか。特定の部門で導入が遅れている理由とは。

2024年12月19日 05時00分 公開
[Lev CraigTechTarget]

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 ビジネスにおける生成AI(AI:人工知能)実装は大幅に進み、より多くの企業が概念実証(PoC)から本番環境へと移行している。米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)が実施した調査では、2023年から2024年にかけて、生成AIの利活用に関する新しいトレンドや課題が生まれた状況が明らかになった。

生成AI導入はどこまで進んだ?

 ESGは2024年9月、調査レポート「The State of the Generative AI Market: Widespread Transformation Continues」を発表。企業のIT部門と業務部門の意思決定者800人以上を対象に、生成AIの活用状況について聞いた。レポートによると、2023年はほとんどの組織が生成AI導入の初期段階にあり、本番環境に導入しているかパイロットプロジェクトに取り組んでいる組織は2割程度に過ぎなかった。

 2024年の調査では、92%の回答者が「過去1年間で自組織における生成AI利用が増加した」と回答した。約3分の1の企業が生成AIを本番環境で運用しており、「生成AIのイニシアチブ(主導権)を持っている」と答えた企業の割合も2023年の4%から8%に倍増。特にソフトウェア開発やIT運用の領域で、生産性向上、効率改善、ワークフロー自動化に生成AIが貢献している状況が明らかになった。

 もちろん、生成AIはまだ「普遍的な技術」とは言い難い。30%の企業が生成AIを本番環境で運用する一方、70%の企業はまだその段階に達していない。それでも、企業におけるIT革新のスピードは通常かなり緩慢であることを考えると、生成AIの導入がこれまでにないペースで進んでいる点は注目に値する。「生成AIを導入すべきかどうか」よりも「どれだけ迅速に導入できるか」が問われている状況だ。

 予算配分にも変化が見られた。2023年、企業はAI関連の支出に対して慎重な姿勢を取っていた。AI向けの予算を確保していた企業は約半数にとどまり、投資額も控えめな傾向にあった。2024年、企業のAI関連支出は増加した。背景には、AIプロジェクトの投資利益率(ROI)に対する自信や、AI関連の競争に後れを取ることの不安が反映されていると考えられる。「2025年に生成AI向け予算の減少が見込まれる」と回答した企業はわずか1%で、約70%が予算増加を見込んでいる。

なぜ“あの部門”で生成AI導入が進まない?

 生成AIの利用が拡大する中で、その最適な活用領域が徐々に明確化しつつある。2023年以降、技術職を中心とした分野では生成AIの活用が急速に進んでいる。

 例えば、ソフトウェア開発は生成AIの代表的なユースケースの一つだ。開発者は、ソースコードの記述、トラブルシューティング、テストの自動化といった業務に生成AIを活用している。ESGの調査では、63%のアプリケーション開発者が本番環境で生成AIを使用しており、迅速なソースコード生成や顧客サポートの改善といったメリットを高く評価している。

 IT運用も生成AI導入が進む分野だ。これまで、IT運用担当者はAIOps(AI for IT Operations)ツールに懐疑的な姿勢を示すことが多かった。これらのツールは期待通りの成果を上げられず、失望を招くケースが少なくなかったためだ。一方で、生成AIツールに対しては肯定的な反応が目立つようだ。ESGの調査によれば、チケットの自動振り分けやインシデント対応の自動化において、生成AIの活用が着実に進んでいる。

 開発者やIT運用担当者が生成AIを積極的に活用する背景には、業務の特性上、新技術に対する理解が深く、受容性が高いことが挙げられる。生成AIの試験運用に必要なスキルや技術基盤を備え、課題を特定し解決する能力も有している。技術分野での成果を求める経営層からのプレッシャーが強いことも、早期導入を促進する一因となっている。

 一方で、営業やマーケティングといった分野では、生成AIの利用はいまだ限定的だ。その背景には、これらの部門で掲げる目標が主観的で、定義が曖昧な場合が少なくないという事情がある。

 さらに、これらの非技術部門で扱うデータは構造化されていない傾向にあり、生成AIとの相性が良いとは言い難い。例えば、コードベースやITチケット、パフォーマンスログといった構造化データは、AIモデルの微調整に適している。一方、「ブランドイメージに沿ったマーケティング資料の作成」といったタスク向けにAIモデルを調整するのは容易ではない。過去のマーケティング資料を収集し、それらを生成AIモデルが学習可能な形式に変換するなど、煩雑な作業を伴う可能性が高い。

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