「ERP動向」総まとめ SaaS化の一方で“カスタマイズ回帰”の兆しも2025年以降のERPトレンド“9選”

ERPの需要は依然として旺盛だ。AI技術やクラウド型ERP、業界特化型クラウドなど、2025年以降のERPに関連する最新トレンドを紹介する。

2025年02月04日 05時00分 公開
[Christine CampbellTechTarget]

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 ERP(統合基幹業務システム)は従来、経理や調達などバックエンドの業務を支える存在と見なされてきたが、現在では業務プロセスの自動化や顧客体験の改善、eコマース(EC:電子商取引)の推進といった戦略的取り組みを推進する存在へと進化している。デジタルトランスフォーメーション(DX)の中核として、欠かせない役割も果たしている。

 ERPに対する需要は依然として旺盛だ。調査会社HG Insightsの調査によると、世界のERP市場は2022年以降8%成長しており、2025年には企業がERPに1477億ドルを費やす見通しとなっている。こうして市場が成長する一方で、ERPは生成AI(AI:人工知能)をはじめとする新技術や持続可能性の推進、規制の厳格化など、急速に変化するビジネス要件に強く影響されている。

2025年以降の「ERP最新トレンド」9選

 コンサルティング会社West MonroeでM&A ERPリードを務めるクリス・ペリー氏は、「ERP業界は非常に活発な時期にある」と述べ、大手ERPベンダーがAI技術やインダストリー4.0、SaaS(Software as a Service)、業界特化型ERPといった分野の企業を買収している動向を挙げる。

 2025年以降に予測されるERPのトレンドは次の通り。

1.クリーンコア導入がSaaS型ERPの基盤を構築

 ここ数年、ベンダーはERPのクリーンコア(システムの基盤となる最小限の機能セット)導入を推進している。ベンダーはクリーンコア導入において以下の点を重視している。

  • ERPの業務プロセスとデータの標準化
  • クラウドサービスの標準に準拠した拡張と統合
  • 複数のユーザーがシステムを共有するマルチテナントSaaSへの適合

 ベンダーが開発する機能をユーザー企業はすぐに利用したいというニーズがあるため、「SaaS型ERPは今後も成長を続けるだろう」とペリー氏は述べる。従来型のオンプレミス環境では、ユーザー企業はシステムのアップグレードに2年も待たされることもあった。SaaS型ERPであれば、ベンダーが新しい機能を提供し次第、ユーザー企業はすぐにその機能を利用できる。

 「私たちは組織がSaaSモデルへ継続的に投資していることを目にしている」とペリー氏は言う。その理由の一部は、SaaSモデル固有のメリットによるものであり、また別の理由は、SaaSモデルのみを提供しているベンダーによるものだ。

 「このトレンドの一環として、サードパーティーベンダーはSaaSへの移行に備え、オンプレミスERPのソースコードを修正し、時には完全に再設計するためのツールを開発し続けるだろう」(ペリー氏)

2.ソフトウェアへのAIの組み込みがさらに進展

 AI(人工知能)技術の採用が拡大するにつれ、ERP製品にもAI機能がさらに追加されると見込まれる。例えば、「SAPは業務プロセスを処理するさまざまなAIアプリケーションをERPに組み込んでいる」とペリー氏は述べる。

3.AIがコード生成を促進

 ソースコードを生成するAI技術の活用が、ERPのもう一つの大きなトレンドとなるだろう。ペリー氏は「AI技術によるソースコード生成はまだ初期段階にある」と述べ、それでもAI技術は開発プロセスの一部を強化するのに役立っていると付け加える。

4.実装を迅速化するツールが充実

 ERPベンダーが技術面とビジネス面のギャップを埋めるツールを提供することが予測されるとペリー氏は述べる。例えばSAPは、ビジネスプロセスとシステム設計の整合性確保に取り組むベンダーを買収した。「ビジネス上の議論を実施した上で、それをソフトウェアやトレーニング、テストに反映させることが目的だ」(同氏)

5.AIが自家製アドオンを強化

 AI技術でソースコードを生成することが実用的な選択肢になり、2025年はERPシステムのカスタムコードを書く時代に回帰する可能性があるとペリー氏は主張する。「独自のERPを開発する企業はないとしても、AI技術を活用して特定のタスクを実行するようにカスタマイズをする企業はあるだろう」と同氏は述べる。例えばAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を通じてERPに接続し、供給不足時にサプライチェーンを最適化するためにERPから情報を抽出するといった具合だ。

 ペリー氏によれば、そうした自家製アドオンの追加に拍車を掛けているのは、以下の動向だ。

  • AI技術を使って特定機能の作成が容易になること
  • AI技術を使って効率的に実装できること
  • 現代のERPシステムがAPIを豊富に備えていること

6.提案依頼書では自動化と分析が必須条件

 ERPの提案依頼書(RFP)では、企業業績管理、分析、自動化の組み込みが求められている。かつては主にERPの財務機能や人的資本管理(HCM)向けであったものが、自動化を含め、他のアプリケーションへと拡大している。

 分析機能もERPに必須の機能になっていると専門家は指摘している。企業がシステムのモダナイゼーション(最新化)を検討する際には、ほとんどのRFPに分析機能が含まれるようになっている。

7.業界特化型クラウドへの需要が拡大

 専門家によれば、業界特化型のクラウドサービス製品に対する需要は高まり続けているが、それにはトレードオフが伴う。業界特化型のERPは、カスタマイズ可能な汎用(はんよう)ERP製品よりも高価になる傾向がある。この方法を選択する場合は、業界特化型のスキルセットが社内で不足している可能性を認識しておく必要もある。

 それでも今後、業界特化型のクラウドサービスが急速に普及すると考えられる。ITサービス企業は、この需要に応えるべく導入を支援するためのツールを提供しており、ERPベンダーも特定の業界向けに特化した製品を次々と発表している。

8.規制がデータの保存方法を決定

 複数の国、特に欧州連合(EU)で事業を展開する企業は、データ主権に関する規制が厳格化しているため、データへのアクセス権限や保存方法について十分な注意を払う必要がある。企業は新しい規制に常に目を光らせ、ITシステムの初期設計および計画段階でそれらを考慮に入れることが求められる。

 EUのデータ主権に関する規制では、一部の例外を除き、欧州のデータをEU域内のサーバに保存することが義務付けられている。データ法(Data Act)は、データガバナンス法(Data Governance Act)および一般データ保護規則(GDPR)とともに、プライバシー管理を強化するものだ。製造および産業用途で普及しているIoTデバイス(その多くはERPと統合されている)が生成するデータの保護を目的としている。

9.中堅企業は引き続き代替のERP製品を採用

 SAPやOracle、その他の従来のERPベンダーは堅実な製品を提供しているが、それらは必ずしも万人向けではない。2025年には中堅規模以下の企業の多くが、クラウド型またはオープンソースのERP製品に目を向けることになるだろう。中小企業は通常、ERPの導入に18〜24カ月もの時間を費やす余裕を持ち合わせていない。そのため、大手ERPベンダーの最も一般的な製品よりも複雑ではなく、事前設定済みのテンプレートを備えたクラウド型ERPによる簡便性を求めている。

(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)

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