プライベートクラウドソリューション最前線【第7回】
運用最適化を重視した富士通のプライベートクラウドサービス
サーバベンダー、SIerとして国内大手の富士通がプライベートクラウドで注力するのは、アウトソーシングサービスと移行サービス。
連載インデックス
企業システムの新たな構築手法として、クラウドコンピューティングを活用しようという機運が急速に高まっている。これは、多くのサーバベンダーやSIer、データセンター事業者が感じているところだ。サーバベンダーやSIerとして国内大手の富士通も例外ではない。2009年から2010年にかけ、企業システムをサービス化して利用するクラウドの商談は2倍以上に急増したという。最近はPaaSやSaaSなどのパブリッククラウドに加え、企業が自社内にクラウド環境を構築するプライベートクラウドの案件が増え始め、およそ2割を超えるまでになっている。
そうした中、富士通が特に力を入れて取り組んでいるのが、プライベートクラウドをアウトソーシングサービスとして提供する「プライベートクラウドサービス」だ。クラウド特有の複雑な運用業務を企業に変わって実施し、情報システム部門の負荷軽減を目指す新サービスである。
本格的なプライベートクラウドサービスを開始
サーバベンダーであるとともに国内有数のSIerである富士通では、2009年からクラウドコンピューティングに関しての商談や問い合わせが急増中だという。
クラウドコンピューティングやその関連技術となる仮想化は、サイロ化されたシステム、グループガバナンスの強化、コストダウンといったITに関するさまざまな課題に対して一定の効果が見込めるため、導入を検討する企業は多い。しかし、クラウドシステムを導入しても、クラウドに関して社内にノウハウがないために「障害発生時の切り分け、バックアップやマイグレーションはどうするか」「想定した性能が得られないのでは」といったクラウド固有の複雑な運用に対する不安が残る。
富士通でプライベートクラウドを担当する伊井哲也氏は、「クラウドや仮想化に関する課題が顕在化してきたため、多くの企業はベンダーの付加価値に期待を持っています」と分析する。
こうしたクラウドコンピューティングの課題の中でも、富士通が特に着目したのは運用管理業務の負荷軽減である。そのため2010年11月に本格的なプライベートクラウドサービスを開始した。
新しいサービスは、主にインフラレイヤーにおける構築、運用設計、実運用をメニューの軸とし、これらを一体化したオンデマンド、いわゆる従量制でも提供する。2010年4月には、アプリケーションレイヤーにおけるクラウドへのモダナイゼーションサービス(最新システムに最適化・移行するサービス)、見える化・可視化するサービスの提供を開始した。それらを含めて「インフラとアプリを一体化したサービスを提供していこうというのが、プライベートクラウドサービスにおける軸になります」(伊井氏)
プライベートクラウドサービス4つのポイント
富士通のプライベートクラウドサービスには、4つのポイントがある。1つは、富士通のクラウド運用エキスパートが標準テンプレートを使用し、プライベートクラウド環境の運用を実施するというものだ。これにより、システムの安定稼働と継続的な改善が実現できる。
「これは、お客さまの社内にオンプレミスで構築されたプライベートクラウド環境と、富士通の館林データセンターの両方に対応する運用サービスを提供するものです。当社のプライベートクラウドサービスは運用に重きを置いており、これまでアウトソーシングサービスなどで培ってきた運用保守総合モデルにクラウド固有の運用作業項目をプラスした標準テンプレートを適用します。これが最大のポイントです」(伊井氏)
2つ目のポイントは、オンデマンド方式でサービスを提供して投資効果を最大化できるところだ。富士通では、クラウドで提供する各種サービスをセットにしてサービスカタログ化して提案する。企業は、あらかじめ安価に設定した基本料金にプラスして、必要に応じて利用した分だけ従量制でコストを負担する。これにより、スモールスタートが可能になり、運用コストが平準化できるなどのメリットがある。
3つ目のポイントは、クラウド環境を取り入れた企業システム全体最適化の調査や提案などを行う点だ。そして4つ目は、独自のプライベートクラウド構成モデルや設計・構築のテンプレートなどを適用することで短期間のうちに導入できるということだ。
「クラウドシステムを検討する際には、業務の見える化や仕分けが非常に重要です。お客さまの今の業務、アプリケーション、処理、データなどの特性によって、どのクラウドパターンが一番向いているのかをしっかりと見極め、最適な提案を行います。さらに、富士通が持つ標準化テンプレート、サービス基盤やサービス要員を活用し、設計・構築の工程を短納期化できることもポイントです」(伊井氏)
モダナイゼーションとマイグレーションで差別化
こうした富士通のプライベートクラウドサービスは、金融・流通・製造業などで既に採用が始まっている。また、富士通自身も沼津ソフトウェア開発センターにおいて開発環境をクラウド環境に移行。1800サーバを900サーバに集約し、サービスカタログによる標準化と展開・調達の自動化などによって効率化を図り、年間7億円のコスト削減効果があったと試算している。
富士通のクラウドコンピューティングに関する取り組みは、ここまで紹介したプライベートクラウドサービスに限ったものではなく、特徴的なサービスを幾つも展開している。中でも、業務アプリケーションをクラウド環境に適用させることを狙った「APMモダナイゼーションサービス for Cloud」は、富士通らしい発想のサービスである。
APMモダナイゼーションサービス for Cloudは、現行のシステムがクラウド環境に適するかどうか調べる「業務・アプリケーション選別サービス」、アプリケーションをクラウド環境など適切な環境へ移行する「アプリケーション引越しサービス」、さらに移行後のアプリケーション運用を行う「アプリケーション保守サービス」を一貫して提供するものだ。「富士通独自の分析手法・ツールによって業務を見える化し、それがクラウドに適したものかを見極めるとともに、サポート切れのVisual Basic資産、COBOL資産をクラウドへ移行するというものです」(クラウドアプリケーションセンター長、鎌倉潤一氏)
「富士通は、クラウド時代に最適なアプリケーションフレームワークを独自に持っており、APMモダナイゼーションサービスによってその上に現行システムを移行すると、クラウド環境で既存のアプリケーションを末永く利用できるようになります。この点が、他社との差別化につながるこのサービスの目玉だと考えています」(クラウドアプリケーションセンター APMコンピテンシー部、本田誠文氏)
もう1つ、富士通らしさが際立っているのが「TransMigrationサービス」だ。これは、メインフレームやオフコンなどのレガシー資産を含めた既存システムを、クラウド環境をはじめとする最適なプラットフォームに移行するサービスである。資産分析や移行方式を検討する診断フェーズと、実際に移行作業を実施する構築フェーズで構成される。
「富士通は、メインフレームからオープンシステムへの移行において機能差を最小化するマイグレーション用フレームワークを持っています。また、業務アプリケーションの機能のうち、オンライン、帳票出力、バッチ処理、ファイルアクセスなどの機能をまとめて作り込み、量を削減するマイグレーションスイートもあります。これらを適用することで、短期間・高品質な移行を実現します」(クラウドアプリケーションセンター マイグレーションサービス部 部長、千田正一氏)
このように、プライベートクラウドに関するさまざまなサービス体系を用意し、とりわけ「移行」と「運用」の部分に力を入れている富士通だが、同社の強みについて富士通のプライベートクラウドビジネス全体を推進する立場にあるプラットフォームビジネス推進本部 ビジネス企画統括部 プロジェクト部長の服部裕慈氏は、次のように話す。
「当社の最大の強みは、パブリックな環境に構築するクラウドサービスと、オンプレミス型で構築するプライベートクラウドの両方から、最適なものを提案できるというところにあります。それらの技術は共通化されており、館林データセンターで展開して実績のあるクラウドサービスを、ミドルウェアとしてお客さま先のプライベートクラウド環境に提供しています。その中でも当社が一歩先行しているのは、ユーザーがリソースをすぐに配備できるようにサービスカタログとして提供できている部分です。しかも、単一の仮想サーバを用意するというだけではなく、データベースサーバやアプリケーションサーバなど、システム全体を多階層でまとめて配備できるようなシステム管理も含めてサービスカタログ化できている点は、かなり進んでいると自負しています」(服部氏)
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