スマートフォン/タブレットを“厄介者”から“成長エンジン”に変える方法スマートデバイス積極活用元年

セキュリティ対策やアプリケーション開発などの要素技術が充実した2012年こそ、スマートデバイスの業務利用が本格化する“元年”になる。

2012年01月05日 09時00分 公開
[鳥越武史,TechTargetジャパン]

 セキュリティ対策やアプリケーション開発環境など、スマートフォンタブレット端末の社内利用に必要な要素が充実してきた。専門家は「必要な要素がそろった2012年こそ、ユーザー企業がスマートデバイスの業務利用を本格化させる絶好の年となる」と口をそろえる。

 本稿は専門家の意見や導入事例、製品やサービスの実情を踏まえ、2012年のスマートデバイスの企業利用の行方を占う。

 アウディジャパンは、iPadの社内導入に踏み切った企業の1つだ。国内105拠点の正規ディーラーに所属する営業スタッフを対象に、2011年2月に導入を開始。2011年末までに約650台を導入した。

 アウディジャパンのトレーニング・マネジメント部で課長を務める鞆安祥之氏は、営業スタッフが製品知識を取得するためのトレーニングの効率化がiPad導入の目的だったと明かす。製品紹介用の画像や映像といったコンテンツを営業スタッフのiPadに配信。「営業スタッフがトレーニングの事前勉強やトレーニング当日の資料確認、復習にフル活用している」という。

導入目的の不明瞭さがスマートデバイスを“厄介者”に

 アウディジャパンをはじめ、スマートデバイスを社内導入するユーザー企業は増えている。ただし「活用度という視点では、米国などの諸外国に比べてそれほど進んでいるとはいえない」と指摘するのは、デロイト トーマツ コンサルティングでシニアマネジャーを務める井島裕昭氏だ。

 井島氏は、「国内のユーザー企業の多くは、メールの送受信やスケジュールの確認といった限られた用途にしかスマートデバイスを活用していない」と指摘。「スマートデバイスで基幹系などの業務システムを活用したり、スマートデバイスならではの新しいビジネスモデルの構築まで至っているユーザー企業はほとんどないのが現状」だという。

 活用の幅が広がらない理由の1つとして井島氏は、「スマートデバイスの導入目的が明確でないこと」を挙げる。社内の携帯電話のリプレース時にたまたまスマートフォンを導入するなど、具体的な活用イメージを持たずにスマートデバイスを導入するユーザー企業は少なくない。「IT部門は新たな端末の管理を余儀なくされる。結果として、スマートデバイスをただの“厄介者”として捉えてしまい、活用にまで手が回らない」と井島氏は現状を説明する。

スマートデバイスの業務利用の本命は「トランザクション処理端末」

 “厄介者”のスマートデバイスも、うまく生かせば企業の成長のエンジンとなる。特に2012年以降に拡大すると井島氏が見るのが、スマートデバイスをトランザクション処理端末として活用する動きだ。アビームコンサルティング執行役員でスマートデバイスの企業活用を担当する渡辺 巌氏も同様の見方を示す。

 「業務システム同士のデータ連携はリアルタイム化が進んでいるが、何らかのイベントが起きてから人がシステムにデータを入力するまでには、どうしてもタイムラグが生じる。こうしたタイムラグが積み重なると、システムに登録された在庫数量と実際の在庫数量が一致しないなど、現場とシステムの情報が離れていく原因となる」と渡辺氏は説明する。

 人が常時携帯するスマートデバイスは、こうした状況を一変するというのが渡辺氏の見方だ。「経営陣の『現状を知りたい』というニーズと、現場の『現状をシステムに入力したい』というニーズを同時に満たすのに、スマートデバイスは大いに役立つ」

 国内にも、トランザクション処理端末としてスマートデバイスを活用する先進的なユーザー企業は幾つか存在する。

 中古車販売のガリバーインターナショナルは、中古車価格の査定にiPadを利用。クルマの情報を社内の査定システムに直接入力できるようにした。紙のフォームに査定情報を入力し、FAXで送信していた従来に比べて査定業務を大幅に迅速化できたという。

 アパレルショップを全国展開するユナイテッドアローズは、iPhoneを使った在庫管理システムを構築した。従業員が接客時にPOSレジやクライアントPCのある場所に戻ることなく、顧客に在庫情報を通知できるといった効果が出ている。

 こうしたユーザー企業はまだほんの一部だが「2012年からは具体的な事例が続々と現れるだろう」とデロイトの井島氏は期待を示す。「企業間のサプライチェーンの効率化など、個社単位にとどまらない活用事例が続々と公になる兆しがある」(井島氏)

スマートデバイスを積極活用するためにすべきことは?

 スマートデバイスの活用の幅を広げたいと考えるユーザー企業がすべきことは何か。セキュリティ対策の強化とアプリケーション開発の2点が重要な要素になる。

MDMやVPN、認証などで万全なセキュリティ対策

 スマートデバイスを業務システムの端末として利用する上で「不可欠」だと専門家が声をそろえるのは、モバイルデバイス管理(MDM)の導入だ。端末の盗難・紛失による情報漏えいを防ぐだけでなく、端末の設定変更の際の作業負荷を減らすことにも役立つ。

 2011年までに登場したMDM製品やサービスは数多い。リモートロックやリモートワイプといった主要な機能に大きな差異はなくなってきている。今後は使い勝手の向上や他のセキュリティ製品との連携といった点で差異化を図る動きが活発化すると考えられる。

 スマートデバイスから社内システムへのアクセスに当たっては、通信内容の漏えいを防ぐ仕組みも不可欠だ。VPNや閉域網といったセキュアな通信手段の活用はその現実解となる。iOSやAndroid端末は、PPTPやIPsecといったVPNプロトコルを解釈できるVPNクライアントを標準搭載している。VPN製品の中には、独自プロトコルの採用や機能拡張のために専用クライアントソフトを用意する製品もある。

 VPN機器の設定や運用の負荷を抑える上で、一連の作業を外部委託できるVPNサービスは有力な選択肢となる。例えばNTTPCコミュニケーションズの「Master'sONE タブレットモバイルソリューション」や京セラコミュニケーションシステムの「NET BUREAU スマートデバイス端末認証サービス」、NRIセキュアテクノロジーズの「端末認証サービス」などサービスは充実している。

 社内システムに接続する際の認証の強化も重要だ。CA Technologiesは、ソフトウェアトークンを利用した二要素認証製品「CA Arcot」について、「従業員にスマートデバイスから社内システムを利用させたいというユーザー企業からの引き合いが多くなっている」と明かす。

スマートデバイス用アプリの開発支援サービスを活用

 スマートデバイスはiOSやAndroidなど多様なOSが存在する。各OS向けのアプリケーションを開発するとなると負担は大きい。指で画面をタッチすることでシステムを操作するユーザーインタフェースの設計など、従来型のアプリケーションとは異なる開発ノウハウも必要になる。

 こうした負担を抑えるため、スマートデバイス向けアプリケーションの開発サービスが充実しつつあるのが最近の動きだ。ERPをはじめとする業務システムのフロントエンドとして利用するクライアントアプリケーションの開発や、クライアントアプリケーションと業務システムとの連携の仕組みづくりを支援する。新日鉄ソリューションズの「アプリケーション開発支援サービス」や丸紅OKIネットソリューションズの「スマートフォン@PTOP」などがある。

 「スマートデバイスであらゆるアプリケーションを利用したいというニーズはそれほど多くない。むしろスマートデバイスの利用シーンに合った、単一目的のアプリケーションに対する需要が伸びると見ている」。SAPジャパンでスマートデバイス向けアプリケーションを担当する阪尾素行氏はこう指摘する。SAPジャパンは2011年9月に、27種の単一業務向けアプリケーションを発表している。

 SIerもこうしたユーザー企業のニーズに応えるべく、単一目的別のアプリケ―ション開発サービスの提供を始めている。デロイトは製造業の機器メンテナンス業務や勤怠入力などの業務特化型アプリケーションのテンプレートを16種類用意し、テンプレートをベースとした開発サービスを提供する。テンプレートを基にフィット&ギャップ解析をしながら、個社のニーズに合ったアプリケーションを開発するのが基本的な流れだ。アビームも小売業の接客業務向けアプリケーションのテンプレート化を進めている。

 セキュリティ面でもアプリケーション開発面でも、スマートデバイスの業務利用に必要な要素はそろいつつある。TechTargetジャパンは2012年も、スマートデバイスの業務利用に当たって有益な情報を提供していくので、ご期待いただきたい。

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