クラウド値下げ競争に浮つかないユーザーたち 各社の本音を探る月額利用料だけで選ぶと失敗する

AWSやRackspaceなど大手IaaSベンダーの間で価格競争が激化している。だが、IaaS選択のポイントは月額利用料金だけではない。サービス加入の際に掛かるコストや、事業継続性も重要だ。

2013年09月09日 08時00分 公開
[Beth Pariseau,TechTarget]

 IaaS(Infrastructure as a Service)のサービスプロバイダーの中で、複数の事業者がクラウドの使用料を相次いで引き下げて、懸命に新しい顧客を呼び込もうとしている。しかしクラウドのユーザーの多くは、この競争を最初からマーケティング戦略として仕組まれたものと見ているので、低価格というエサにつられることはない。

 米Amazonは、同社のAmazon Web Services(AWS)の専有インスタンスの価格を引き下げると2013年7月中旬に発表した。その直後、米Rackspaceもブログの中で、AWSの専有インスタンスは本当の意味で専有なのかと疑問を表明するとともに、Rackspaceは価格でもパフォーマンスでも優位にあると主張した。

 この2社の争いの場に割って入ったIaaSプロバイダーが米ProfitBricksだ。同社の幹部は「AWSもRackspaceもクラウドサービスの利益率を見るとProfitBricksほど顧客に忠実とはいえない」と非難した上で、同社自身もIaaSの価格を50%引き下げた。

 顧客はクラウドの価格競争が激化してきたと感じている。競争があるのは市場全体としては健全なことだが、今回の価格競争に関して言えば、現在争いを仕掛けている各社が社内のあらゆる部分でコスト削減を図った結果を価格に反映させたわけではない、と顧客は見ている。

 「利用するベンダーを決めるまでに検討するポイントは、コスト削減以外にも山ほどある」と、レンタカー会社の全世界でのクレジットカード決済処理を代行している米Bluebird Auto Rental Systemsの副社長、フィル・ジョーンズ氏は語る。

 ProfitBricksが価格を50%引き下げたことに対して、「注意を向けるべき動きだ。ただし、そもそも割引をしている会社はどこなのかを確認して、その会社の業界での立場なども確かめる必要がある。例えば、この会社は業界で当分生き残れそうか、これまでの業績はどうだったのか、のようなことだ」とジョーンズ氏は指摘している。

 クラウドベンダーを選定する際には、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)とのパートナーシップも決断に影響する。ジョーンズ氏の勤務するBluebird社は、現在米Progress Softwareとの協力関係を深めているが、それはProgress SoftwareがAWSの利用を容易にする製品の開発を以前から進めていたからだという。

クラウド選択の決め手は価格だけではない

 クラウドの利用料金は、サービスプロバイダー選定のプロセスに含まれる、多数の要因の中の1つにすぎない。

 Fortune 100に入る大規模企業のエンジニアリング部門の責任者が、匿名を条件に語ったところによれば、「その企業に対する一般的な評価も考慮する」という。「当社が求めるのは、分散コンピューティングが得意なベンダーだ。仮に米Facebookがある日突然『自社用(データセンター)の一部を貸し出す』と発表したとする。われわれは大歓迎だ。なぜならわれわれが求めているのは、大規模なIaaSを提供でき、しかもそれが得意な企業だから」

 企業のIT部門は、ProfitBricksのように比較的小規模な会社をどことなく頼りないと感じるところがあるので、たとえ50%もの値下げといった思い切った施策であっても、AmazonとRackspaceのサービスを併用しているような企業の決断を覆すほどの効果はないかもしれない。

 「値下げ合戦は、われわれが行動を起こすきっかけになるので、もちろん続いてほしいとは思うが、料金は最も重視する要因というわけではない」と語るのは、ホスト型マーケティングソフトウェア企業、米HubSpotの最高情報責任者(CIO)、ジム・オニール氏だ。「料金が安いのは間違いなくありがたいことだが、そのために新たな行動を起こすほどの強い影響力はない」

 「クラウドサービスのプロバイダーを変更してもコストが掛かる。サーバ1台当たり500〜1000ドルもする」と、米ITコンサルティング会社StrataScape Technologiesの取締役であるアンソニー・パガーノ氏が説明してくれた。

 「チェックしなければならないのは、毎月払う利用料金だけではない。そのプロバイダーのサービスに加入する際にコストが掛かる場合もある。また、サービスを解約する際の戦略も考えておく必要がある」とパガーノ氏は語る。「解約するのにも費用が掛かるとはどういうことだ」

クラウドは経費削減に役立つか

 クラウドの料金値下げについては、特に新規の顧客を困惑させるだけだと片付けるITプロもいる。

 「経費節減のためにクラウドを利用しようと考えているのなら、クラウドを使わない方がいい。クラウドに移行しても、最初の1年は間違いなく目的を果たせない」と、米AMAG PharmaceuticalsのIT部門の副社長でクラウドの主任アーキテクト、ネイサン・マクブライド氏は語る。「クラウド導入前よりも多額の出費を覚悟しておく必要がある」

 マクブライド氏は、AMAG Pharmaceuticals社が選んだSaaS(Software as a Service)ベンダーとの交渉の実例を挙げて、クラウドサービスプロバイダーとの交渉の場では、顧客が持つ影響力は顧客の自覚以上に大きいと指摘する。同氏はベンダーの提示した価格が予想に反して低過ぎると感じ、ベンダーにその意を伝えたところ、ベンダーは同氏の忠告を受け入れたという。

 「御社のサービスを安心して長く利用したいので、(御社の経営が安定するように)料金をもっと上げてはどうかと言った」と同氏は語る。

 一方、今後さまざまなテクノロジーが登場してクラウドへの移行にかかわる問題が減るならば、現在のように顧客が利用料金にあまりこだわらない時期は長くは続かない、と予測する業界ウオッチャーもいる。

 「クラウドのプロバイダーが増えて、提供する機能も今より均一化され、導入自動化のテクノロジーがさらに確立されれば、クラウドプロバイダーの変更も容易になり、コストの最適化がもっと重視されるようになるだろう」と、米ITコンサルティング会社Cascadeoの共同創設者の1人、ジャレッド・レイマー氏は語る。

 ただし、レイマー氏によると、今は時期尚早だという。

 中堅企業にとっては、料金は二の次だというのがレイマー氏の言い分だ。「他にやるべきことが山ほどある」

Amazon対Rackspaceの価格競争は激化

 ProfitBricksのマーケティング部門の責任者アンドレアス・ゲージャー氏はインタビューの中で、RackspaceとAmazonの間で続く、結論の出ない議論を評し、「マーケティング、PRの意味では有効なパフォーマンスだと思う」と語っている。「利益率の高さに甘んじている大企業同士のシャドーボクシングのようなものだ」

 ゲージャー氏によれば、ハードウェアとその他データセンターサービスの経費を考えると、とりわけAmazonの「AWSは『ほんのわずかの利益で』運営している」という主張はウソだという。ProfitBricks社のブログに寄稿した記事の中で同氏は、競合他社の利益率を60〜80%の範囲にあると見積もっている。

 またゲージャー氏は記事の中で「仮に私が、AmazonやRackspaceと同じ値段で当社の製品を売っていいと言われたら、当社が得る利益率は60〜80%よりはるかに高くなるだろう」とも主張している。

 Amazonは競合他社に関して、また利益率の詳細についてのコメントを拒否した。本稿の執筆時点で、Rackspaceからはこの件に関してコメントはない。

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