財務経理・経営企画のためのデータ分析入門【第2回】
他社の戦略をまねしてもうまくいかない? 必要なのはケイパビリティ管理
好調な他社と同じことをしても自社ではうまくいかない――。このような場合は、その戦略を実現するためのケイパビリティ(能力)が不足している可能性がある。データ分析を基にケイパビリティを可視化するには?
前回「『勘と経験と度胸』を超えるデータアナリティクスの可能性」では、ビッグデータおよびデータアナリティクスの概要と、財務経理部に向けた活用法について概説した。今回はデータアナリティクスを活用し、いかに顧客を創造し、収益を上げていくかについて説明する。本稿では、顧客の理解だけではなく、自社のケイパビリティ(Capability:能力)の強化という視点も組み込んでいる。これは全社的に考えていくべきテーマであり、経営企画に携わる方々にぜひリーダーシップを発揮してほしい。
顧客を理解するためにすべきこと
従来、商品開発やマーケティングではインタビューやアンケートなどで顧客の声を理解することが中心だった。最近では、商品開発やマーケティングに「エスノグラフィー」という手法が採用されることも増えている。エスノグラフィーとは文化人類学、社会学の用語で、集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法およびその記録文書のことを指す。
幾つかの企業ではこのエスノグラフィーで深く顧客を理解しようと取り組んでいるが限界もあるようだ。顧客の「言葉で表現すること」と「行動」には違いがあり、人間は言葉で表現したことの全てを行動に移すわけではないからだ。人間の特性によっても異なるが、「言うことと行動は違う」ことは多い。加えてエスノグラフィーによるグループインタビューやアンケートで得られる顧客の声には、さまざまなバイアスが掛かることも多く、行動を正確に把握することは困難だ。顧客は目の前にいる調査員を喜ばせたいという衝動から、知らずしらずのうちに調査に対して正確な反応をしないこともある。
だが、このような「顧客の行動」に関する不正確な状況はビッグデータの登場で変わりつつある。FacebookやTwitterなどSNS上のデータを分析することで、「顧客の行動」をタイムリーに理解することができるようになりつつあるのだ。「顧客の行動」の理解と、従来のインタビュー/アンケートによる「顧客の声」の理解とを組み合わせることで深みのあるインサイト(考察)を得ることができる。
この「顧客の行動」と「顧客の声」による考察を生かすことで、企業は業績向上を図れるだろう。本稿では、ガソリンスタンドとスーパーマーケットの一例を説明しよう。アンケートやインタビューによって、ある地区ではスーパーでの買い物ついでに、ガソリンを給油するという「顧客の声」を捉えることができた。そこでさらに、ガソリンを給油した顧客の行動パターンを、SNSなどを通じて調査してみると、ガソリンを給油した後でスーパーに買い物に行くという行動パターンが発見された。
スーパーマーケットはこの結果を基に、ガソリンスタンドで給油した顧客に、スーパーの割引クーポンをタイミングよく発行した。これによって顧客を自社に誘導することができた。さらに、性別の違いや利用時間帯、子どもの有無など新たな軸を分析に加えて検証することで、仮説を検証し、次のアクションにつなげるPDCAサイクルが回り、プロモーション施策を高度化することができる。
顧客の理解を基にケイパビリティを強化する
ただ、顧客を理解しただけでは十分ではない。把握した商機に適切に対応していくには自社のケイパビリティを理解し、強化していく必要がある。以下では、自社のケイパビリティを理解することの必要性について一例を挙げる。
例えば商品を顧客へ無料で翌日配送しているネット通販企業Aがあるとしよう。この企業が販売している商品は他のネット通販企業でも購入できる。また、特に差別化されたブランドやプロモーションがあるわけではない。それでもA社はユーザーから支持され、利益を上げている。分析の結果、A社の「無料かつ翌日配送」というサービスが顧客のニーズに合致しているという結果になった。
では、同業他社がA社と同様に「無料で翌日配送」を行えば、利益をアップできるかというと、そうではない。なぜならばA社と他社では、企業のケイパビリティが違うからだ。A社には「無料で翌日配送」をしても利益が創出できるケイパビリティがあるのだ。つまり、顧客ニーズの理解はもちろんだが、A社が所有する、ロジスティクスやITシステム、組織、人材、プロセスなどから「無料で翌日配送」が可能になったといえる。そしてこの「無料で翌日配送」という仮説シナリオを基にPDCAサイクルを展開し、高度化することで競争力を強化しているのだ。
このように顧客と、自社ケイパビリティを理解した上で仮説シナリオを策定して実践、検証することで他社に対する競争優位が確立される。ただし、ケイパビリティは無形、有形などが入り乱れ複雑に存在することが多く、整理して理解するのが容易ではない。そこで自社のケイパビリティを理解し、さらにダイナミックに強化していくためのツールとして「ケイパビリティ構造化」がある。
ケイパビリティの構造化
ケイパビリティを測るには、ケイパビリティを構造化し、ケイパビリティをマネジメントする必要がある。
ケイパビリティの管理では、顧客ニーズを基にして、模倣難易度、強化に必要とされる時間・コスト、現在所有のレベル、維持コストなどの軸を使い、以下の4つのケイパビリティに分類する(この軸は業界、商品/サービスにより異なる。上記は一般例)。
- 「自社」で強化すべきコアケイパビリティ
- 維持すべきケイパビリティ
- 捨てるケイパビリティ
- 「他社」との提携で獲得すべきケイパビリティ
つまり、顧客のニーズが商品の品質なのか、それともコストなのか、または商品に付随するサービスなのかを明らかにし、上記の指標からそれぞれの必要となるケイパビリティを識別する。そうすればコアとして強化すべきケイパビリティや、他社に売却すべきケイパビリティ、もしくはM&Aや業務提携、パートナーシップにより外部から手に入れるべきケイパビリティなどが明確化できる。
次に顧客の理解と、この識別されたケイパビリティを基に仮説シナリオを策定し検証していく。企業には、仮説に必要となるケイパビリティの適切な取捨選択や、ケイパビリティを連携させていく能力が求められている。これは事業投資のポートフォリオを適切に運営していくということにもつながるだろう。
本稿では、「顧客の理解(声と行動、そしてそこから導き出されるインサイト)」→「自社ケイパビリティの強化」→「仮説シナリオ」→「PDCAサイクル」という形で企業競争力の強化に向けたアプローチを概説した。次回はこのプロセスを支えるテクノロジーについて説明する。
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