2017年に米トイザらスが経営破綻した。この原因をAmazonの存在に求める意見もあるが、事はそう単純ではない。小売りコンサルタントたちは、「Amazonが原因ではない」と言う。
今ではAmazonとToys“R”Us(以下トイザらス)の小売業者としての地位は比較にならないが、2000年代初頭の時点では、両社はそれぞれの分野でリーダーと見なされていた。
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当時、小売業界は大規模店舗時代が終わりかかっていたが、トイザらスは署名広告キャンペーンが大いに受けて、大勢の人々が来店した。電子商取引(eコマース)の黎明(れいめい)期でもあり、同社はWebサイトでも人気を集めた。
一方Amazonは、eコマース企業としては大手で、他の組織が行っていなかった手法で事業を進めていた。やがて英国へ進出して音楽とDVDの販売プラットフォームを立ち上げ、その2つの市場を大混乱に陥れることになる。
両社とも、それぞれの分野で好調な小売業者とみられており、2000年に両社は提携を結ぶことを決めた。この施策は、双方に利益をもたらすと考えられていた。トイザらスはフルフィルメント(受注から決済に至る業務全般)に苦戦していたし、Amazonは前年に在庫過剰問題を抱えていたからだ。
トイザらスのWebサイトをAmazonが運営し、トイザらスは毎年5000万ドル(約55億円)に売上高の何割かを上乗せしてAmazonに支払うという条件にトイザらスは同意した。Toysrus.comはAmazonにリダイレクトされ、Amazonは商品の倉庫保管業務と顧客への配送を担当する。一方トイザらスは玩具の調達、価格設定、在庫管理を引き受けるというシナリオだった。
提携当初、売り上げは両社が満足するレベルに達したが、2003年には10年間継続するはずだった提携関係にほころびが見えてきた。Amazonが取扱商品の種類の拡充を図り、他の玩具業者とも連携するようになったからだ。独占性が損なわれたことを不服としたトイザらスはこの問題を裁判所に提訴した。2006年にAmazonとの提携関係を打ち切り、補償を受け取る形で法的な決着をつけた。
話を2018年まで早送りすると、このときの和解はいわば「試合に勝って勝負に負けた」ようなものだ。二社のその後の歩みはまさに明暗を分けた。コンサルティング企業One Click Retailの見積もりによると、Amazonは米国における2017年の玩具売り上げが45億ドル(約4952億円)に上り、英国では玩具で5億ポンド(約729億円)の売り上げを計上している。
一方、トイザらスは2018年の春に経営が破綻し、もはや営業もしていない。
中小規模の小売業者ならば、Amazonと提携して「Amazonマーケットプレイス」で商品を販売することで利益が得られる場合も多い。一方、幅広い業種の企業が、会社の規模とは無関係に「Amazon Web Services」を利用して自社のeコマースサイトを運営している。
しかし、Amazonとの協業を「解消したいこと」の一つに数える小売企業も存在する。アナリスト企業RSR Researchの業務執行社員、ブライアン・キルコース氏はトイザらスの判断と同様に、「悪魔とダンスするとやけどする」と主張する。
2000年の両社のパートナーシップ契約について同氏は次のようにコメントしている。「私は最初から愚かな決断だと思っていた。玩具はそもそも、小売店舗に魅力があるから客の財布のひもが緩むという類いの売れ方はしない。玩具が売れるかどうかの決め手になるのはエンターテインメントなどのメディアだ。店で実際に遊んでみたことで、顧客の心が動くことはあまりない。においをかいだり味見をしたりするのとはわけが違う」
キルコース氏はさらにこう付け加える。「トイザらスがAmazonと提携したという事実は、この会社が、直面した脅威に対してあまりにも素朴だったことを証明している」
大手小売企業でAmazonと提携した例としては、書店チェーンのBordersとディスカウントストアのTargetが挙げられる。前者は2011年に経営が破綻した。後者は、Amazonが2001年から2011年の間に独自のオンラインショッピングサイトを運営したことを受けて提携関係を解消し、eコマース分野のてこ入れを図っている。
小売業者が相次いで姿を消したことについて、Amazonとeコマースの発展のせいだと非難するのは、世の中の大勢を正しく捉えているとはいえない。
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