PaaSベンダー混戦模様
「PaaS」と「IaaS」の区別はつきますか? 誰も分からないクラウドの境界線
2013年にさまざまなサービスが登場し話題を呼んだPaaS。2014年は本格的にPaaSの導入が進む見通しだ。だが、SaaSやIaaSとの区別がつきにくい、まだ標準が存在しないなど普及への課題が潜む。
2013年話題を呼んだPaaS(Platform as a Service)は、2014年に導入が進む見通しだ。しかし、長期的に見ると、このカテゴリーを定義するのは難しくなりそうだ。クラウドサービスのタイプ区分が曖昧になっていくからだ。
クラウド市場に関する最近の調査は、ITプロフェッショナルが2014年にPaaSの導入に積極的に取り組もうとしていることを示している。
米451 ResearchのTheInfoProサービス部門が2013年7月に発表した調査では、97人の回答者のうち18%が、自社の2014年のPaaS支出が2013年よりも増えるとの見通しを示している。PaaS支出が減少すると予想している回答者は2%にすぎず、横ばいになると見ている回答者は9%となっている。
PaaS導入は開発生産性向上ニーズがけん引
また、米TechTargetの2013年秋のCloud Pulse調査では、119人の回答者のうち31%が、自社のITインフラの1~25%がPaaS上で運用されていると答えている。さらに、56人の回答者グループのうち50%が、今後半年の間にITインフラの1~25%がPaaS上で運用されるようになるとの見通しを示している。
両調査とも、回答者の間で人気のあるPaaSベンダーとして同様のベンダーが挙げられているが、人気の順位はそれぞれ異なっている。一般的に、ITプロが支持しているPaaSには、米Microsoftの「Windows Azure」、米Salesforce.comの「Force.com」、米Amazon.comの関連会社Amazon Web Services(AWS)が提供しているものなどがある。
ITプロは生産性の観点から、開発者に高度に自動化された環境を提供する方法を探している。その環境では、サーバのパッチ、サービスパック、アップグレードのような要素が抽象化され、意識しないで済むことや、アプリケーションサービスのライブラリが、新しく開発されるアプリケーションでプラグインによって簡単に利用できることが求められる。
「多数のサーバやデータベースの管理には、かなりのオーバーヘッドが伴うことがある。そうなれば、開発者がソフトウェアを作成する時間を圧迫してしまう」と、クラウドコンピューティングコンサルティング会社の米DS Applied Technologiesのプリンシパルを務めるダン・サリバン氏は語る。「もしコーディングと、サーバやデータベースの管理のどちらかの業務を選べるとしたら、私が知っている開発者のほとんどはコーディングを選ぶだろう」
モバイル開発も、「PaaSの導入を促進する大きな要因になるだろう」と、サリバン氏は指摘する。Amazon、米Google、Microsoft、米Rackspaceなどさまざまなベンダーが、モバイルアプリ固有のサービススイートの提供を推進しており、これらはプッシュ通知やジオコーディングといった機能に対応している。
「この種の機能は、モバイルアプリでは共通に必要だが、開発者にしてみれば、自分の製品の特徴を出すためにはあまり役に立たない」とサリバン氏。「そのため、モバイル向けのPaaSが魅力的な選択肢になっている」
開発者の時間は、PaaSの導入効果の一般的な尺度だが、クラウドコンサルタントは、コスト節約効果も大きいと指摘する。
「われわれのある顧客は2012年、特定のアプリケーションについてForce.comで概念実証を行った」と、クラウドコンサルティングを手掛ける米Cloud Technology Partnersの上級副社長、ジョン・トレッドウェイ氏は語る。この顧客は、オンプレミスのハードウェアおよびソフトウェアスタックを使った新しいJavaアプリ開発の工数と費用を見積もり、Force.comを使った開発と比較した。「Force.comでは、6カ月と数十万ドルを費やす代わりに、2週間でアプリを稼働させ、4週間で満足のいく品質に仕上げることができ、掛かった費用は8万ドルにとどまった」
提供モデルの乱立でPaaS市場は混戦
しかし、PaaSに関する議論では、PaaSの定義がまちまちになりがちだ。
例えば、前述の市場調査で挙げられている人気の高い上位3つのPaaSのうち2つを見てみよう。Salesforce.comのForce.comは、作業の手軽さを重視する開発者をターゲットとしている。つまり、ビジュアルツールを使いたい、ダイアグラムでワークフローを定義したい、コーディング量は最小限にとどめたいと考える開発者だ。これに対し、MicrosoftのWindows Azureはコーディング量が多く、同社のVisual Studioを使うプログラマー向けとなっている。
「PaaS市場はまだ非常に未成熟だ」とトレッドウェイ氏。「標準が存在していない」
「PaaSは恐らく良いアイデアだ」といった一般論を述べるだけでなく、「具体的にどのような機能を提供するか」「どのようなワークロードを処理するか」のようなテーマに踏み込むと、極めて複雑な議論になると、アナリストは語る。
「全体的に、PaaSをめぐる議論は相変わらず混沌としている。顧客がどのようなPaaSに費用を投入することになるのか、予想がつかない」と、米Forrester Researchのアナリスト、ジョン・ライマー氏は語る。「多種多様な選択肢がある」
“IaaSプラス”とSaaSが混戦に拍車
Amazonの「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)のようなサービスがこの混戦状態に加わり、PaaSの定義と今後の導入動向に関する新たな議論が出てきている。Amazon EC2はIaaS(Infrastructure as a Service)だが、自動スケーリングやロードバランシングなど、PaaSに付随することが多いさまざまなサービスも提供する。ただし、顧客は基盤サーバにアクセスでき、それらに対する責任を負う。これは、一般的に考えられているPaaSの特徴に当てはまらない。
Forrester Researchは、こうしたIaaSを指す「IaaSプラス」という言葉を考え出した。IaaSプラスは、PaaSの導入をめぐる現在の議論を複雑にするばかりだ。実際、一部の業界ウオッチャーは、PaaS市場は数年後には、IaaSプラスに圧迫されるだろうと予想している。IaaSベンダーが付加価値の向上を目指す他、多くのSaaS(Software as a Service)ベンダーがSalesforce.comのように、自社のアプリケーションプラットフォームを開発者が利用できるようにするからだ。
「こうした動きは既に起こっている」と、米Development Partners Softwareの主席コンサルタントで、Windows Azure MVPのビル・ワイルダー氏は指摘する。クラウドプラットフォームサービスは、ユーザーが適切と判断した方法で、つまりPaaSまたはIaaSで、あるいはAPIによる操作に対応したSaaSで利用できるツールボックスに進化しつつある」
2013年はPaaSにベンチャーキャピタル資金が流れ込んだ。だが、ベンチャーキャピタルの1社は、投資を尻込みするようになっている。クラウドサービスのカテゴリー区分がこのように曖昧になっているからだ。
「PaaS分野では、ごく少数のベンダーしか存続しないだろう」と、米North Bridge Venture Partnersのゼネラルパートナー、マイケル・スコック氏は予想する。「PaaSは、SaaSアプリケーションかIaaSサービスの一部になるだろう」
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