J-SUMMITS 連載コラム「電気羊はユーザーメードがお好き!?」
医師にも“やさしい”電子カルテへの改善のススメ(1/2 ページ)
患者に優しい医療サービスを提供する前提として、全てのスタッフに最高の労働環境、電子カルテシステムを用意できているのだろうか?
医療現場における電子カルテの導入や利用に関するエッセイ集『電子カルテは電気羊に食べられる夢を見るか』(加藤 五十六 著)を題材に、「日本ユーザーメード医療IT研究会」(J-SUMMITS)のメンバーが、現場が抱える課題の解決策をリレー形式で提案する本連載。
今回は、電子カルテのかな変換の煩わしさを例に、スタッフの労働環境の改善について書かれた「やさしさの源」を取り上げる。この章では、「患者にとって少しでも快適な病院を目指すのは普遍的なお題目だが、そのためにはスタッフが快適に働ける病院でなければならない」と説いている。名古屋記念病院の草深裕光副院長が自院での取り組みなどを紹介する【編集部】。
“やさしさ”は皆のモットー
当院の理念は「私たちは、優しさと安らぎを提供し、地域から信頼される病院を目指します」である。毎日の業務において、もちろん私の場合、その中心が診療であることは言うまでもないが、常に患者やスタッフに対して優しくありたいと心掛けている。優しさを持って接することは、私だけでなく臨床医なら共通の思いであろう。一方で、限られた時間と資源の中では、多くの患者が満足できる診療を提供するのはとても難しい。
本稿では、外来診療における待ち時間を取り上げ、加藤五十六先生の著書に設けられた「やさしさの源」について考えてみる。さて、私たちは患者に優しさを提供する前提として、全てのスタッフに最高の労働環境、電子カルテシステムを用意できているのだろうか?
時はカネなり
一般的な外来診療では、診察時間当たりいくらといった概念はない。実際の診察が、3分であろうと30分であろうと初診料や再診料は同じである。一方、患者サービスの改善を目的として、利用者の声を集めてみると「予約制なのに1時間も待たされるなんて……」という声を代表とする待ち時間への不満が多く聞かれる。私たちにとってもスムーズに診察を終えた方がいいに決まっているし、患者にとっても時間は大切である。ただ、なかなか改善に至らない。
医療は「個別性」「多様性」、そして「変化」が特徴である。安定している患者では、世間話を加えても正味3分で診察が終わることもある。初めて紹介された診断不明の患者の場合、30分でも足りないことがある。外来予約のように将来の診療に関して、予測や予定を前もって立てておいても、「今日もダメ、ランチはおあずけ」だと頭の回転速度は低下し、肩をガクっと落とすことになる。
30分で1人の診察といったように、時間に余裕を持って予約しておけば、診察の合間にのどを潤したり、診察をサポートしてくれる医療クラークと笑顔でジョークを交わすこともできる。患者が多くなればなるほど、外来でのジョークは不発となり、優しさから遠のいていくのを実感する。待ちくたびれた患者からは「14時には戻らなくてはいけないので何とかなりませんか」とお願いされたりする。残りの患者数を確認し、いかんともしがたい状況を理解すると、脱力に拍車が掛かる。
“やさしい”電子カルテとは
外来待ち時間には多くの因子が関わっている。患者やスタッフに対して「優しい」診察と効率化を図るのだが、それは決して「やさしい」ことではない。
受け付けから診察までの時間短縮には、電子カルテは有用だと考えられる。当院でも、電子カルテを導入することで予約患者の紙カルテを事前に準備したり、初診の場合の新規作成や診察室や検査室に運ぶことなどはなくなった。ただ、ここで注意すべきこととして、病院スタッフが診察の度にその場所へ運ばなければならない紙記録をなくしておくことが前提となる。
電子カルテの導入とペーパーレス運用は同義語ではないことを理解しておかないと、「こんなはずじゃなかった」と嘆きを聞くことになる。患者は当日出力される診療案内に基づいて移動するが、スタッフは物を持って移動しないことを前提とするシステム構築や運用をしておかないと、電子カルテの導入メリットは享受しにくい。
現状ではなくならない紙の記録、例えば同意書や紹介状などの外部文書をいかにして共有保管するかが、ペーパーレス運用のポイントになる。当院では、診療記録統合管理システム導入によるペーパーレス保管、そして発生部署スキャン、データベースアプリケーション開発ツール「FileMaker」を用いた外来コミュニケーションツールの組み合わせによって、ペーパーレス運用を実現した。医事課職員や看護師は、診療記録の運搬から解放され、本来の仕事に集中することが容易となった。
外来待ち時間の中で、診察が終わってから会計終了までの時間短縮も課題である。楽しかった旅行の帰りに渋滞に巻き込まれ、時間がたつにつれて無口になり、不愉快な言葉を発してしまう経験をした人は多いだろう。食事と違いデザートが出てくるわけでもなく、診察が終わったらスマートに会計して帰りたいと考えるのは当然である。とはいえ、会計計算を担当する医事課職員が、診察終了から会計計算を開始するまでの時間を短縮するのは難しい。
そこで当院では、当日の診察や検査などが全て終了したら、診察室、検査室、放射線部などいずれの部署であっても、最後に担当したスタッフが診察終了を知らせるようシステムにカスタマイズしてもらった。患者の外来診察ステータスに「診察済」を追加したわけである。会計係は、時間順に表示される診察済状態の患者の会計処理を順次行う。これにより、患者が自動精算機や会計窓口に足を運んだところで支払いを済ませ、すぐに帰宅できることを目指したが、おおむね実現できた。また、FileMakerを用いて、診察室、各部署と医事課職員との間で紹介状や診断書の有無、複数科併診の算定基準などの情報交換を行っている。これにより、会計に必要な情報を患者が窓口まで持ち運ばなくても済むように工夫している。こうしたシステムや業務運用により、会計窓口の混雑緩和と会計までの待ち時間の短縮に努めている。これらの運用は、患者への優しさに対するこだわりの産物である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社マクニカ] アイカ工業に学ぶ脆弱性対策 情シスが把握できずにいたアセットも正確に把握 -
製品資料
[株式会社マクニカ] 「脆弱性総まとめ」解説 被害事例から考える必須の対策ポイント -
製品資料
[Splunk Services Japan合同会社] サイバー脅威「トップ50」完全解説ガイド、新たな攻撃手法に対抗するには -
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」完全ガイドブック:メリットから資格取得のポイントまで -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] はじめての「自治体/官公庁入札」 必要な知識がすぐに学べる入門ガイド
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
2
「ITインフラとデータ保護・バックアップ対策」に関するアンケート
-
3
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
4
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
5
エージェンティックAIで、コンタクトセンターの「おもてなし」をどう進化する?
-
6
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
7
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
-
8
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
9
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
10
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
8
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
9
Macの安全神話は崩壊? 最新の脅威動向から見えた攻撃のトレンドと有効な対策
-
10
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー