現在のAIツールはまだ、真の人工知能とは呼べない。このことは近い将来、企業がこのテクノロジーをどのように使用するかに影響するかもしれない。
現在世間で人工知能(AI)と呼ばれているテクノロジーが誇大広告の通りの性能を発揮していると、誰もが信じているわけではない。また、現実と広告との間に生じているギャップは、大企業が最終的にこのテクノロジーをどのように利用するかに影響を与える可能性がある。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョシュ・テネンバウム教授は、同大学内のスローン経営学大学院で2017年5月に開催されたカンファレンス「Sloan CIO Symposium」でパネルディスカッションに登壇し、「真の意味でのAIはまだ実現されていない。脳と心の働きに、まだ解明されていない部分があるからだ」と発言した。
パネルディスカッションの登壇者たちはその席上で、現在AIと呼んでいる適用事例と、真のAI、つまりそれ自身で思考して学習することのできるプログラムとの違いについて議論を戦わせた。シンポジウムの参加者は総体的に、AIの現状と理想としての真のAIとの間には大きなギャップがあることを認識した。
「私がここで皆さんにお知らせしたい警告は、正しい期待をすることだ」と、ロボティクス企業Clearpathの共同設立者兼CTO(最高技術責任者)であるライアン・ギャリピー氏は語る。「企業で働き、このテクノロジーについて調べている人が期待をむやみに高めて、思い切って(AIの)テクノロジーを導入したものの、何も成果を挙げられなかった例を、われわれは過去に散々見てきている」
今日AIと呼ぶシステムは間違いなく、わずか数年前のAIテクノロジーを大幅に改良したレベルのものだと、ギャリピー氏は話す。例えばClearpathでは、鉱山や倉庫での作業向けに、産業用の自走式車両を製造している。こうした自走式車両は、ある程度(のレベル)の機械学習とコンピュータビジョンがなければ機能しないが、現在これらのテクノロジーは一般的にAIのカテゴリーに分類される。
ただし、ここまで進歩したとはいえ、人間が一切監督しなくても自ら考えて行動する自律型ロボットにはまだ遠いと、ギャリピー氏は指摘する。
「ここに、われわれは注意を払うべきだ」と、同氏は続ける。「AIには途方もない可能性があるが、どんな問題でも人間が介入することなく解決できるとまでは言えない」
ここでのポイントは、用語の定義だけではない。現在流通しているAIが真のインテリジェンスなのか、またはそれには及ばないかどうかは、それぞれの製品の使い方に関わる問題だ。結局のところ、本当に自律的でインテリジェントなシステムが登場すれば、それは定型的な単純作業からより高いレベルの知識作業まで、あらゆる作業の完全な自動化への道を開く可能性がある。
現在人間が行っている作業は全てAIで自動化できるという主張については、幅広い場面で議論を巻き起こしている。ただしパネリストは、このようなトピックに関しては人々の想像が先走りがちだとも指摘する。現在のAIテクノロジーは、大勢の人々を仕事から解放するほどのレベルには達していないからだ。
今日のテクノロジーではどちらかといえば、仕事を自動化するというよりは、労働者の数を増やす可能性の方がずっと高い。
「AIは最初に世に出た頃から、人間の能力を補強するのか、それとも自動化によって人間に取って代わる存在となるのか、常に論争の的となってきた。そしてその論争がまさに今、再び盛り上がっている」と、MITのメディアラボ所長 伊藤穣一氏は語る。「自動化が最適な答えではないと思う」
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