社内の一部門で独自開発して利用していたMicrosoft Excelのツールは、機能追加を繰り返すほど、だんだん使い勝手が悪くなってしまうことがあります。こうした悪循環はなぜ発生するのか、どう避ければよいのでしょうか。
マーケティングの考え方について多大な影響を残した経営学者のフィリップ・コトラー氏は、製品を構成する要素として「コア」「形態」「付随機能」の3つの要素があると説明しています。コアとは、製品を使用する人が求める価値を実現する機能のことです。形態とは、製品が使用者に与える印象のことで、製品自体の形や色、大きさに加えて、品質、ブランド、パッケージも含まれます。付随機能とは、製品のコアではありませんが、製品に対する保証やアフターサポートなど、使用者にとって価値がある機能やサービスのことです。
ところが、製品が広く利用され、使用者のニーズに応えて機能が追加されていくにつれ、まさに製品のコアだったはずの機能が、当初の機能から変わってしまう場合があります。
携帯電話を例に考えてみましょう。登場した当初は、どこにいても離れた場所にいる人と会話できることが、携帯電話のコアでした。ところがNTTドコモが「iモード」の提供を始めたことで、携帯電話はインターネットを閲覧できるようになりました。そして、カメラ付き携帯電話が登場し、手軽に写真が撮影できるようになりました。
現在では、携帯電話はスマートフォンへと進化し、電話の機能はスマートフォンの持つさまざまな機能の一つにすぎなくなりました。携帯電話のコアが「どこにいても離れた場所にいる人と会話できること」から、「どこにいても手軽に通信機能を使ってさまざまなツールを利用できること」に変化したからです。
電子レンジも当初は「冷めた状態の料理を温めること」がコアでしたが、今ではオーブンの機能が加わったオーブンレンジが一般的になりました。そして現在では、冷凍食品の普及、核家族化、女性の社会進出といった時代の変化に伴い「時間をかけずに料理を作りたいというニーズを実現すること」が電子レンジのコアになったといえるでしょう。
とはいえ、さまざまな役割を兼ね備える製品における一つ一つの機能は、製品のコアがもたらす制約のせいで、単一の機能に特化した製品には及ばないことがあります。スマートフォンは、どこでも手軽に使用できることがコアであるが故に、画面の大きさや製品の形状に制約があります。そのためWebサイトを閲覧するにしても、PCと同様の情報量を一度に表示することはできませんし、スマートフォンのカメラについても、本格的な一眼レフデジタルカメラほどの画質や機能を提供することはできません。機能が豊富になったが故に、全ての機能を使用する必要のない使用者にとっては、自分の使いたい機能を探すことが以前と比べて困難になるといった状況も起こります。
使用者のニーズに応えるにつれて、もともとの機能が大幅に変わってしまうことは、一般向け製品だけに起こる現象ではありません。企業内においても、当初は部署内の少人数で使用していた「Microsoft Excel」(以下、Excel)のツールがさまざまなニーズに応えて機能追加を繰り返すうちに、使用者が増えたり、他部門に展開されたりするうちに、当初の機能が数ある機能の一つになってしまうほど、多機能なExcelツールに変わってしまうことも、それほど珍しい事態ではありません。では、このようにして作られたExcelツールも、コアとなる機能が変わってしまったが故に、機能に何らかの制約を受けてしまうものなのでしょうか。
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