デジタル変革に直結するERPの技術動向と導入戦略
「ERPはアジャイル開発」が標準に? まだ枯れていない「ERP」のトレンド
ERPシステムは数十年前から存在しているが、技術開発の動向は停滞していない。デジタルトランスフォーメーションに取り組もうとしているなら無視はできないERPシステムのトレンドについて、専門家の予想を紹介する。
企業にとって抜本的なビジネスプロセスの変革手段の一つは、ERP(統合業務)システムの導入だ。2019年は小規模ERPベンダーの台頭が予想されており、2層ERP戦略(注1)が着実に進み、企業はERPシステムの実装にもっと敏しょう性を求めるようになるだろう。
※注1:本社で稼働するコアとなるERPシステムの他に、事業部や拠点単位でビジネスニーズに合う別のERPシステムを導入し、コアERPシステムとのデータ連携を図るERPシステムの導入方式。
この予測は、ERPシステムの導入支援を手掛けるThird Stage Consulting Groupの調査レポート「The 2019 Digital Transformation, HCM, and ERP Report」に基づいたもので、市場分析やエンタープライズプロジェクト分析、ERPシステムのトレンド予測を含んでいる。
本稿は、Third Stage Consulting GroupのCEO兼共同創設者であるエリック・キンバリング氏が「デジタルトランスフォーメーションに取り組もうとしている全ての経営幹部が知っておくべきだ」と考えている、ERPシステムの動向を詳しく見てみる。キンバリング氏はデジタルトランスフォーメーションを「ビジネスの改善を目的として、新しく革新的な技術で企業を変革すること」と定義している。
ERP市場は停滞していない
キンバリング氏によると、新興の業務アプリケーションベンダー、特に人的資源管理(HCM)ベンダーのWorkdayと顧客関係管理(CRM)ベンダーのSalesforce.comは、大規模なERPベンダーと競合するための転換点を通過したという。どちらも比較的新しい市場に参入し、業務アプリケーションに取り組んできた。両ベンダーは現在、サードパーティー製品との連携を強化し、例えば財務関連の機能を自社の中核サービスに組み込めるようにして、ERPベンダーとの競争で優位に立とうとしている。
連携強化の動きは「特別な出来事がきっかけとなったわけではない」とキンバリング氏は語る。同氏によると、Salesforceの場合はそのエコシステムの中で機が熟したためであり、Workdaysの場合はHCM外部の機能の開発を進める際に生じた混乱を解消するための対応策だったと考えられる。
2層ERP戦略の普及
キンバリング氏は、ERPシステムの実装が1つのソフトウェア製品あるいはベンダー1社で完結するケースはもう増えないだろうと考えている。その代わりに企業は、バックオフィスのERPシステムとフロントオフィスのERPシステムを密に連携させるという2段階のアプローチを選択する。これは特に多国籍企業にとって、フロントオフィスプロセスの柔軟性を高めつつ、コアとなるバックオフィスプロセスの標準化を促進させる効果がある。
ビジネスリーダーはそのような実装に関して慎重に取り組まなければならないと、キンバリング氏は警告する。「2層ERPについて議論する際には、ビジネスの目標達成を目標にした議論と、ただ変化に抵抗するための議論を区別する必要がある」と同氏は言う。
「ERPを2層化するとプロセスがもっと複雑になるため、多くの企業はビジネスへの影響の見極めに時間がかかる」とキンバリング氏は考えている。企業は、プロセスから運用モデルまで、ビジネスの将来がどのようになるか想定してみる必要がある。この想定は、ERPシステムの導入を担うシステムインテグレーター(SIer)にとっても、目標達成のための明確なロードマップになる。
ERPにおけるアジャイル開発
「CIO(最高情報責任者)はERPシステムの導入にウオーターフォール型よりもアジャイル型の開発手法を求めるようになり、今後はこれが標準となるだろう」とキンバリング氏は言う。ERPシステムの導入にアジャイル開発を適用することにより、通常は開発完了に3年から5年を要するプロジェクトを小分けにして遂行でき、6~9カ月以内には最初の成果物としてモジュールを幾つか提供できるようになるだろう。
もう一つのERPシステムのトレンドは、クラウドERP(クラウド形式のERPシステム)だ。「2019年には、クラウドERPはオンプレミスのERPシステムに取って代わり始める可能性がある」とキンバリング氏は考えている。同氏によるとSAP、Oracle、Microsoft、Inforなど、この市場の大手企業がクラウド戦略を推進しており、クラウド化によって期待される安定性と高収益性が投資家に支持されているという。
一方で企業幹部は、必ずしもクラウドERPを求めていないという声もある。「ERPシステムのクラウド戦略は揺れる振り子のようなもので、管理性、セキュリティ、柔軟性を求めるユーザー企業が多くなれば、オンプレミスのERPシステムは必然的に復活するだろう」とキンバリング氏は言う。
SIerの責任
デジタルトランスフォーメーションや災害復旧の課題、システム障害などがニュースになる現在では、経営幹部はERPシステムの構築を手掛けるSIerの失敗についても慎重になっている。「想定通りに進まないことがたくさんあることを、経営幹部は認識し始めている」とキンバリング氏は語る。
経営幹部は、成功のためにどのようなリソースが必要か熟考して計画に盛り込むことに、これまで以上に積極的な役割を果たすようになる、とキンバリング氏は考えている。レポートによると、ERPシステムのSIerを管理するために、独立した第三者を起用するケースもあるという。
デジタルトランスフォーメーションの課題
デジタルトランスフォーメーションという言葉は、今後もスローガンになるだろう。キンバリング氏は「現状、ベンダーはオンプレミス製品よりもクラウドを推進し、企業は技術に集中し過ぎている。2019年にはERPシステム導入の失敗事例が急増するだろう」と予測する。
デジタルトランスフォーメーションによって実現する変化は、組織のニーズを満たさなければならない。このニーズに応えることは、技術そのものの実現よりも困難な作業になる。SIerは技術を組み合わせることは得意だが、従業員向けの効果的なトレーニング教材の開発はあまり得意ではないものだ。
キンバリング氏は「『デジタルトランスフォーメーションにおいて最も難しい部分は、従業員のマインドセットを変えることだ』という認識が、より多くの企業に浸透し始めている」と考えている。2019年には企業が従業員のために必要な投資を増額することを、同氏は期待している。
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