2019年12月27日 08時00分 公開
特集/連載

離職率や教育コストを下げる起点となるVoE(従業員の声)の分析Computer Weekly製品ガイド

従業員の愛着やモチベーション向上に積極的な企業が、従業員の声を集約する技術やプログラムへの関心を高めている。

[Cath Everett,Computer Weekly]

 従業員エクスペリエンスという考え方が大流行している。スキル不足の影響が続く中、デジタル技術やそれまでの常識を破壊するようなミレニアル世代の態度が相まって企業文化の再編が続き、人事部はどうやって従業員をつなぎ留めてモチベーションを与えるかという課題に直面している。結果として、入社してから退社する日まで、従業員に前向きなエクスペリエンスを与え続けることが重点課題になりつつある。

 「従業員が働きたいと思う会社にすることに尽きる。適切なツールや手順、体勢が整っていて、成功に向けた条件がそろっている会社。上司が部下のことや部下のキャリア目標と全般的な満足感に気を配ってくれる会社。組織の下す決定を従業員が支持できる会社だ。それが文化、物理環境、リーダーシップという黄金の三角形を形成する」。人事管理ソフトウェアを提供するCoreHRの人事ディレクター、シャロン・ルーニー氏はそう語る。

 従来型の従業員調査ツールは、従業員の考え方を理解する目的で年に1回の従業員アンケートや、インターネットを使ったパルス調査のような形で利用されてきた。だがこの数年は、もっと間接的な形で意見を聞く手段も浮上している。それほど広く普及はしていないものの、社内のソーシャルネットワークや電子メール、実務グループを横断し、「Glassdoor」や「Indeed」といった求人サイトの外部データソースも追跡して従業員の感情や緊張感を分析するツールも使われている。

 調査会社Gartnerの市場調査担当バイスプレジデントのロン・ハンズコム氏は言う。「こうした積極的な意見収集と間接的あるいは推測的な感情収集の組み合わせは『従業員の声(Voice of the Employee:VoE)』と呼ばれる。現時点で単一のVoEソフトウェアスイートを調達することはできなくても、そうした機能のほとんどは初期の形態で存在している。さまざまなソースから集めたデータを使って分析し、それに基づいて行動できるようにする作業も進展している」

 そうしたツールの市場はまだ生まれたばかりで、フル機能を搭載したVoE製品が登場するまでにはあと3年ほどはかかる見通しだ。だがこの分野は「急速に進化」していて、サプライヤーがあらゆる分野から参入しているとハンズコム氏は話す。そうしたプロバイダーには、Questbackのようなエンタープライズフィードバックプラットフォームのサプライヤーや、Humanyzeのような従業員モニターおよびウェルビーイングツールのディストリビューター、Kazooのような従業員エンゲージメントプラットフォーム企業が含まれる。

 「市場には多数の製品が存在しているが、データ収集や分析手段に関する全てのニーズに対応する製品はまだ存在しない。この市場はまだ、VoEプロセスのための標準化された機能を中心に技術やサービスを提供する段階には至っていない」と同氏は解説する。

 VoEを活用する道を選ぶなら、まずさまざまなデータソースの発見と選定、重要性を評価した上で、基盤となるシステムを統合したり情報を組み合わせたりして報告ツールや分析ツールに取り込み、相関関係やパターンを理解しなければならない。

 もう一つの重要課題は、適切なセキュリティやプライバシー、匿名性を確保することだ。結果として、VoEソフトウェアが広範に普及するには少なくとも5年はかかる見通しだが、いずれは従業員エクスペリエンスの最適化に重要な役割を果たすようになるとハンズコム氏は予想する。

 「従業員エクスペリエンスとは、従業員が採用されてから退社するまでのエクスペリエンスの総計だ。これには全ての接点と、その間の相互関係が含まれる。VoEソフトウェアが役に立つのは、単に人とワークプレース技術との関係だけでなく、そうした全ての相互関係についての視野が広がるという点だ」

 CoreHRのルーニー氏も、そうした考え方には価値があるとした上で、VoEは「単なるソフトウェアとして捉えてはならない」と述べ、技術で下支えされた完全な人事プログラムとして扱う必要があると指摘した。例えば、機械はデータの収集や集約、第一段階の分析を行う上では役に立つものの、ブレーンストーミングやフォーカスグループといった従来型の情報収集アプローチも不可欠だとルーニー氏は指摘する。

 「どんな技術もその代替にはならない。ソフトウェアで拾えない部分は常にある。例えば、言葉が意味する内容は人によって異なるため言語的な曖昧さはある半面、同時にボディーランゲージややりとりもパルス調査では重視される」

フィードバックへの反応

 フィードバックに反応する適切なプロセスの確立についても考慮しなければならない。「自分たちが組織的、構造的にデータを解析し、事実を行動につなげる態勢ができているかどうかが問われる。適切な変更管理活動を確立し、期待値管理もその一部としなければならない。つまり技術だけでは十分ではない」とルーニー氏は話す。

 TotallyMoneyの人事マネジャー、フェリシティ・ウィンクリー氏は言う。「フィードバックプラットフォームを利用すれば、従業員の声に耳を傾けて従業員エクスペリエンスについて知ろうとする姿勢が確実に伝わり、自分たちが大切にされていると思ってもらう助けになる」

 TotallyMoneyは消費者の信用スコア向上を支援する製品やサービスを提供している企業で、4年前に初めてPeakonの従業員エンゲージメントアプリケーションを導入した。その狙いは、年間64%前後だった従業員の離職率を引き下げることにあった。当時の従業員の在職期間は平均で2年に満たなかった。

 「人があまりに頻繁に入れ替わればコストがかさむ。採用や新人研修には多大な時間を要する。社内にスキルを構築することが大切だ。そうしなければ毎回最初から始めなければならず、士気や雰囲気にも如実に影響が出る」(ウィンクリー氏)

 現在72人の従業員を抱える同社は、過去には年に1回、従業員満足度調査を実施していたが、これは項目を埋めるだけの無意味な作業と見なされていた。新しいシステムはそれとは対照的に、毎月2週間フィードバックを受け付けており、問題を迅速に把握できる。

 従業員は匿名で質問に答えるよう求められる。質問の内容は月によって異なるが、全てはやる気を起こさせる要因、すなわち心の健康状態や意見を言う自由、同僚との人間関係などに関係している。続いてやる気を起こさせる要因とネットプロモーターのスコアが3カ月ごとに算出され、やる気を起こさせる要因のランク付けや評価、分析を行って従業員エンゲージメントに対する影響を判定する。

 このシステムはまた、従業員諮問委員会など他のフォーラムとも連携させて、フィードバックの収集に利用する。この諮問委員会は社内の各チームのメンバーで構成されており、定期的にウィンクリー氏やCEOのアラステア・ダグラス氏と面談し、浮上してきた問題について話し合う。

 もしも何かうまくいっていないことがあれば、ウィンクリー氏はPeakonシステムにアクセスしてその状況がデータに反映されているかどうかを調べる。この目的は迅速な行動を起こすことにあり、その重要性は極めて大きいと同氏は確信する。「フィードバックを提供したのに何の対策も講じられないと従業員が感じたら、それは一切フィードバックを求めないよりも悪い」

 Peakonのシステムから引き出した分析情報を使って、同社は従業員の開発能力を向上させ、週に1回の社内ニュースレターを導入したり、木曜朝のブレックファストミーティングで部門トップだけではなく誰でも発言できるようにしたりすることで、団結力の高い社風を形成した。

 一般従業員も少なくとも週に1回は自分たちの会議を開き、他のチームがやっていることやその理由を全員に周知徹底させる。そうした取り組みの結果、従業員の離職率はほぼ半分の23%に減り、在職期間は2倍の4年になった。

 次の段階は、従業員エンゲージメントシステムを7Geeseの業績管理アプリケーションと連携させて「意味のある仕事目標」を設定し、モチベーションを与えられた従業員が目標の達成や越えなければならない障壁の克服にどう対応しているかを理解することにある。

 「コミュニケーションの手段を常に開いてくれるもの、透明性の助けになるものは、何であれ役に立つ」とウィンクリー氏は言う。「この種のシステムを利用すれば、従業員が何を考えているかが一目で分かる。これは人事行動計画を策定して戦略的人事ポリシーを設定する上で大いに役に立つ」

ケーススタディー:FIS

 買収によって急成長したFISは、従業員エンゲージメントのレベル向上を目指すプログラムを開始すべきときだと判断した。

 世界200カ所あまりの拠点で4万7000人の従業員を雇用し、金融サービス業界向けのソフトウェアとサービスを提供する同社は、主に

  • 会社としてのアイデンティティーと進むべき方向性に関する明確な文言
  • 価値観や基本理念を含む組織的完全性
  • リーダーシップ研修
  • 自分の声に耳が傾けられていると従業員に感じてもらうこと

の4分野に重点を置いていた。

 技術レベルでは主に3項目を重視し、それぞれ効果的なデータ分析で下支えする必要があった。その3項目とは、

  • システムを使いやすくすることを含めたセルフサービス
  • リアルタイムのパフォーマンス管理
  • 対話とフィードバックの実現

だった。

 FISはまず、Workdayのクラウド人事サービスを記録用のシステムとして導入し、次に対話の要素に取り組んだ。同社が導入したGlintの従業員調査プラットフォームは、データを掘り下げて従業員の感情や動機を分析できる。

 同社の人材、戦略、分析担当責任者イサベル・ナイドゥ氏は、そのメリットを次のように説明する。「エンゲージメントは非常に個人的な事柄なので厄介だ。各個人でレベルが異なり、人生のどの時点で変化するかも異なる。Glintは、管理職が特定の従業員に絞って適切な行動を見極められるという点で非常に優れている」

 個々の調査に対する回答は匿名で行われるが、調査結果を集約すればそのチームの積極度やエンゲージ度を高める方法、その実現のために何をすべきかを管理職が認識できる。

 「行動計画と直接的に結び付け、『リーダーとして違ったやり方をすべき10項目』に導いてくれるので、すぐにその結果を利用して実行に移すことができる。つまり。『言葉と行動』のギャップがない」

 「Glintはそうした原動力が見えるので、自分に対する認識が高まり、自分のチームを知ることができる。リアルタイムで透明度の高い情報がリーダーの手に入るということだ」

業績管理

 現状をもっとバランス良く把握するため、FISはGlintと採用・リアルタイム業績管理システム、Microsoftのエンタープライズソーシャルネットワーク「Yammer」をクラウドベースの分析ツール「Visier」に統合して、情報に基づく意思決定を支えている。

 「このおかげで従業員ライフサイクルの全局面のデータを相互に関連付けることができる。われわれはほとんどのことにこれを使っているので、他の結果にも関連付けてビジネススコアカードの一部を形成し、リーダーシップダッシュボードにも組み込んでその情報を行動の形成に利用している」とナイドゥ氏は言う。

 例えば同社のリーダーシップ開発プログラムは、管理職がトレーニングを受けたチームとトレーニングを受けなかったチームのエンゲージメントスコアを前後で比較することが可能になった。

 「かつて、われわれは投資を行い、従業員は『素晴らしい』と言って仕事に戻った。今は対象者を追跡して、より効率的な管理職になったかどうかを確認でき、それによって投資が業績に与える影響についての分析情報がもたらされる。人事部門は、かつては実現できなかったレベルの信ぴょう性を持って経営者と話すことができ、必要な立場に立つことができる」(ナイドゥ氏)

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