放射線医学におけるAI技術の進歩【後編】
AIの乳がん診断精度は“医師超え”へ それでも研究者が実用化に慎重な理由
AI技術を活用し、医師よりも高精度の乳がん診断の実現を目指すシステムの研究開発が盛んだ。ただし研究者は、こうしたシステムの市場投入には慎重を要するという見解を持つ。それはなぜなのか。
Googleの医学研究機関「Google Health」が国際的な総合科学ジャーナル「Nature」に発表した論文「International evaluation of an AI system for breast cancer screening」(乳がん検診AIシステムの国際評価)は医学業界に賛否を巻き起こしている。オレゴン健康科学大学(Oregon Health & Science University)の医学部で准教授を務めるビナイ・プラサード氏は、自身の「Twitter」アカウントでこの論文に対する疑問をツイートし、多くの反響を呼んだ。
この論文は乳房専用のエックス線検査「マンモグラフィ」による乳がん画像診断に人工知能(AI)技術を利用した場合の検出精度を評価したものだ。Google HealthのAI技術を用いたスクリーニング検査の精度は、放射線科医よりも高かったという。前編「Google Healthの乳がんAI検診システムが医学業界に賛否両論を巻き起こす理由」に続き、後編ではプラサード氏の見解を詳しく紹介。AI技術を用いた乳がん検診システム(以下、乳がん検診AIシステム)の研究動向も解説する。
乳がん検診システムに求められる役割
乳がん検診では、
- 異常なし(non-cancerous)
- 良性(non-harmful cancer)
- 治癒可能(curable cancer)
- 転移(spread-already cancer)
という4つを区別する必要がある。「これは放射線科医でさえ、がん検診での判断が難しいことだ」とプラサード氏は指摘する。
「最終的にAI技術はがん検診の役に立つと予想する」とプラサード氏は前置きしつつ、「研究者はもっと簡単な問題から始めるべきだ」と指摘する。AI技術で乳がん検診のような分野に取り組むのは「小さな山で予行演習をせずにエベレストに登頂しようとするようなものだ」と同氏は言う。
乳がん検診技術の「失敗の歴史」を繰り返さない
Googleの乳がんAI検診システムは初期段階だ。Google Healthの研究者もプラサード氏と同じ見解を持つ。「この技術が患者の治療に恩恵をもたらす完全な範囲を理解するには臨床研究が必要になる」とGoogle Healthの研究者は述べる。
プラサード氏のツイートは、歴史が繰り返されることに歯止めをかける警鐘の役割を果たす。「2000年ごろに、乳がん検診の新しい技術が根拠なき熱狂の渦に飲み込まれた結果、高い偽陽性率(疾患があるのにないと診断する割合)と過剰診断を引き起こすことになった」とプラサード氏は言う。米国連邦政府の規制当局が新製品を市場に送り出すことに躍起になっている状況は「十分に成熟していない乳がんAI検診システムのような製品に対して、緩い規制を設定することになりかねない」と同氏は懸念する。
技術は前進
乳がんAI検診システムの構築を手掛けているのはGoogle Healthだけではない。2019年にニューヨーク大学(New York University)の研究者が「Deep neural networks improve radiologists' performance in breast cancer screening」(ディープニュートラルネットワークは乳がん検診で放射線科医の能力を向上させる)という論文を公開し、同校で開発したAIシステムの性能は放射線科医に匹敵すると述べている。
このようなAIシステムは、医用画像のあらゆる微妙な差異に対処できるものではないとしても、放射線医学分野におけるAI技術の重要な進歩になり得る。そう語るのは、コンサルティング会社Frost & Sullivanでトランスフォーメーショナルヘルスプログラムマネジャーを務めるシッダルタ・シャー氏だ。
Google Healthの研究者が、米国と英国という複数の国のデータを使用して他の研究より堅牢(けんろう)なデータセットを作成しているのは「放射線医学分野のAI技術にとって大きな前進だ」とシャー氏は述べる。がん検診の微妙な差異に対する一部の懸念は「妥当なものだ」と同氏は指摘。ただし乳がんAI検診システムが医療業界に採用されるには「その価値や効率、早期発見に貢献する能力を証明しなければならないだろう」と言い添える。
「AI技術には間違いなく可能性がある。ただし商業的側面については判断が必要で、主流として使用されるようになる前に慎重を期さなければならない」とシャー氏は話す。とはいえ医療業界をけん引しているのは、全てのことに対してエビデンスを求める医師、科学者、研究者だ。「大きな不安はないだろう」(同氏)
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