「医療の仮想化」とは? コロナ禍で病院CIOが注目するITトレンド遠隔医療のニーズ増を見据える

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、医療機関はIT投資の方向性を変えようとしている。こうした中、医療機関のCIOはどのようなIT製品に注目し、役割をどう変えるべきなのか。米国の医療機関CIOに聞く。

2020年08月07日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

 米国医療機関Harris Health SystemのCIO(最高情報責任者)であり、調査会社Constellation Researchの元主任アナリストであるデビッド・チョウ氏によると、医療機関のCIOは、長期的なプロジェクトから離れて、経営を継続させる日々の技術や優先事項に焦点を合わせている。感染症のパンデミック(世界的大流行)はCIOの役割を変えるきっかけにもなる可能性があり、「医療情報部門のリーダーはバックオフィス業務から離れて幹部役員になるべきだ」とチョウ氏は指摘する。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題がいまだ続く中、医療機関のCIOが導入を検討している技術は何か。そしてパンデミックが医療ITとCIOの役割に永続的な影響を与える理由とは何だろうか。チョウ氏に話を聞いた。

「医療の仮想化」に医療機関のCIOが注目

―― 医療機関のCIOは現在どのようなトレンドや技術に注目しているか。

デビッド・チョウ氏(以下、チョウ氏) 「医療の仮想化」だ。医療業界はこれを待っていた。間違いなく主流になるだろう。抵抗勢力があるために採用は思うように進んでいないが、開発は全力で進められており、注目も集めている。医師の対面医療を必要としない、患者の遠隔監視や遠隔診療の技術などがこれに含まれる。

 医療機関のCIOの多くは、このような医療の仮想化を実現するための適切な基盤(技術と組織)が整っていない領域も認識している。例えばオンライン診療を実施できる医師の数を3000人から1万8000人にするには、基盤に多くの投資が必要だ。この投資を迅速に拡大させるには、適切な基盤が必要になる。基盤を支える技術は、現時点の最優先事項だ。

―― 医療の仮想化を実現する上で、医療機関のCIOが注目している基本的な技術にはどのようなものがあるか。

チョウ氏 ITインフラ、例えばネットワークやソフトウェアの利用について考える必要がある。近年、ソフトウェアを利用してトラフィックのフローを管理できる「SDN」(ソフトウェア定義ネットワーク)が話題になっている。SDNを導入すると、インフラの規模をスムーズに拡大・縮小できる。

―― 日常の対面診療をする医療機関の運営に当たって、医療機関のCIOが注目しているものは何か。

チョウ氏 一部の組織は、意思決定を効率化するために「ビジネスインテリジェンス」(BI)のようなデータ分析の体制を充実させる必要がある。エンドユーザーがアクションを実行できるように、データを利用可能にすることを重視すべきだ。

 組織もビジネスモデルを再評価する必要がある。COVID-19が流行する前の2020年初頭は、医療関連事務のモダナイゼーションに重点が置かれていた。例えばERP(統合業務)システムの更新は、今後2〜3年以内に医療機関の主な議題になるだろう。現在はCOVID-19の影響で、この傾向は停止しているだろうが、今は新しいビジネスモデルを反映する良い機会かもしれない。

 単にシステムを更新するだけではなく、過去15年間変更されていないサプライチェーンを再評価することも必要だ。COVID-19流行後の「新しい世界」でより効率的にプロセスが進むように再設計する必要がある。こうした意思決定をするだけでなく、組織のプロセスを変革するためにも、適切なデータが必要だ。

―― COVID-19のパンデミックはCIOの役割にどのように影響するか。

チョウ氏 恐らく医療機関のIT部門の役割と、CIOに寄せられる期待に変化が生じるだろう。伝統的な哲学で単純な目標を掲げ続ける昔ながらの経営はうまくいかなくなる。組織が競争優位性を持って差異化を図るには、新しい技術を導入する必要があるだろう。これを実際に実行できるCIOは、組織が投資効果を最大化するのに貢献し、CEOおよび経営陣にとって主要な推進力になる。この変革を実行できず、真の影響を理解せずに既存技術の管理に集中している人々は、いずれ職を失うことになる可能性がある。

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