「HDD」にまだ期待したくなる記録技術「PMR」「SMR」「HAMR」「MAMR」の基礎セカンダリーストレージ市場で躍進?

「HDD」を忘れ去るのはまだ早い。「MAMR」や「HAMR」のようなデータの記録密度を高めるデータ記録方式の登場で、HDDは引き続き競争力を発揮する可能性がある。HDDの主要なデータ記録方式をおさらいしよう。

2020年12月16日 05時00分 公開
[Erin SullivanTechTarget]

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画像 Western Digitalが発表したEAMR方式のHDD(出典:Western Digital)《クリックで拡大》

 「HDDは時代遅れだ」という考え方がある一方で、HDDはストレージ容量の増大やデータ読み書きの高速化といった進化を続けている。SSDやクラウドストレージ、ソフトウェア定義ストレージ(SDS)が脚光を浴びる中、HDDには復活の兆しがある。

 技術進化によって、HDDはバックアップやアーカイブ向けストレージアレイの「セカンダリーストレージ」市場で競争力を高めている。「エネルギーアシスト磁気記録」(EAMR)と呼ばれる技術によって、ドライブ内の磁気ディスクである「プラッタ」の数を増やすことなく、データの記録密度を高め、容量を増大させることが可能になった。

 HDD分野では主なエネルギーアシスト記録方式として下記2つの方式がある。

  • MAMR(Microwave Assisted Magnetic Recording:マイクロ波アシスト磁気記録方式)
  • HAMR(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録方式)

 知っておくべきデータ記録方式はこの2つだけではない。データを記録する「トラック」(プラッタを同心円状に分割したデータの記録領域)を屋根瓦のように重ねる「SMR」(Shingled Magnetic Recording:シングル磁気記録方式)や一般的な「PMR」(Perpendicular Magnetic Recording:垂直磁気記録方式)などの方式もある。各方式をざっくりと紹介する。

PMR

 PMRは「CMR」(Conventional Magnetic Recording:従来型磁気記録方式)としても知られる。初めて商用化されたのは2005年だった。PMRの登場がHDDやテープの容量を大幅に増大させた。PMRはEAMRにつながる道を切り開いたHDD技術の一つだ。

 PMR登場前のHDDは、プラッタに対して水平方向にデータを書き込んでいたのに対し、PMRでは垂直方向に書き込む。これによりドライブ内のプラッタを増やすことなく1平方インチ当たりの記録密度を増やすことを実現した。

SMR

 トラックを屋根瓦のように部分的に重ね合わせるのがSMRの特徴だ。SMR方式のHDDは、この設計により各プラッタに書き込むデータ量を増やすことができる。SMRが登場する以前は、トラックが接触しない状態で可能な限り密接に配置することしかできなかった。その方法でHDDの容量を増大させるのには限界があった。

 SMRはデータの連続的な書き込みを基本とすることで密度を高める。一方でランダムな書き込みや、書き込まれたデータの修正に関しては時間がかかる傾向にある。従ってSMR方式のHDDはあまり書き換えが発生しない用途に適しており、バックアップやアーカイブ用として優れる。

HAMR

 HAMR方式のHDDは、プラッタを局所的に加熱し、微少な領域でもデータを書き込めるようにすることで、プラッタの安定性を維持しながらHDDの書き込み密度を増大させる。Seagate Technologyは2020年末までに20TBのHAMRを採用したHDDを登場させると公言しているが、HAMRの製品化は遅れている。Seagate Technologyは早くからHAMRに目を向けていた。HAMRは複雑な製造プロセスを伴う。磁気ディスクを加熱するレーザーの導入コストに加え、プラッタを加熱して急速に冷却する作業には精巧さが求められる。

MAMR

 現代のHDD市場を活気づけているのがMAMRだ。HDDベンダーのSeagate Technology、東芝デバイス&ストレージ、Western Digitalは、いずれもHAMRに加えてMAMRの研究開発を進めている。ベンダー各社は、MAMRはHAMRより安定性が高いとみる。MAMRは加熱処理やレーザーの使用を必要としないからだ。MAMRはPMRと同様のドライブを必要とし、PMRと同様に機能する。そのためPMR方式のHDDを製造しているベンダーであれば、MAMRに切り替えるための製造工程の変更は最低限で済む。

 MAMRの中核要素は、直流電流を流すと高周波が発生する磁気抵抗素子「スピントルク発振素子」だ。MAMRのHDDは、高周波によって強磁性体に磁化(N極、S極)を発生させる「強磁性共鳴」を利用してデータを書き込む。こうした仕組みにより低磁界でもデータの書き込みを可能にすることで、ドライブ密度の増大が実現する。

 HAMRと同様、MAMRもまだ技術として完成しているわけではない。ただしWestern DigitalがMAMRの要素を取り入れたHDD製品を発表するなど、製品化の動きがある。

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