HDDは過去に幾つかのブレークスルーによって容量を飛躍的に増加させた。現在も技術進化の議論は続いており、今後も大容量化の流れは止まらないだろう。その方向性を探る。
HDD市場の動向について紹介した前編「HDDがストレージ市場から“消え去る”とは言い切れない、これだけの理由」では、ストレージ市場ではSDDからHDDへの切り替えが進んでいるが、特定の分野ではむしろHDDの出荷量が伸びていることを示した。HDDの利点であるコスト効率をさらに高めるため、ベンダー各社は現在でも高密度化や大容量化に向けた新たな技術革新の議論を進めている。後編ではHDDが今後どう進化していくのか、その方向性について取り上げる。
HDDのサイズは、現在ではほぼ3.5型というフォームファクター(業界標準として確立されたサイズ)に集約されつつある。HDDのユニットの外形はHDDメーカーの都合で変更することはできないため、HDDの進化は中身を変えることで実現する。SSDももともとは3.5型のフォームファクターが主流で、物理的に中身をHDDと入れ替えるだけで即使えるという利便性から急速に普及した経緯がある。
ユニットの外形を維持するのであれば、内蔵する円盤(プラッタ)のサイズも基本的には大きくできない。そのため記録容量を増やすには「記録密度を上げる」か「プラッタの枚数を増やす」かのどちらかの手段を採ることになる。
記録密度向上のアプローチとしては、2005年に東芝デバイス(当時は東芝)が世界初(同社調べ)の「垂直磁気記録方式」(磁性体を磁化する際、磁界が記録面に垂直になるよう制御する方式)を採用し、商品化に成功した。従来の水平磁気記録方式(磁界が記録面に水平になるよう制御する方式)から垂直磁気記録方式に移行したことで、高密度化と大容量化が実現し、これがHDDの記録容量を拡大する上で大きなブレークスルーとなった。今後は「1bitのデータを保持するための磁性体の量を減らす」という方向で高密度化が進むとみられる。HDDの表面には、データを記録する区画が一定の面積で並ぶ。例えば、この区画の面積を半分にして同じデータ量を保持できれば、容量は倍増する。
内蔵するプラッタの枚数においても技術的なブレークスルーがあった。2013年にHGSTが「ヘリウム封入HDD」を実用化し、市場投入したのだ。HGSTはもともと日立製作所のHDD部門が分離独立した企業で、このヘリウム封入HDDを発表した時は、Western Digital(以下、WD)の傘下企業となっていた。HDDにおける近年の2つの大きな技術革新に日本企業が大きく関わっているということは感慨深い。
ヘリウム封入HDDは、プラッタの枚数を増やせない理由になっていた空気抵抗の問題を解決した。HDDの内部での磁気ヘッドはプラッタと接触してはおらず、一定の隙間を空けて宙に浮いた状態になっている。ヘリウム封入HDDが登場するまで、プラッタの回転が引き起こす気流を磁気ヘッドの位置決めに利用していた。ヘッドを支えるためのアームが翼の役割を果たしてプラッタ面から浮き上がる仕組みだ。プラッタの回転が引き起こす気流による空気抵抗によって、プラッタが波打つようにバタついたりヘッドの位置が揺れ動いたりするため、プラッタ間の隙間に、ある程度の余裕を持たせておく必要があったのだ。
HDDの空気を、分子量が小さく抵抗が小さいヘリウムに置き換えることで、プラッタやアームの強度を従来より下げることが可能になった。これによりプラッタの厚みを減らすといった手法を取り入れ、枚数増が実現したのである。HGSTは、当時5枚が限界だったプラッタ枚数を7枚に増やすことに成功している。
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