SSDに“主役”を譲っても「HDD」の出荷容量が伸び続ける理由「SSD」「HDD」使い分けのポイント【前編】

ストレージ市場でHDDからSSDなどのフラッシュストレージへの移行が進む。ところがHDDの出荷容量は増加傾向にあり、HDDベンダーは大容量化に寄与する技術開発を進めている。ストレージ市場の現状を整理してみよう。

2020年03月02日 05時00分 公開
[Kurt MarkoTechTarget]

 HDD市場を「成熟している」とだけ表現するのは、Amazon.comのCEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾス氏の生活を「暮らし向きが良い」とだけ表現するのと同じくらい不十分だ。ストレージ市場の主流は磁気ディスクを使用したHDDから、SSD(ソリッドステートドライブ)をはじめとするフラッシュストレージへの長期的な移行期にある。一方でHDDの出荷容量は増加傾向にある。

 フラッシュストレージの大容量化と低価格化を受けて、企業IT市場における需要がHDDではなくフラッシュストレージに集中してきていることは確かだ。まずデータベース管理システム(DBMS)などデータ入出力の多い業務システムでフラッシュストレージへの移行が進んだ。次にモバイルPCやタブレットを使用するエンドユーザーの動きが広がったことで、クライアントデバイスでフラッシュストレージが広く使用されるようになった。物理的な駆動装置を持たないフラッシュストレージはHDDよりも持ち運びに適しており、モバイルPCやタブレットへの採用が進んだことが背景にある。

 HDDからフラッシュストレージへの移行は、フラッシュストレージの技術が進歩するにつれて加速してきた。企業IT市場におけるストレージの出荷台数のうち、ミッションクリティカルなアプリケーション向けでHDDが占める比率は20%程度まで減少しているという推計値もある。

小型化するフラッシュストレージ

 HDDはウォームデータ(アクセス頻度が低いデータ)とコールドデータ(アクセスがほとんどないデータ)向けの大容量ストレージとして独自のニッチ市場を見いだしている。容量が10〜16TBのHDDは市場に広く普及しており、HDDベンダーはさらに大容量化する技術開発のロードマップを示している。2030年ごろまでは、企業IT市場でHDDは安泰だと言えるだろう。

 フラッシュストレージは小型化が進んでいる。搭載デバイスの薄型・軽量化を実現するフォームファクター(形状や大きさに関する仕様)としては「M.2」が広く使われてきた。このM.2を置き換える新たなフォームファクターとして登場したのが、不揮発性メモリのフォームファクター「Enterprise and Datacenter Storage Form Factor」(EDSFF)をベースにした「Ruler」だ。Rulerは従来のフラッシュストレージよりもサイズを小型化し、容量密度を向上させる。これに対してHDDのフォームファクターは長い間変わっていない。

HDDはまだ現役 2020年代後半に50TB実現か

 調査会社Coughlin Associatesの推計によると、HDDの出荷台数の60%はウォームデータやコールドデータ向けを中心とした大容量のストレージデバイスが占めており、この割合は2025年まで拡大し続ける見通しだという。

 ストレージ業界は再編を経て、現在の主要HDDベンダーはSeagate Technology、東芝デバイス&ストレージ、Western Digitalの3社になった。Coughlin Associatesの推計では、Seagate TechnologyとWestern Digitalがそれぞれ40%ほどの市場シェアを持ち首位争いをしている。HDDベンダー各社はさらにHDDを大容量化するための技術開発を進めている。大容量化につながる技術として、ヘリウムガスを密封したヘリウム封入HDDを開発し、容量16TBの3.5型のHDDを市場に投入した。2020年にはWestern DigitalとSeagate Technologyが18TBと20TBのヘリウム封入HDDの量産を開始するとみられる。

 HDDベンダーの長期的な取り組みとしては、記録密度を高めるための技術開発がある。ディスクへの記録方式は2005年に実用化した「垂直磁気記録方式」(磁性体を磁化する際、磁界が記録面に垂直になるよう制御する方式)が現在でも使用されている。これに代わる記録方式の開発をWestern DigitalとSeagate Technologyが進めているのだ。

 例えば「HAMR」(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録)や「MAMR」(Microwave Assisted Magnetic Recording:マイクロ波アシスト磁気記録)というエネルギーアシスト記録方式がある。これらはデータを記録する際に何らかのエネルギーを外部から加えることで、これまで難しかった保磁力(磁化後、減磁させるために必要な磁力の大きさ)の高い磁性体材料へのデータの書き込みを可能にする。磁性体材料のサイズを小さくでき、記録密度の向上につながる。

 Seagate TechnologyはHAMRを採用した18TBと20TBのHDDの量産を計画しており、Western DigitalはMAMRを本格的に採用したHDDの開発を進めている。こうしたエネルギーアシスト記録方式の採用、プラッタ(HDDが内蔵する円盤)間隔の縮小、ドライブ1台で最大9枚のプラッタを搭載といった技術進化が全て実現すれば、Seagate Technologyがロードマップで公表している通り2026年までに50TBのHDDが実現する可能性がある。

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