質の高い医療を提供するために、医療機関や製薬会社の間でデータの活用が進みつつある。医療の現場で自然言語理解と自然言語生成などのデータ活用技術がどのように役立つのかを説明する。
医療システムの効率化には、データ分析技術が役立つ。「医療機関を取り巻く変化に備えるには、データを活用し、利用者を含めた関係者全体の関係性を深めることが最善の方法だ」。医療従事者と患者向けの満足度向上ツールを手掛けるInsightin Healthで最高戦略責任者を務めるマイケル・ウッド(Michael Wood)氏はこう説明する。
医療機関は「自然言語理解」(NLU)技術をテキストや音声データの分析に用いている。NLUを使うと、医療機関はデータからキーワードや構文、感情などの要素を基に、患者が怒っているのか、喜んでいるのか、抱えている悩みや問題は何かを推測できる。
「自然言語生成」(NLG)は、医療機関の間ではテキストによる解説や要約の作成への活用が進んでいる。こうした技術は「患者の治療計画の作成をより容易にしたり、患者の質問に明確に答えたりするのに役立つ」とウッド氏は言う。
Insightin Healthのチーフデータサイエンティストであるシューファン・チー氏は、電子カルテ(EMR:電子医療記録)データと医療機器から取得したリアルタイムの身体データを組み合わせることで、患者の健康状態と受診体験を改善できると指摘。結果的に医療費を削減できると説明する。
製薬会社は新薬の開発のために医療機関と提携して、臨床試験を実施している。臨床試験の現場は、適切な対象集団を特定するためにデータを利用している。各被験者の薬に対する反応の有無を記録し、より個人に即した治療を提供することも目指している。
国際会計事務所・コンサルティング会社PricewaterhouseCoopers(PwC)の米国医療サービス部門でリーダーを務めるグルプリート・シン氏は、データの用途の一つとして、薬の処方をパーソナライズし、適切な投薬計画を策定することを挙げる。例えば薬剤の反応者と非反応者の比率が40対60だったとする。これは場合によっては、投薬の60%が無駄になっていることを意味する。「患者がドアを開けて診察室に入った時点で、その人を60%側だと判断できれば、より効率的に、より効果の高い投薬計画を立てられる」(シン氏)
シン氏によれば、製薬会社は投薬によって生じた好ましくない影響や意図しない影響などの有害事象の追跡に、年間約1億ドルから4億ドルを費やしている。機械学習と高度なデータ分析の導入により、こうしたコストを半分程度まで削減できる可能性があると、同氏は指摘する。
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