メタウォーターは2011年から富士通のクラウドサービスを利用し、サービスのデジタル化を進めている。選定理由や活用術を、同社の担当者に聞いた。
「水処理の電気設備は外観、内部ともに異常なしです」。ある地方自治体で点検を終えた技術者は指を動かし、タブレットに点検の結果を入力した。水処理分野のエンジニアリングを手掛けるメタウォーターはこの情報をデータベースで集計し、各電気設備はいつ故障する可能性があるか、どのタイミングで交換すればいいかといったことを分析。同社の顧客である地方自治体に知らせる。データ分析を駆使し、水関連施設を安定して稼働させたいい――。メタウォーターのこうした取り組みを支えているのは、クラウドサービスだ。
メタウォーターは富士通のクラウドサービス「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-O」を導入し、地方自治体や民間企業に提供する各種サービスのデジタル化を進めている。上下水道業界は、IT活用が遅れていると言われる。そうした中、メタウォーターはいち早くクラウドサービスを採用し、デジタル化によって業務の効率化やサービスの高付加価値化に注力している。
2008年、メタウォーターは日本ガイシの子会社だったNGK水環境システムズと、富士電機の子会社だった富士電機水環境システムズの合併によって生まれた。設立直後、メタウォーターは従来にない新しいサービスを提供すべく、サービスのデジタル化を進める必要性を感じていた。それと同時に、デジタル化を実現するためのIT人材やノウハウがないという障壁に直面した。ITの専門企業ではない同社にとって、ITエンジニアを確保し、ハードウェアからソフトウェアまで自社でシステムを構築することは現実的ではなかったという。
そうした中にあってメタウォーターが着目したのは、クラウドサービスだ。クラウドサービスを利用すれば、インフラ構築を他社に委託し、自社ではアプリケーション開発に注力できる。クラウドサービスはニーズに応じて迅速に拡張でき、スモールスタートでのサービス立ち上げにも適する――。メタウォーターはそう判断し、クラウドサービス採用のプロジェクトを立ち上げた。2011年初めの頃だ。
メタウォーターが考えたのは、水関連設備の稼働状況や水の濁り具合といった、技術者が現場で集める情報をどこからでも入力・閲覧できる仕組みの構築だ。情報の分析もし、設備の故障を予測したり、水の品質を高めたりすることで、顧客に競合他社にはできない独自サービスを提供することも目指していた。同社はプロジェクトチームを立ち上げ、目指している仕組みのインフラとしてのクラウドサービスの選定に着手した。
当時はまだクラウドサービスの黎明(れいめい)期だ。IBMやAmazon Web Services(AWS)などがクラウドサービスを提供していたものの、「どこのクラウドサービスを見ても機能が似通っていて、これといった特徴はなかった」と、メタウォーターでクラウドサービスの活用を統括する「WBC(ウォータービジネスクラウド)センター」の浦谷貴雄副部長は振り返る。そもそも同社の従業員は「水」の専門家であり、ITに精通する人はいなかった。「どこのクラウドサービスを選べばいいのか、正直よく分からなかった」(浦谷氏)
自社の知識不足だけではない。クラウドサービス採用の計画を知ったメタウォーターの顧客も、そのメリットや信頼性について懐疑的だったという。地方自治体にとって水の供給は文字通りの死活問題だ。「クラウドサービスは本当にセキュリティが大丈夫なのか」。メタウォーターは顧客から何回もこう問いただされた。
どのクラウドサービスなら、メタウォーターのニーズに合致し、顧客も安心するのか。同社が着眼したのは、国産ベンダーのクラウドサービスだ。国産ベンダーは一般的に、国内にあるデータセンターでクラウドサービスを動かす。メタウォーターにとっても、その顧客にとっても“身近な存在”になる。浦谷氏は「特に富士通は官公庁にクラウドサービスを納入した事例があって心強かった」と述べる。メタウォーターの営業担当が全国を回って顧客に富士通のクラウドサービスの導入事例を見せたところ、地方自治体もクラウドサービスの活用に前向きになったという。
富士通のクラウドサービスを採用するもう一つの決め手になったのは、「システムの構築や運用保守など、全てを引き受けてくれる」(メタウォーターWBCセンターの川上 智マネージャー)ことだった。メタウォーターは富士通の担当者と何回か会議し、密にコミュニケーションを取りながらクラウドサービス導入の詳細を詰めた。最終的にメタウォーターは富士通への発注を決め、当時「FUJITSU Cloud Service S5」の名称だったクラウドサービスを導入した。東日本大震災が発生するわずか数週間前だ。
東日本大震災のとき、「データセンターの頑丈さのおかげでクラウドサービスは止まらなかった」。メタウォーターの浦谷氏は胸をなでおろした。東日本大震災を機に、システムを会社から離れた場所にあるデータセンターに移行した方が災害には有利との考えが広がり、企業の間でクラウドサービスの導入が進んだ。同社の顧客の中にも、東日本大震災を経験してクラウドサービスの良さを認識したという顧客が少なくなかったと浦谷氏は語る。
メタウォーターがクラウドサービスを導入してから、2021年で10年がたった。同社は2016年、システムをFUJITSU Cloud Service S5からPaaS(Platform as a Service)機能も備えた「FUJITSU Cloud Service K5」(現FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-O)に移行させた。10年間、大きなトラブルなく、システムが安定的に稼働しているという。富士通のクラウドサービスでメタウォーターが処理するデータ量は、1日当たり約15GBのペースで増えている。
クラウドサービスは、使い方によっては利用料金が割高になりかねない。同社は利用料金を抑えるために、インターネットとやりとりするデータ量を抑える、不要な仮想マシンを停止するなど、運用面での工夫を凝らしているという。
現在もメタウォーターは月1回のペースで富士通の担当者と会議し、不具合の調査報告を受けたり、改善点についてディスカッションしたりしている。「現場の担当者同士で信頼関係を築き、直接話せることも国産ベンダーの利点だ」と、メタウォーターの浦谷氏はみる。「今後のデータ活用の強化に向け、メタウォーターと議論を重ねながら提案したい」と、富士通でメタウォーターのビジネスを担当する吉江 祐紀子マネージャーは話す。
今後メタウォーターが取り組むのは、FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-Oを他のクラウドサービスと連携させるマルチクラウドの活用だ。「3大クラウドと呼ばれるAWS、『Microsoft Azure』『Google Cloud Platform』(GCP)との連携を視野に入れている」と浦谷氏は言う。
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