「社員の健康を守るためのPC監視」はありなのか? 問われるプライバシー問題「仕事から離れる権利」を尊重するには【後編】

心身の健康を守る目的で、MicrosoftやCisco Systemsは従業員のPC利用状況や生産性の監視ツールを提供している。こうした監視ツールは雇用主からの需要がある一方で、その存在意義を疑問視する専門家もいる。

2022年02月15日 05時00分 公開
[Mike GleasonTechTarget]

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 就業時間外のメールやチャットの連絡が従業員の心身の健康に悪影響を及ぼし、「燃え尽き症候群」につながる――。こうしたリスクを下げるために、コミュニケーションツールベンダー各社は「仕事のオンオフ切り替え」を促す機能を拡充している。一方で、こうした従業員の健康を守る機能の利用を通じて、雇用主が従業員を監視する可能性を危惧する声もある。中編「“働き過ぎる文化”にメスを ZoomやTeamsが『仕事から離れる』機能を加えた訳」に続き、後編となる本稿は、従業員の監視に関する問題を取り上げる。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が始まったとき、テレワークで生産性が低下することを恐れた企業の間では、従業員の行動を追跡することを検討する動きが広がった。

「心身の健康のために、PC利用時間を計測」は受け入れられるのか

 Microsoftがオフィススイート「Microsoft 365」(Office 365)に2020年に追加した機能「Productivity Score」(生産性スコア)は、プライバシー保護擁護派の反感を買った。生産性スコアはPCでのMicrosoft 365使用状況を追跡できる機能だ。「テレワーカーの活動を追跡するツールを顧客に提供するものだ」との批判を浴びた。その結果、Microsoftは生産性スコアを修正し、個人を特定できるデータを表示しないようにした。MicrosoftのVivaプロダクトマーケティング担当シニアディレクターを務めるスニタ・カトリ氏は次のように説明する。「分析情報は集計され、パターンと傾向を簡単に把握できるが、個人を特定できるような個別の情報は含まれない」

 他のITベンダーも、従業員の心身を守るウェルネス機能は「監視ツールではない」と見なす姿勢を示している。Cisco SystemsはWeb会議ツール「Cisco Webex」のプロフィール表示機能「People Insights」について、Microsoftと同様の主張を表明している。

 英国のエンジニアと科学者の労働組合Prospectは、ITを利用してテレワーカーを追跡することは従業員の自宅に監視装置を置くようなものだと考えている。「生産性は従業員を徹底的に締め付けて得られるものではない」と、Prospectでリサーチディレクターを務めるアンドリュー・ペイクス氏は語る。

 調査会社Metrigyでアナリストを務めるアーウィン・レザー氏によると、従業員のテレワーク時間が長時間に及ぶ企業では従業員監視の需要がなくなりつつある。「多くの企業は成果に基づく管理に切り替えている。管理職が気にするのは従業員が1日8時間デスクに向かっているかどうかではない。仕事を終わらせているかどうかだ」(レザー氏)

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