各国で軍事領域における「AI技術」の活用が、今後勢いづく可能性がある。一方で専門家は「議論が不十分だ」と指摘する。その実態とは。
軍事用途の人工知能(AI)技術の開発や導入が広がっている。その取り組みが活発化する状況において、慎重に検討を進めるべきだと警鐘を鳴らす専門家もいる。どのような状況なのか。
Googleの元CEOエリック・シュミット氏は、AI技術の軍事利用推進に尽力する一人だ。シュミット氏はこれまで、同テーマに関する取り組みや活動を実施してきた。同氏は、「中国やロシアに対抗する競争力を保つため、米軍やその同盟軍はAI技術を軍事利用する準備をする必要がある」という考えを支持している。
AI倫理の専門家エルケ・シュワルツ氏は、シュミット氏の論議について「軍事用AIが実際どのように機能するかや、AI技術を原動力とする軍事作戦の落とし穴については、いつも議論の中心から外れている」と指摘する。
「軍隊は、シリコンバレーモデルと同様の流れで形作られるだろう」とシュワルツ氏は話す。つまり、全ての事象をAIと相互接続し、調達から作戦遂行までの軍事プロセスを極めて迅速かつ俊敏なものにするということだ。そのように戦争が加速したら、どのような問題が起きるだろうか。
問題の一つとして挙げられるのが、軍隊が使用する技術について、民間企業やその関係者が強い発言権を持つことだ。例えば2022年6月、英国国防省(MoD)はAI技術を用いた防衛戦略を発表し、「英国は民間部門と密接に連携し、軍を近代化するために、AI技術の研究開発と実験を最優先する」と述べている。
シュワルツ氏は、「民間企業関係者の役割や、関係者が果たさなければならない責任について率直に話し合うべきだ」と指摘する。同氏によると、現在この点はほぼ野放し状態だ。「軍事技術が社会に与える影響力を考えると、AI技術の軍事利用について公に議論することが重要だ」(同氏)
AI技術はデータを処理する優れた技術に過ぎない。AI技術を利用して利益を得る一部の人は、AI技術を「必要なもの」「必然的なもの」として評価するが、人類や社会、政治にAI技術がどれほどの恩恵をもたらすかについては、一般的によく理解されていないのが実情だ。
軍事用AIの開発や検討は、すさまじいスピードで進んでいる。この背景には、各国が周辺国に対抗するために、軍事用AIを開発しなければならないと切迫感を持っている実情がある。この状況についてシュワルツ氏は、「時間をかけて慎重に進めるべきだ」と話す。「全員に影響することは、全員で決める必要がある。これは民主主義の基本だ」(同氏)
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