量子コンピューティングに対し、今日まで一般的に使われてきたコンピューティング手法を「古典コンピューティング」と呼ぶ。これらが融合するとは、何を意味するのか。その動きの兆候を追う。
GPU(グラフィックス処理ユニット)をハイパフォーマンスコンピューティング(HPC:高性能計算)など多様な分野向けに提供してきたNVIDIAは、2023年3月に量子コンピューティングに関わる、ある新製品を発表した。これは、今日まで一般的に使われてきたコンピューティング(計算)手法である古典コンピューティングと、量子力学の法則に基づく量子コンピューティングの“融合”を見据える上で、重要なものになる可能性がある。どのような製品なのか。
NVIDIAは2023年3月、量子コンピューティング分野のスタートアップQ.M Technologies(Quantum Machinesの名称で事業展開)と共同開発した「NVIDIA DGX Quantum」(以下、DGX Quantum)を発表した。これは、GPUによるアクセラレーテッドコンピューティング(計算処理の高速化)と、量子コンピューティングを組み合わせるシステムだ。
今回の発表に先立つ2022年夏、NVIDIAは古典コンピューティングと量子コンピューティングのハイブリッド型アプリケーションを視野に入れた開発者向けツール群「Quantum Optimized Device Architecture」(QODA)を発表していた。DGX Quantumの構成要素に含まれる「NVIDIA CUDA Quantum」(以下、CUDA Quantum)は、QODAの名称を変えたものだ。
コンサルティング企業Global Quantum Intelligenceのチーフコンテンツオフィサーであるダグ・フィンケ氏がDGX Quantumに着目する点の一つは、古典コンピュータと、量子コンピューティングシステム間の応答時間の短縮だ。「GPUや、汎用(はんよう)インタフェース規格『PCI Express』(PCIe)がそれに貢献する」とフィンケ氏は指摘する。PCIeはアクセラレーテッドコンピューティング用モジュール「NVIDIA Grace Hopper Superchip」と、Quantum Machinesの量子制御システム「OPX+」を接続する。
NVIDIAは、GPUを提供することでHPC分野では欠かせないベンダーになっている。「同社が次のステップとして量子コンピューティング分野の開発を強化するのは自然な流れだ」。調査会社Moor Insights & Strategyのアナリスト、ポール・スミス・グッドソン氏はそう話す。
一方のQuantum Machinesが提供するOPX+は、特定のハードウェアに依存しない量子制御システムだ。同社とNVIDIAが協力を進めることで、「古典コンピューティングと量子コンピューティングの収束が始まったように見える」とグッドソン氏は述べる。
古典コンピューティングと量子コンピューティングを組み合わせる分野に関心を示すベンダーは、NVIDIA以外にもある。それを考慮すれば、「DGX Quantumの発表は適切なタイミングだった」と、あるアナリストはみる。
後編は、CPUやGPUなどの古典プロセッサとQPU(量子処理ユニット)を同時に使う点に焦点を当てる。
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