SAPが人工知能(AI)技術の事業を強化するため、約8000人の従業員を対象とした再編を進めている。直近の業績が好調な中で、同社が大規模な再編を強行する狙いは単純ではないとアナリストは指摘する。
SAPは人工知能(AI)技術関連の事業に注力することを理由に、人員体制の再編を進めている。約10万7000人(2023年12月時点)の従業員のうち、約8000人がその影響を受ける。同社は解雇する人数は明言していないが、大部分は希望退職かリスキリング(新しい知識やスキルの習得)の対象になる見通しだ。
クラウドERP(統合基幹業務システム)を含めてSAPは好業績を維持している。そうした中で同社がAI分野の強化と、大規模な人員整理を進める“本当の狙い”はどこにあるのか。
SAPは今回の再編を、2023年度第4四半期(2023年10〜12月)決算と併せて発表した。業績で顕著だったのはクラウドサービス領域の成長だ。同領域における2023年度第4四半期の売上高は25%増加し、カレントクラウドバックログ(CCB:Current Cloud Backlog)は27%増加した。CCBは「今後12カ月間で見込まれる、すでに契約済みのクラウドサービスの売り上げ」を意味し、同社は「見込み売上高」と定義している。
SAPの最高経営責任者(CEO)であるクリスチャン・クライン氏は、今回の決算は「(SAPが)これまで以上に強力な企業であることを示している」と話す。しかしIT業界の変化を受け、「次のトレンドを先取りして考える必要がある」とも述べた。
クライン氏は、今回の再編を「将来の成長への投資」と呼ぶ。同社は2025年末までに、サプライチェーンやサステナビリティ関連のアプリケーションなどの分野で、AI技術に約10億ユーロを投資する計画だ。同氏は「AI技術の領域への配置転換を支援するために、リスキリングには1億ユーロ以上を投資する」と説明。今回の再編には合計約20億ユーロを充てる。
ERPコンサルティング会社Enterprise Applications Consultingの代表を務めるジョシュア・グリーンバウム氏は、「今回の再編計画はウォール街の投資家たちの関心を引くための策だろう」と述べる。今回の発表以降、SAPの株価が時間外取引で史上最高値を記録した通り、投資家も反応しているようだと同氏は指摘する。
「AI技術はウォール街が好む魅力的な新技術なので、SAPのような企業は少なくとも形式的にはAI技術に注力するだろう。しかし大規模な人事異動がカスタマーサクセス(顧客の成功)に大きな影響を与えるとは考えにくい」とグリーンバウム氏は言う。
SAPはAI関連の事業を重要視しており、人員体制を再編する狙いもそこにあると考えられる。一方でグリーンバウム氏は、SAPは既存顧客のERPパッケージ「SAP S/4HANA」への移行に注力し続けるべきだと付け加える。レガシーシステムのサポート終了の期限が近づいているからだ。
企業向けのWebメディアdiginomicaの共同設立者ジョン・リード氏は「ITベンダーはより効率的な運営を試みており、AI技術を活用した成長機会を期待している」と述べる。人員削減を含む再編を検討しているITベンダーはSAPだけではない。「ITベンダーは、AI技術が将来的に収益をもたらすことを予感している。SAPに限らず、企業向けITベンダーの従業員であれば誰でも、リスキリングの機会を活用すべきだ」(リード氏)
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