クラウドサービスに移行したものの、想定よりコストが高いと悩む企業は珍しくない。クラウドサービスは常に正しいわけではない。オンプレミスとは異なる高額なコストの原因や欠点とは。
クラウドサービスをサーバやストレージなどのITインフラとして選択する企業が増加傾向にある。インフラ選定時にクラウドサービスを第一候補として考える「クラウドファースト」や「クラウド優先」の方針を打ち出している企業は珍しくない。
だが、クラウドサービスが常に正しい選択肢になるとは限らない。クラウドサービスは企業が期待するほど安価とは限らないばかりか、臨機応変に変化に対処できなくなることもある。クラウドサービスのコスト増を招く原因や欠点として、何に注意が必要なのか。
クラウドサービスに魅力を感じている企業は、コストを削減できると期待しているようだ。ハードウェアを自社で調達する必要がないため初期費用が不要になるが、必ずしも総コストを削減できるわけではない。
事実、アプリケーションやワークロード(処理するタスクや作業)、IT運用の種類によっては、オンプレミスシステムや従来型のデータセンター、コロケーション(データセンターの場所貸しサービス)を利用するよりもクラウドサービスの方が高額になることがある。
調査会社GigaOMでリサーチ部門のバイスプレジデントを務めるジョン・コリンズ氏によると、問題の中心は企業がクラウドサービスの利用方法を事前に計画していないことと、利用規律の甘さにあるという。
クラウドサービスにあまり適していないアプリケーションをクラウドサービスに移行すれば、メリットを十分に得ることができない。その移行にかかった費用が無駄になるだけだ。「実際にかかるコストを事前に評価することなく、クラウドサービスにアプリケーションを移行する企業が目立つ」(コリンズ氏)
クラウドサービスの利用料金の最適化を図る手法として、「Finance」(財務)と「DevOps」(開発と運用の融合)を組み合わせた「FinOps」が台頭していることは、CIO(最高情報責任者)が財務のガバナンスを取り戻そうとしていることを示している。
無計画にアプリケーションや仮想マシンの全てをクラウドサービスに移行すれば、結果として変化に追随する力を失い、より多くのコストを負担する結果になるだろう。
クラウドサービスでの利用を意図して設計されていないアプリケーションを移行すると、パフォーマンスが出なくなり、結果としてコストの増加につながる。
単純にクラウドサービスで効率よく運用することが難しいアプリケーションもある。オンプレミスインフラで稼働するデータベースを使用するアプリケーションや、入出力の頻度が極めて高いアプリケーション、IoT(モノのインターネット)センサー、人間からの物理入力装置への接続を必要とするアプリケーションなどだ。
堅牢(けんろう)で安定した接続を必要とするアプリケーションは、通常、クラウドサービスへのインターネット接続を利用するよりも、ローカルネットワーク経由またはデータセンター内で運用する方が適している。例えば「ERP」(統合基幹業務システム)、サプライチェーン管理、製造といったシステムや、金融、医療、輸送、インフラなどのアプリケーションなどだ。
クラウドサービスで運用することを想定しているアプリケーションでも、クラウドサービス向けに最適化されていなければ、パフォーマンスの問題が生じる可能性がある。
こうしたアプリケーションをクラウドサービスで効率よく稼働するように作り直すことは可能だ。だが、それには費用がかかり、混乱が生じる可能性がある。そのアプリケーションが既に正常に稼働している場合、作り直すという決断は容易ではないだろう。
後編では運用やデータ保護におけるクラウドサービスの問題点を解説する。
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