ZoomのAIアシスタント「AI Companion」は、Web会議に関連する業務の生産性向上につながるツールだ。機能やコストの観点で、同ツールの何が特徴的で、どのような利点があるのかをまとめる。
Zoom Video Communications(以下、Zoom社)は、2023年9月に発表した人工知能(AI)アシスタント「AI Companion」(旧称「Zoom IQ」)によって、コラボレーションツール「Zoom」の利便性を改善した。
AI Companionは、テキストや画像などを自動生成するAI技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)を備えたツールだ。生産性を向上し、シームレスな共同作業を促進する。同様の生成AIは、業務用の各種ツールに搭載され始めている。そうした中でZoom社は、AI Companionにエンドユーザーの要望を加味してある特性を持たせた。同ツールには機能やコストの観点でどのような特徴があるのか。
AI Companionには、エンドユーザーが出席できなかったWeb会議の要約を生成したり、会議出席者に話し方についての助言をしたり、会議に先立ってさまざまな情報源から資料を集める作業を支援したりする機能がある。2024年2月時点で51万件以上のアカウントがAI Companionを利用しており、720万件以上の会議の要約が生成されたという。
Zoom社は以前からAI技術を組み込んだ機能を製品に搭載している。オフィスの会議室でWeb会議に参加する人をビデオフレーム内にそれぞれ大きく表示する機能「Smart Gallery」や、商談を要約して営業応対の品質や次のアクションに関する洞察を導く営業支援機能「Zoom Revenue Accelerator」などが代表例だ。
AI Companionの特徴は「生成AIに対するフェデレーテッドアプローチ」だと、Zoom社で最高製品責任者を務めるシムタ・ハシム氏は説明する。ハシム氏の言葉を借りると、フェデレーテッドアプローチは「1つのAIモデルに依存するのではなく、タスクに応じて複数のAIモデルを動的に使用し、エンドユーザーが求める結果を生み出すこと」を指す。
「当社はOpenAI、Anthropic、Meta PlatformsといったAIモデルを手掛ける企業とパートナーシップを結んでいる一方で、当社独自のAIモデルも所有している」(ハシム氏)。ユーザー企業が望めば、ユーザー企業独自のAIモデルも持ち込める。全ての作業に大規模言語モデル(LLM)を使う必要があるわけではないため、フェデレーテッドアプローチの方が費用対効果は高いという。
Zoom社の最高技術責任者(CTO)を務めるホアン・シュエドン氏が、公式ブログで2023年11月に公開したエントリ(投稿)によれば、費用対効果が高くなる理由はこうだ。同社はまず、当面の作業に最適な低コストのLLMを採用する。その後、Zスコア(注)を評価する担当者が最初の作業完了時の品質を評価する。必要であればさらに高度なLLMを使い、最初のLLMで得られた結果を基に作業完了時の品質を改善する。「このやり方は、結束力のあるチームが連携すれば、個人よりも効率的に高品質の製品を作成できるのと同じだ」とシュエドン氏は公式ブログエントリに記している。
※注:Zスコア(Z値)は分布の平均値からのずれを示す値。Zスコアの絶対値が大きいほど、分布の平均値からのずれが大きいことになる。
AI Companionは、Zoomの有償ライセンスを持っているユーザー企業であれば追加費用なしで利用できる。ハシム氏によれば、この提供形態が可能なのはZoom社がフェデレーテッドアプローチと小さなAIモデルを利用していることと、同社が技術革新によって十分な利益を得ていることに起因する。「当社がコストを負担することになるが、AI Companionの費用対効果は大いに期待できる」と同氏は話す。この仕組みは生成AIの導入コストを懸念しているユーザー企業にとっては明確にメリットであり、大きな遅滞なく結果を提供できるという。
データのプライバシーとセキュリティに関する懸念に対処するため、Zoom社がAIモデルのトレーニングにユーザー企業のデータを使用しない旨をハシム氏は説明する。同社はAI Companionが稼働するシステムのアーキテクチャ、データストレージの詳細、データの保持期間、用途の詳細を概説する資料を公開し、同社がユーザー企業のデータを保持しないオプションも用意している。
ハシム氏は、ZoomのAI機能(AI技術を活用した機能)がユーザー企業のオンプレミスインフラで運用できるようになる可能性を示す。
Zoomのクラウドサービスと同機能をユーザー企業のオンプレミスインフラで利用するためのモジュールとして、Zoom社は「Zoom Node」を提供している。ハシム氏によると、音声通話サービス「Zoom Phone」やビジネスチャットサービス「Zoom Team Chat」をユーザー企業のオンプレミスインフラで稼働させている事例はある。AI機能をユーザー企業のオンプレミスインフラで稼働させている事例は原稿執筆時点ではまだないが、ユーザー企業のニーズによっては提供できるようにする計画があるという。
会話を分析するAI機能をZoomが備えているとしても、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使ってZoom以外のアプリケーションやデータソースに接続してZoomでの会話を分析したがる業界はある。ハシム氏によると、その代表例は医療業界だ。こうした業界では固有のAIモデルを使用する可能性があるという。「企業や業界固有のAIモデルについては、複数のベンダーと話し合いを進めており、当社はユーザー企業が独自のAIモデルを持ち込むことを非常に歓迎している」と同氏は説明する。独自のAIモデルを持ち込むことが比較的容易なのは、同社がフェデレーテッドアプローチを採用しているからだ。
Zoomでアジア太平洋地域の責任者を務めるリッキー・カプール氏によると、AI Companionは特定のユーザー企業に新たな可能性を開いた。それは「事業継続性を確保するための代替ツールを探し求めていて、かつ生成AI機能に掛かるコストを懸念している企業」だ。「AI Companionは『既存のコミュニケーションツールに代わるツール』という位置付けでZoomを採用する流れを加速させた。幾つかの事例を見ると、AI Companionは付加価値をもたらし、さらなる収益をもたらすはずだ」とカプール氏は展望する。
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