「非エンジニアが開発者になる」は生成AI時代の“幻想”でしかなかった?AI時代における市民開発の実態【後編】

生成AIの台頭により、非エンジニアが開発に参加する「市民開発」への期待が高まっている。一方で、「誰でもコーディングできる」という考えに注意を促す専門家もいる。その理由とは。

2024年09月03日 05時00分 公開
[Fleur DoidgeTechTarget]

 テキストや画像を自動生成する人工知能(AI)技術「生成AI」の進化によって、市民開発(非エンジニアによる開発)はますます身近なものとなりつつある。一方で、「生成AIを使えば誰でもコーディングできる」という考えに、期待し過ぎてはいけないと主張する専門家もいる。それはなぜなのか。

「非エンジニアが開発者になる」は幻想でしかないのか?

 市場調査アプリケーションベンダーStreetbeesで、エンジニアリング部門の責任者を務めるギャビン・アルクール氏は、「コーディングの民主化」に懐疑的な視線を向ける。過去に生成AIを用いて製品の設計や検出、実装をした経験から、生成AIの効果を引き出すには相応の投資が不可欠であるとアルクール氏は理解しているからだ。

 例えば、市場調査を実施するには、単にデータを集めるだけでなく、それを有用な形に整理して翻訳する作業が必要だ。Streetbeesには、市場調査に関する専門知識を図式化し、翻訳するスタッフがいる。生のデータをデータライブラリ(特定の目的のために整理されたデータの集まり)に変換するためには、データスキーマの操作スキルが必要だ。他にも、マーケティングの知識、戦略的思考、技術スキルを備えた人材が欠かせない。

 生成AIやそのベースとなる大規模言語モデル(LLM)は進化を続けており、時間の経過とともに一般的な技術になると予測される。StreetbeesでAI製品担当ディレクターを務めるシャフ・シャジャーハン氏は、「LLMを使えば、誰でもある程度の品質と結果を出せるようになったとしても、それが最適とは限らない」と指摘する。製品やサービスの差別化要因は、専門家によって設計および開発されているという事実にあるからだ。

 ローコード(最低限のソースコードを記述)開発ツールベンダーMendixで最高製品責任者(CPO)を務めるハンス・デ・ビサー氏は、特定の制限された範囲内でのみ機能するシステムである「ウォールドガーデン」について言及する。

 例えば、Microsoftのローコード開発ツール「Microsoft PowerApps」(以下、PowerApps)でウォールドガーデンを構築することが可能だ。PowerAppsでは、ポータルサイト構築ツール「Microsoft SharePoint」や表計算ツール「Microsoft Excel」など限られたデータソースからデータを取り出して使用できる。他にも、ユーザーインタフェース、チェックリスト、承認リマインダーなど、PowerApps内でのみ機能するシンプルなワークフローの構築が可能だ。

 このように限られた範囲内であれば、誰でも簡単なアプリケーションを安全に開発できる可能性がある。より難易度の高いアプリケーション開発に挑戦する場合は、生成AIを組み込むことで作業の抽象化と自動化を実現し、生産性の向上が期待できる。

 「どのタイプの生成AIツールを、どのような人に提供するか検討すべきだ」とビザー氏は強調する。アプリケーションを一度も開発したことがない人でも、生成AIを使用すればソースコードを自動生成できる。しかし、その仕組みを理解できないことがほとんどだ。

 通信大手BT GroupでAI分野のプリンシパルエンタープライズアーキテクトを務めるメルビン・ホワイト氏は、「非技術者を含め、幅広い人が容易に生成AIを使えるようにすることは良いことだ」と話す。同時に、「LLMを使用すると生産性は向上するが、成果物を人が確認し、必要に応じて調整することが欠かせない」とも強調する。

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