人間の知能と人工知能(AI)の定義について、専門家の間でも激しい論争が繰り広げられている。AI技術が進化することで浮き彫りになる、両者の明確な違いとは。
賢さ、鋭さ、論理的思考力、理解力――これらは全て人間の「知能」を表すための言葉だ。それぞれの言葉にはさまざまな意味合いがある。それは「人間の知能の本質を捉える難しさ」を示している。
近年、人工知能(AI)が世間を賑わせている。20世紀後半に登場したAI技術は飛躍的な進化を遂げ、人間のように学習してさまざまなタスクをこなせるようになった。これは従来、知能を持った人間にしかできないと考えられてきたことだ。
ただし人間とAIシステムは同じものでも、代替可能なものでもない。両者が決定的に違うと言える、3つのポイントを解説する。
人間の驚くべき能力の一つは、少数のサンプル、時には1つのサンプルから新しい概念を学べることだ。例えば、ヒョウの画像を1、2枚見ただけで、他の動物の中からヒョウを正しく見分けることができる。こうした能力を「ワンショット学習」と呼ぶ。
一方、AIは学習のために膨大なサンプルを必要とする。AIがヒョウを識別するためには、何千、何万もの写真を基に学習する必要がある。これを「マルチショット学習」という。多くの研究者はこの違いを踏まえて、「人間はAIよりもはるかに効率的に学習できる」と考える傾向にある。
人間を人間たらしめる能力の一つが「想像力」だ。21世紀、人間の想像力について改めて考える動きが起きている。気候変動や国際紛争の勃発などの課題が深刻化する中で、全人類が協力して新しいアイデアを出すことが求められているからだ。
想像力にはさまざまな定義があるが、一般的には「存在しないものや知覚できない現象について考えたり、アイデアや概念を形成する能力」とされている。過去に起こり得たことや、未来で起こり得ること、現実的にはあり得ない現象について、大半の人が日常的に考えを巡らせているだろう。
対してAIシステムは、人間のように想像するのではなく、「再現」しているというのが研究者の見解だ。生成AIは再現能力に優れており、情報を合成した上で再現も可能だ。例えば、AIモデルにさまざまな種類の自動車を学習させると、学習データを基に、各自動車の特徴を組み合わせて新しい画像を作ることもできる。Fordの「Mustang」(マスタング) 、Vokswagenの「Beatle」(ビートル) 、Ferrariの「Portofino」(ポルトフィーノ) といったさまざまな車種の特徴を組み合わせた車の画像も生成可能だ。一部のAI専門家はこれを「想像力」だと表現するが、実際には「合成的な再現」だと言える。
人間は五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を用いて周囲の情報を理解し、その情報を基に意思決定ができる。身体のさまざまな器官から得た情報を1つにまとめて、今どこにいるのか、周囲で何が起きているのかをすぐに理解できる。取得した情報に対して、さまざまな反応を示すことも可能だ。
2024年時点で、AIが複数の感覚を同時に取得することはまだ難しいとされている。一方で、AI技術の進化に伴いこの課題は解消に近づきつつある。AIベンダーOpenAIの大規模言語モデル(LLM)「GPT」は、テキストや画像、音声などの情報についてインプットやアウトプットが可能だ。自動運転車に組み込まれるAIシステムは、レーダーや加速度計、マイクなど、さまざまなセンサーを使って周囲の情報を集め、走行判断に役立てている。
AI技術のさらなる発展に伴い、人間とAIシステムが協力して働く機会も増えている。そのような中で注目されるのがAIガバナンスだ。AIガバナンスとは、人類がAI技術を倫理的かつ責任ある方法で利用できるようにすることを指す。AIシステムは倫理を理解する能力を持たない。ビジネスや医療などAI技術の活用場面が広がるに伴い、人間による監視の重要性は強まっている。
近年の世論調査や政策立案者の意見によると、AIシステムに意思決定を委ねることに強い抵抗感を抱いているようだ。同時に、現在社会が直面している問題は人間の力だけでは解決が難しいという意見もある。今後の課題は、人間とAI技術それぞれの強みを上手く組み合わせて、お互いの弱点を補うことだ。これが人類にとって最善の方法であり、避けられない未来なのではないかと筆者は考える。
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