万引き対策の切り札「顔認識」に英議会が“待った”を掛ける理由小売業での顔認識技術の活用

英国で、小売業者が万引き防止策として顔認識技術を活用する動きがある。一方で、同国議会からはその動きに対する反発と法整備を求める声が上がっている。それはなぜか。

2024年11月08日 14時05分 公開

関連キーワード

流通業 | 人工知能 | プライバシー


 小売業者が、万引きをはじめとする犯罪対策にリアルタイムの顔認識技術「LFR」(Live Facial Recognition)を使う――。英国貴族院(上院:House of Lords)はこの取り組みに懸念を示し、政府に対して、民間企業における顔認識技術の利用に際する新たな法律の制定を求めている。議会はどのような点を懸念しているのか。

犯罪防止目的でもNG? 顔認識技術の問題とは

 2024年5月、英上院司法・内務委員会(JHAC:Justice and Home Affairs Committee)は万引き対策に関する調査を開始した。調査テーマの一つとなったのが、警察や小売業者による顔認識技術の活用だ。具体的には、LFRと「RFR」(Retroactive Face Recognition:過去の画像や映像を使った顔認識)の活用方法が調査対象に上がった。

 調査結果を受けて、JHACは内務省に対し、小売業界における顔認識技術の懸念点を指摘する書簡を送付した。この書簡は、安全かつ倫理的な顔認識技術の使用、特に民間の小売業者が犯罪防止を目的として使用する場合の一般原則や最低基準を定める法律の策定を促すものだ。

 JHACによると、一部の小売業者は万引き犯のデータベースや監視リストを共同で作成している。ただしどのような犯罪行為や犯罪歴であればデータベースやリストに掲載するのかといった基準が定められていない可能性があり、さまざまな問題の温床になる可能性があるという。

 「警察への通報や当事者に対する通知がないまま、店舗警備員の裁量で個人が顔認識用の監視リストに登録されたり、地域内の小売店から閉め出されたりする可能性がある」。JHACは英内務省にこう報告した。

 JHACは以下の懸念も指摘している。

  • 法律に準拠せず、個人や集団の判断で個人に制裁を加える存在の出現
  • データベースや顔認識用の監視リストに個人を追加する過程のブラックボックス化
  • 誤った情報に基づいてデータベースや顔認識用の監視リストに個人を追加することで生じる人権侵害
  • 英国のGDPR(一般データ保護規則)の違反
  • 顔認識システムのアルゴリズムに存在する偏見(バイアス)による人物の誤認識

英政府と小売業者はどう協力できる?

 JHACは2024年9月、万引き対策としてLFRの効果は、安全性や倫理的な懸念から限定的になるという指摘を小売業者から受け取った。ただしこの懸念は、法整備によって解消できる可能性があるという。一方で、犯人を特定するために警察が小売業者と協力してRFRを利用することは、標準的な犯人特定手順として確立させるべきだとの意見もあった。

 英国の消費者協同組合Co-operative Group(以下、Co-op)で公共政策担当ディレクターを務めるポール・ジェラード氏は、JHACに対して同組織の取り組みをこう説明する。「われわれはリアルタイムでの万引き検出にLFRを使っていない。警察へ通報する際に、『CCTV』(閉回路テレビシステム)やスタッフが体に装着するカメラの映像を証拠として提出し、そのデータをRFRに使う」

 ジェラード氏によると、警察の中には小売業者が提供した映像を警察国家データベース(PND)の写真と照合するところもある。PNDには、警察が身柄拘束時に撮影した写真が数百万枚存在し、その大部分を内務省が違法な状態で保持している。「小売業者から提供された画像をPNDと自動的に照合することは、現時点では警察の標準的な手続きとして確立されていない」と同氏は指摘する。

 2023年10月、英政府は小売業者と警察が連携して万引きを防止するプロジェクト「Project Pegasus」を始動した。同プロジェクトは、Co-opをはじめとする英国の小売業者14団体と警察がCCTVの映像を共有し、RFR用のソフトウェアを使って処理したデータをPNDと照合できるようにしている。

 Project Pegasusの取り組みについて、JHACは「組織的な犯罪対策を進展させるもの」だと評価する。同プロジェクトが地域規模の小規模な窃盗や常習的な万引き犯ではなく、組織的な犯罪に特化していることから、今後のプロジェクトの継続と、内務省による1年間の資金援助を受けるべきだとの意見も示す。

 JHACは小売業者が迅速に通報できるようにするための効率的な通報システムの開発も推奨している。具体的には、小売業者で窃盗が発生した際、PNDをはじめとする犯罪の管理システムに識別用のフラグを立てられるようにする。

TechTarget.AIとは

TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

ITmedia マーケティング新着記事

news132.jpg

ハロウィーンの口コミ数はエイプリルフールやバレンタインを超える マーケ視点で押さえておくべきことは?
ホットリンクは、SNSの投稿データから、ハロウィーンに関する口コミを調査した。

news103.jpg

なぜ料理の失敗写真がパッケージに? クノールが展開する「ジレニアル世代」向けキャンペーンの真意
調味料ブランドのKnorr(クノール)は季節限定のホリデーマーケティングキャンペーン「#E...

news160.jpg

業界トップランナーが語る「イベントDX」 リアルもオンラインも、もっと変われる
コロナ禍を経て、イベントの在り方は大きく変わった。データを駆使してイベントの体験価...